Event Report
Shohei Yoshida×Katsumi Kumakura×Shintaro Uchinuma

吉田昌平『新宿(コラージュ)』(NUMABOOKS刊)刊行記念トーク、吉田昌平×熊倉桂三×内沼晋太郎「アートブックの印刷とデザインの話:『新宿(コラージュ)』を中心に」

AREA

東京都

新宿

森山大道『新宿』(月曜社、2002年)。『新宿(コラージュ)』には吉田氏がこの写真集1冊をすべて用いて制作したコラージュ全点を掲載している。

印刷物のコラージュを、また新たな印刷物に

内沼:写真ではなく、写真“集”のコラージュをまた印刷物にするとき、印刷の面ではどういう難しさがあったのでしょうか?

熊倉:印刷物をまた印刷物にする。このことは第一の課題としてありました。印刷物というのは規則正しく並んだドットで表現されています。それをスキャンして、またドットで表現しようとすると、モアレが起こってしまうんです。それは印刷屋として絶対に引き起こしてはいけない。そこで、今回は「FMスクリーン」という手法を使っています。元の印刷物のドットをさらに小さなドットで印刷していく。そうすると、モアレは出なくなるのです。

内沼:印刷方式として「AMスクリーン」と「FMスクリーン」があって、AMはドットの大きさで濃淡を表現するけど、FMはドットの間隔で濃淡を表現する、ということですね。

吉田:こちらがリクエストした4種類くらいの用紙でテスト刷りをしていただきましたが、「こんなに作品と印刷物とで見間違えるくらいの精度で印刷できるんだ」ということに驚きました。糊の跡とか指紋とか、むしろ原画よりよく出ているものもあったりして(笑)。スタッフの方も一回、作品の現物と印刷を見間違えたんですよね。作品だと思って触ったら印刷物で。それぐらい、今回は再現度が高かったんです。

テスト刷りと作品現物を並べて比較しているところ

テスト刷りと作品現物を並べて比較しているところ。左が作品、右が印刷。

最後の決め手は“色っぽさ”

熊倉:今回、モノクロの作品ということで、ダブルトーン、もしくはトリプルトーン(*2)で印刷設計をしようと思い、テストを行いました。

*2:通常、写真集などのカラーの印刷物はCMYK(シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック)の4色のインキを使って印刷を行うが、ダブルトーン、トリプルトーンはそれぞれ2色、3色(色については本文後述)で印刷を行う。モノクロの印刷物で使用されることが多い手法。ページごとの色のブレを軽減でき、スミの濃い部分を豊かに表現することができる。

内沼:ダブルトーンとトリプルトーンというのは、今回の場合は印刷時に黒(スミ)を何色使うか/何回刷るか、ということですよね?

熊倉:そうです。一般的なダブルトーンですと、スミとグレーで一回ずつ印刷をしますが、僕はダブルトーンではスミとスミ、トリプルトーンでもスミ・スミ・スミで印刷します。そうすることで最シャドー(絵柄の一番濃いところ)の力強さが最大300%で出せます。インキの重なり具合でディテールを強調できるし、通常ではベタッとつぶれてしまうところもきちっと表現できます。その代わり、3色スミのトーンカーブを作る(版の調整をする)のがとても大変な作業になります。きちっと調整しておかないと、中間からシャドーから、みんなつぶれてしまう。その調整を独自の方法で行っています。今回、最終的にはダブルトーン+半マットニスという3色を使って印刷しています。「シャドーの中のシャドー」というテーマで挑みました。

吉田:トリプルトーンのほうがダブルトーンに比べて力強かったのですが、実際の作品に近いのはダブルトーンでした。

山田写真製版所の富山工場での印刷立ち会いの様子

山田写真製版所の富山工場での印刷立ち会いの様子。

用紙も最後まで悩みました。最初は真っ白い紙のほうがメリハリが出るので、モノクロ印刷には向いているのではと思っていたんですけれど、実際はちょっと黄色い、「ニューエイジ」という紙を使いました。そういうちょっと黄色い紙の方が、色っぽく見えたんです。

熊倉:かつ、少しマット系の用紙ですね。ニューエイジは。

吉田:そこも勉強になりました。森山さんの過去の写真集の本文用紙はちょっと黄色っぽいものが多くて、それはどうしてかなと思っていたんです。

熊倉:(黄色っぽく見えるのは)スミとグレーのダブルトーンで印刷していることにも関係があるかもしれません。

内沼:本になったときに、吉田さんはどうお感じになりましたか?

吉田:もう、立ち会いのときに見すぎてて正直よくわからなくなってきているんですが(笑)、仕上がりは素晴らしいものになったと思います。そもそも、本と作品は違うものですから、同じにしたいという考えでも僕はありませんでした。ただ、この本を手に取って読むときの重さや柔らかさ、そういった感触を皆さんにどう感じてもらえるか、というのは楽しみです。

熊倉:紙の風合いもあるし、五感に訴える印刷物になったかなと思います。

吉田:紙の柔らかさも最後まで悩みました。束見本(印刷・製本前に本の体裁を確認するためのテスト製品)をいくつも作っていただいて…。結果、本を持っているときの印象を重要視して仕様を決めました。今回デザインも真っ白なんで、そこはきっちりこだわりたかったところです。

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「真っ白い本」の理由