REVIEW: EXHIBITION

一万年の時を超えて

田附勝「魚人」

2015.Feb.4

TEXT: TOMO KOSUGA

 MASARU TATSUKI

MASARU TATSUKI

01山を駆けた男が大海を臨む

 出刃包丁でブツ切りにされたような、魚のクローズアップ。ギョロリと睨む大きな眼からは憤怒の情がほとばしる。魚食をテーマにした写真展「魚人」は、これまでデコトラや東北を追いかけてきた写真家・田附勝によるもの。青森県八戸市からの依頼で2014年5月から7カ月間にわたって、八戸沿岸部の人々やその暮らしを撮影してきた。

 4つの壁で構成された本展。ふたつの壁が額なしの直貼り組写真、そして残りふたつの壁がそれぞれ陸と海を象徴する写真1枚。まず会場に入ってすぐ目に入る中央壁を注目する。大中小とサイズの異なるプリントが組み合わさって集合体を成し、遠目にはそれが大きな魚のようにも見える。まるで正体不明の巨大魚が、壁一面を優雅に遊泳するかのようだ。そのウロコならぬ1枚1枚の写真には、魚介類のみならず、漁師や海女たちといった現地民たちの姿もうかがえる。この巨大魚から立ち現れるのは、八戸市に暮らすハマの人たちの営みや風物。

 写真展の案内には「魚と人の、命と命が交じり合う」とある。それは「魚と人の契(ちぎ)り」とも言えるだろうか。

 この地における魚と人の歴史を見ていくと、ゆうに縄文時代までさかのぼれる。広く青森県でいえば、縄文前期の三内丸山遺跡。八戸市に限定しても、国の史跡に指定された縄文時代早期後半の長七谷地貝塚縄文晩期の是川遺跡など、とりわけ魚介類との関わり合いを示す跡が出土している。この地に人々が文明を築き始めたのとほぼ同時期から、人と魚の契りは途絶えることなく今日この日まで脈々と受け継がれ、人々の暮らしを支えてきたことがうかがえる。

 本展と縄文の関係について、田附に話を聞いた。

「陸の組写真の中央に展示した大きな畑の写真の真下に、縄文土器のカケラがあるだろ? これ、八戸の畑から実際に出てきたものなんだよ。八戸が縄文時代から人が暮らすのに十分環境の整った土地だってことを示してる」

 田附は確かに、レンズの先に縄文を見つめていた。縄文時代といえば、数千年の時を超えた、はるか昔。そんな時代をおもんぱかるなんて無理難題と思いがちだが、田附が写真を通して挑むのは「時の超越」だ。

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 今回のメインカットを見よう。魚の頭を胴体から指で千切るという、なんともインパクトある場面を写し出したものだ。これは「手開き」と呼ばれる、魚の立派な捌きかたである。

「包丁でアタマを切ると、一緒に切られた内臓がドロドロッと出てきて大変じゃん? でもこうやってアタマを千切ると、内臓もスルッときれいにとれるんだよ。昔はこういうふうにやっててね……ってハマの人が懐かしみながら、手開きをやってみせてくれたところを撮った」

 貝塚から発見された骨からは、縄文時代の人々もイワシを食べていたことが判明している。縄文人ももしかするとこんなふうに手開きでイワシを捌いていたかもしれない。そう考えると、縄文時代と現代がぐっと近づいたように感じられる。つまりこの写真が教えてくれるのは「八戸一万年の普遍」なのである。

2に続く

Information

「魚人」

フォトグラファー:田附勝 

会期:1月24日(土)~2月22日(日)

会場:八戸ポータルミュージアム はっち

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