Interview
Yoshihiko Ueda

上田義彦インタヴュー
赤い林檎との親密な残像を求めて

AREA

東京

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展示風景

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白い印画紙の余白部分も含めた全体が作品

―今回の作品の大きな特徴として、林檎の木の画像のサイズは小さいのですが、その周りの印画紙には、余白のような白いスペースが大きくとられています。つまりプリント全体のサイズとしては大きいわけですが、これも上田さんとしては必然性があってのことですよね。

この小さい写真だけでいいじゃないかと思われるかもしれません。ここが、言葉で説明ができない部分ではあるのですが、それでは僕が思っているものと全然違うものになってしまうということは、すごくはっきりしていました。例えば、ある大きさから縮小していったというプロセスも、理由のひとつかもしれません。この印画紙の余白がないと、画像がこのサイズである根拠がなくなってしまう。

―この白い部分に暗室でのプロセスが残っているということですね。

そうです。実は全部を含めてこの作品だと思っているので、「余白」と呼ぶのが相応しいのかわからないですが。

―林檎の木のイメージ自体は小さくなっていますが、写真全体のイメージとしては余白部分を含んでいると。そうなると「余白」という言い方は違うかもしれないですね。

そうですね。あの広さの余白がないといけないのですが、デザインだと思われても違う。だから、いい言葉を見つけないといけませんね。

―1枚の大きな横長の印画紙に、小さなイメージが2~3点配されている作品もありますが。

そうですね。1本の林檎の木を3枚の写真で構成しているものは、それぞれ1点ずつでも独立した作品になり得るのですが、今回はあえて3連の作品として1枚の印画紙にプリントしました。

―複数のイメージを1枚の印画紙に現像するのは、技術的にはかなり難しいのではないかと思うのですが。

暗闇の中の手作業で、機械がやったかのように正確な位置にプリントしないといけないので、そもそも技術的に難しい。暗室内でライトはつけられませんから、1枚目の露光が終わったら、指先の感覚だけを頼りに紙だけ横に動かして、引き伸ばし機のフィルターの数値を変えてと、暗闇の中、手探りでやります。今回、作品のエディション数は3枚にしたのですが、カラーの現像はその日の温度や液の状態のわずかの違いに影響されてしまうので、同じ条件で一度にプリントしないといけないから、根を詰める大変な作業でした。何でこんなこと思いついてしまったのか、と(笑)。

フレームではなく透明な箱に印画紙を閉じ込める

―そうして完成した写真は、また特殊なアクリルのケースに入れられています。

今回、フレームもすごく難しかった。余白としかいいようがない印画紙の白い部分を含めての全体、その真ん中に画像がある。その意味というのが、普通の額装にすると消えてしまう。つまり、この余白はただの余白ではないということなのですが、そこにフレームをつけてしまうと、なんだか急にデザインしたような計算された見え方をし始める。フレームを付ける前に見ていた感覚と全然違ってしまって、要するに、誤解が生じてしまう。

―それまでの試行錯誤が水の泡になってしましますね。

まったくその通りで、ものすごくイライラしました(笑)。次にアルポリック貼り(アルミの合板をプリントの裏に張る手法)を試してみましたが、今度は裏打ちしたフラットなアルミの影響を受けていきなり金属的なサーフェイスを現しはじめ、表情が変わってしまった。やはり、僕は印画紙を感じ取りたい。それで思い浮かんだのが、以前、東京大学と一緒に取り組んだ「マニエリスム博物誌」シリーズの写真集で作ったアクリルの箱でした。印画紙そのものを、昆虫採集の標本のように中に閉じ込められないかと思ったのです。

―枠で囲むのではなく、透明な箱に閉じ込めるという発想ですね。

突然ひらめいたのですが、これはこれまでのプロセスと道理に合うので、うまくいくのではないかと思いました。ただ、プリントを挟むアクリルの隙間が1mm程度しかなく、作ってくれる工場も初めてのことで大変だったようです。実際できて印画紙を入れてみたら、まさに僕が思ったような見え方で、写真を閉じ込めることができていると感じました。最終的には、このアクリルのケースも一体でひとつの作品になったと思えた。昨年の秋に撮影してから展示まで、約1年間くらい作業しましたが、撮ることだけでなく、伝えることについてより考えるようになりました。

―上田さんにとって撮影と暗室作業というのは以前から重要だったと思いますが、それらと同じくらいの比重になったと。

そうですね。写真の展示の方法はいろいろありますが、それらを機械的に選ぶのではなくて、それが持つ意味を含めて伝わるようにするにはどうしたらいいのか、相当考えないといけない。あたりまえのことなのかもしれないですが、まさにそういうことを1年やっていたのかなと思います。

展示風景

―今回の展示会場が、写真ギャラリーではなくて現代アートギャラリーであるのも納得しました。

こちらの意図がほとんど誤解なく伝わる場所だと思いますし、このギャラリーで展示ができたことは、僕にとっても作品にとっても、とても嬉しいことでした。

タイトル

「林檎の木」

会期

2017年12月2日(土)〜2018年1月13日(土)

会場

小山登美夫ギャラリー(東京都)

時間

11:00~19:00

休廊日

日月曜・祝日、12月29日(金)〜1月8日(月)

URL

http://tomiokoyamagallery.com/exhibitions/yoshihikoueda2017/

上田義彦|Yoshihiko Ueda
1957年兵庫県生まれ。写真家福田匡伸氏、有田泰而氏に師事した後、1982年独立。エディトリアルワークをきっかけに、広告写真やコマーシャルフィルムなどを手がけ、東京ADC賞最高賞、ニューヨークADC賞等、国内外の代表的な国際デザイン賞を多数受賞。作家活動は独立当初から継続し、2014年に日本写真協会 作家賞を受賞。2017年までに33冊の写真集を刊行。2011年よりGallery 916を主宰し、写真展企画、展示、写真集の出版をトータルでプロデュースしているます。現在多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授。

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