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Takashi Homma × Noguchi Rika

対談 ホンマタカシ×野口里佳
時代に逆行し普遍性を生む削ぎ落としの美学

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東京都

野口里佳「海底」2017年

野口里佳「海底」2017年 Cプリント © Noguchi Rika

野口里佳は「効率がいい」

ホンマ:野口は新しいものに自分が到達したことに対して意識的だと思う。ほかの作家は、いまやっていることが自分にしかできないことなのかどうか、新しい提案なのかどうかわからないんだよね。だからどんどんいろいろなことをやってしまうんだと思う。野口の場合は、早い段階で見つけられているよね。『創造の記録』に収録されている初期作品もかっこいいけれど、これを作品集にしていいんだという確信を意識的に持てる人はなかなかいない。でも、野口は初めて会ったときからなんか自信満々だったよね?(笑)

『創造の記録』野口里佳

『創造の記録』野口里佳(roshin books、2017)

野口:そうですね。意識的だったかどうかはわからないけど、最初から根拠のない自信がありましたね。作家は思い込む力が必要だと思うんですよ。自分のしていることがすごいと思う力。

ホンマ:そういうところがあるよね。それと今回改めて思ったけど、野口は「効率」がいい(笑)。撮る量も少なくて、自分にしかできない範囲で最大の効果を生んでいる。みんなもっと野口の効率のよさを評価すればいいと思うんだけど。

野口:これまでも同じようなことをいわれたことはありましたけど、ここまではっきりといわれたのは初めてです(笑)。

ホンマ:写真の世界って「もっと頑張らなきゃ」って感じじゃない?こんなにたくさん大変なことをしましたっていう成果を見せる写真家も多いけど、野口は違う。

野口:結構頑張ってますよ!(笑)。今回だって、三脚を持って夜に潜ってるんですよ。撮影中サメに会ったりもしましたし。

ホンマ:いや、絶対効率がいいと思うよ。ベルリンで撮っていた「鳥の町」も、あれだけの企画であれほど見せられるというのは素晴らしい。ほかの写真家たちは大変なんだよ、もっと苦労して……(笑)。

野口里佳「A Town of the Birds #4」2015年

野口里佳「A Town of the Birds #4」2015年 Cプリント © Noguchi Rika

野口:私も苦労しているつもりなんですけど……(笑)。

ホンマ:でも、本当に正しいと思いますよ。最近、若い作家のポートフォリオレビューをすると、みんなたくさん撮ったら撮りっぱなしで、どれがいいのかもわからないし、どうまとめればいいかもわかっていない人がすごく多いから。

野口:それは最近の特徴ですよね。昔は少なくともプリントするために選ばなくてはいけないから、そのときに考えざるをえないじゃないですか。プロセスが簡単になってしまった結果、選ぶという行為も曖昧になっている気はします。ときどき「考えずに撮れ」っていう言葉を勘違いしている人がいて。その言葉自体は散々考えた結果に出てきたものだから、ただ考えずに撮ればいいわけじゃないぞと思うときはあります。最低限、撮ったあとには考えないと。

ホンマ:その点、野口はそのことに対して最初から意識的だと思うんだよね。「潜る人」からキャリアが始まっているということは、最初から考えて撮ることに対して意識的だったってことだもんね。

ホンマタカシ

野口:私にとっては、ボリュームのある作品をつくるのは難しいんです。削っていく作業は全然苦ではないんですが。

ホンマ:削っていく作業って、日本の写真業界ではあまり意識されていないんだよね。考えてる人もあまりいないし、それをよしとしない風潮もあったりするから。

野口:でも、作品の点数が少ないから本をつくるのが難しくなっちゃうんです。『創造の記録』もそうですが、3シリーズくらいないと1冊の本にならない。私にとっては展覧会で発表することが前提なので。これまで考えたことがなかったけど、日本の写真家は、作品の点数が多いから写真集にしてまとめるのが合っているのかもしれないですね。

ホンマ:削ぎ落としていくことで写真の効果が最大化されるんだよね。だからもう少し野口の仕事をみんなが教科書にしたらいと思うんだけど。

野口里佳「座標感覚 #11」1993年

野口里佳「座標感覚 #11」1993年 Cプリント © Noguchi Rika(『創造の記録』収録)