Talk
Rinko Kawauchi × Sohei Nishino

対談 川内倫子×西野壮平
写真賞プリピクテ ノミネート記念
身体と偶然性、二人が語る写真についてのエッセンス

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V&A(ロンドン)での展示の様子

V&A(ロンドン)での展示の様子。© Prix Pictet, Robert Leslie 2017

―二人のアウトプットは違いますが、共通点としてミクロからマクロへと行き来するような視点の変化が挙げられるのではと思います。川内さんもこれまで、被写体に寄っている作品から、今回の「あめつち」のようにすごく大きな視点で生命のうねりを表現している作品までありますよね。対極的に被写体をとらえることは、ご自身の中でも意識されていますか?

川内:私の場合は初期の頃からそうですね。西野さんは俯瞰した視点を持ちながら、実はすごく緻密な作業をされていて、制作の中でも実際に視点が行き来している。私と西野さんは一見全然違う作品には見えるのですが、興味の範囲が近いと思います。

Rinko Kawauchi, Untitled, from the series

Rinko Kawauchi, Untitled, from the series "Illuminance" 2007

西野:僕は歩くことをテーマにしていて、自分の身体と視点の変化は常に意識をしています。ふと思い出したのですが、幼稚園の頃に銭湯にいったとき、僕には大きな湯船が宇宙空間のように感じたことが、強く印象に残っていて。その体験を撮影で見知らぬ場所に行った時にふと思い出したことがあったのですが、その圧倒的な空間に対しての記憶が実はいまの自分の制作とつながっているのかなって。

川内:私の場合は、滋賀から大阪に引っ越した4歳のときに、もう前の家には戻れないという現実にすごくショックを受けました。時間を止められないっていう人間の持っている宿命やせつなさは、いまの制作においても大切なテーマになっています。

―西野さんの場合は、歩く体験を作品化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

西野:小さい頃から絵を描くのが好きで、中学や高校時代もずっと描いていました。キャンパスに向かってコラージュしているいまの作業も同じで、紙やキャンバスの風景が変わっていく気持ち良さがあるんです。あとから気付きましたが、その頃の経験が、自分が歩いている軌跡によって作品を作っていることにつながっているのかなと。

川内:西野さんは手作業が好きだと以前話されていましたよね。かなり大変な制作作業だと思うのですが、それ以上に手を動かすことによる面白さや達成感があるのでしょうか?

西野:僕は物事を理解する際、何かしらの身体的なプロセスを取り入れていきたいんです。そうしないと自分の中で体験を消化できない。ひとつずつ記憶を巻き戻していくために、撮影後に自分で200〜300本ものフィルムを現像してコンタクトシートをプリントし、一枚一枚のコマを切って貼っていきます。非常に時間がかかるのですが、その作業を経ることで自分がいた場所の風景を思い出すことができるんです。

西野壮平の制作風景。

西野壮平の制作風景。

川内:そこは私も同じです。私の場合、暗室でプリントをしながら考える時間をとても大切にしています。手を動かして印画紙を触って作業することで、思考が整頓されるんですよね。撮影後、ある程度構想ができてからも、まとめていく作業に時間をかけたいタイプ。作品と密に過ごした時間を経て、自分の中でちょうど良いタイミングで手放す。ただ今回の新作「Halo」に関しては、いつもより長い時間がかかったので、いままでと少し違いますね。

『Halo』(2017年、HeHe)

『Halo』(2017年、HeHe)

『Halo』(2017年、HeHe)

『Halo』(2017年、HeHe)

西野:デジタルカメラで撮影されたことも関係していますか?

川内:そこは大きかったと思います。写真集の制作中、色校正が上がってからもいろいろと考えてしまいました。いま考えると、一回も自分の手でプリントを作っていなかったからかもしれません。

西野:僕自身もそうで、長い期間都市を歩いてエネルギーを費やすのは、その場所に対する敬意のような思いがあって、あまり急いで処理をしたくない気持ちがあります。

川内:肉体を使って写真を撮る行為と同様に、それを作品化していくプロセスが自分たちには大切。写ったイメージは、過去に必ず見た光景の証拠として残っています。イメージと記憶とをすり合わせていくと、記憶はだんだん曖昧になっていくんですよね。記憶を呼び戻しながら、自分なりにもう一回編んでいくことは、制作において一番の醍醐味でもあります。

西野壮平

西野:僕はコンタクトシートをカットして、それをコラージュのように貼り合わせて作品を作っているのですが、コンタクトシートから「選ぶ」作業は行なわず、すべて使います。自分の歩いた軌跡や自分の記憶を編んでいき、その重なりによって一枚の作品が完成しています。それを僕は多くの糸から織られるタペストリーのようなものとしてとらえています。

川内:私も意識的にはパッチワークをしているような気分で作っているのですが、実際のプロセスとしては西野さんの方がぴったりですね。私にとって編集作業は、新たに紡いでいくような感じ。編集することによって、一枚のイメージとは違う見え方を生んでいく。そういう面白さがありますよね。

西野:展示と比べると写真集を作るときの方が、編むという感覚は強いですか?

川内:そうですね。写真集の構成は、プリントをファイルにいれてダミーブックを作るのですが、自分の手元で考えられますし、実際の距離感も近いので見え方が違いますよね。編むという感覚は写真集のほうが強いかもしれませんが、展示においても同様に1枚で完結しない空間を目指しています。今回のグループ展はスペースに限りがあったので、構成を考えるのはとても難しかったですね。