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こうした思いが、写真出版界の重鎮とは正反対のビジネスモデルを掲げて、独り歩きを始める決断となった。「Steidl社で流通、マーケティング、ビジネスを発展させるプロセスを学びました」「でも、実のところ大出版社というのは、一冊一冊の本はそれ自身の売上では成り立たない前提に立っているのです。書籍は、商業的な仕事やフォトグラファー自身の資金、クラウドファンディング・Kickstarterのキャンペーンなど、外部から流れこんでくる収入で支えられている。そういう仕組みには関心が持てなくて。一冊一冊の本にかかるコストを自分で出すことを可能にする仕組みを考えるほうが、ずっと面白いと思います」。
これがマックにとっての実存的な問いであることは明らかである。「フォトグラファーからはお金をもらいません。そんな出版はつまらないし、市場を軽視するような行為だと思います。出版というのは、完全に主観的なチョイスによるべきではないでしょうか。人生は短いですから、経済的な面だけでなく、感情的にも自分がやりたいと心から思える仕事しかやりません」。では、仕事の上での原則とはなんだろう。「仕事上の、人と人との関わりを大切にすることですね」と彼はいう。「この写真家はすごく有名で成功しているかもしれないけど、一緒に仕事をしたら最悪だろうなと感じて、プロジェクトを却下したこともありますよ」。
MACK社のマーケットで一番勢いがあるのは若者たちだという。MACK社の出版物を誰よりも購入しているのは、意外にも一日中スクリーンを見つめて過ごすデジタル・ネイティブたちなのだ。「これは、写真集がとても魅力のあるものだということの証明だと思います。デジタルメディアが氾濫したことで、かえってアナログなプロセスに回帰する人も出てきた。紙とインクのもつ不変の価値への再投資といってもよいでしょう。私自身も、この流れを好ましく思う一人です」。
International Photography Award(IPA)
「British Journal of Photography」が主催し、今の写真界で活躍中の才能溢れる写真家たちの作品を一度に見ることができる国際的な写真賞。世界中の写真家に作品の応募を広く呼びかけ、業界の名だたる専門家たちが審査員を務め、アワード受賞者には、ロンドン中心部にある最先端のギャラリー「TJ Boulting」で3週間の個展を開催するチャンスに加え、イギリス屈指のプロラボ「Metro Imaging」から 5,000ポンドの作品製作費が与えられる。また受賞者の作品は『British Journal of Photography』本誌とデジタル版に同時掲載され、世界中で毎月8千万点のファイルがアップロードされている最大手のファイル共有プラットフォーム「WeTransfer」上で全世界に向けても発信される。 ロンドン以外に拠点を置くアーティストが入選した場合、ロンドンへの交通費と宿泊先が提供されるので日本からの応募もし易い。応募作品については、テーマやフォーマット(フィルム、デジタル)、カメラの種類など制限は設けず、幅広く作品を受け入れている。今年で11回目の開催となった(すでに今年分の応募は終了)。
http://www.bjpipa.com
MACK
イギリス・ロンドンを拠点とする出版社。ドイツの出版社「Steidl」で約15年間にわたって写真集部門のディレクターを務めた経験をもつMichael Mack(マイケル・マック)によって2011年に設立。著名・若手問わず明確なヴィジョンをもつアーティストや作家、キュレーターと共に編集・制作されるハイクオリティかつ美しい写真集は、毎年数々の賞を受賞し、国際的に高く評価されている。2012年には写真集を出版したことの無いアーティストを対象とした「First Book Award」を「National Media Museum」とともに設立。アワード受賞者にはMACKによる写真集出版、流通サポートが行われ、写真集を起点とした若手アーティストの発掘・育成システムにも独自の手法で取り組んでいる。
http://www.mackbooks.co.uk
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