13 February 2017

Book Review
Nigel Shafran

5つの物語が描きだす「喪失」と「再生」
ブックレヴュー『DARK ROOMS』ナイジェル・シャフラン

13 February 2017

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ブックレヴュー『DARK ROOMS』ナイジェル・シャフラン | Dark Rooms

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昨年MACKから刊行された『Dark Rooms』は、ナイジェル・シャフランが2005年から取り組んでいた5つのシリーズを中心に構成されている。『Dark Rooms』の編集方法において、シャフランはこれまでにない試みを行なっている。彼の名を一躍広めた『Ruthbook』から始まり、以降の写真集と比較しながら、シャフランの写真集制作の真髄に迫る。両親との別れを経て、「暗い部屋」と名付けた本作で見つけたものとは。

レビュワー:河野幸人
企画:twelvebooks

イギリス出身の写真家、ナイジェル・シャフランは、1980年代後半にヨーガン・テラーやコリーヌ・デイ、デイヴィット・シムズらとともにロンドンの『i-D』、『THE FACE』、『Dazed & Confused』誌などで活躍した写真家の一人である。現在ではファッションフォトグラファーというよりは、ギャラリーや美術館で展示を行う写真家として認知されている。1995年に自費出版したパートナーのルースとの生活を記録した写真集『Ruthbook』は、彼のキャリアのターニングポイントとなっただけでなく、写真家と被写体の関係性を捉えた名作として写真集の歴史にもその名を深く刻んだ。

そして2016年、MACKから自身8冊目となる写真集『Dark Rooms』が出版された。本書は『Ruthbook』や、同じくパートナーを題材に制作された『Ruth on the phone』のようにひとつのシリーズから構成された一冊ではなく、シャフランが2005年から取り組んでいた未出版の5つのシリーズを中心に構成されている。

スーパーのレジのコンベア上を流れる商品を撮影した「Supermarket checkouts」、エスカレーターを降りる人々を横からの目線でとらえた「Paddington escalators」、どこか物悲しさを感じさせる介護用品ショップのシリーズの「Mobility shops」、母親が自宅で制作していた作品を撮影した「Mother’s work」、そして自宅の台所に積み上げられた空の容器を写したシリーズ「Packages」。これらの一見脈絡のないシリーズの要所要所に自宅の風景を差し込みながら、本書は淡々と展開される。本作が過去のものとは異なり、極めて光の少ない場所で撮影された写真を多く採用している点に気がつくであろう。本書の制作中にシャフランは両親を立て続けに亡くしており、その出来事が『Dark Rooms』に大きな影を落としているということは本人も認める通りである。一体その出来事とこれらの5つのシリーズ作品はどのような関係性にあるというのだろうか。 

Dark Rooms

Dark Rooms

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2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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