また、ここでアートバーゼル会場で気になったアジア人作家の写真作品を取り上げたい。
Blind Spot Gallery(香港)のブースに飾られていた蔣鵬奕(JIANG Pengyi)の新作「The Sun Matched with the Sea」は、アダルト雑誌から集めたポルノ写真をインスタントフィルムで撮影している。撮影後、プリントしてから写真が乾く前に折ったり、押したりなどのプロセスを得てこのイメージが作られている。一見すると何が写っているかはわからないが、抽象的なイメージに引き込まれる。
Image courtesy of artist and Blindspot Gallery
Leo Xu Projects(上海)の廖逸君(Pixy Liao)は、5歳若い日本人の彼氏Moroと作家本人によるセルフポートレイト。パートナーは年上であるべきだという中国文化で育ってきた彼女の現実のパートナーは、年下でさらに日本人。そこから自分と他者(彼氏)との関係性について探る作品制作が始まった。男女間の“普通”の関係とは、役割とは何なのか。そして愛とは何なのかを問う作品だ。
Pixy Liao, Kiss Exam, 2015(Experimental Relationship)
陈维(Chen Wei)は1980年代以降生まれの中国を代表する写真家の一人。今回のアートバーゼルでも、いくつかのギャラリーで作品が展示されていた。日本ではOta Fine Artsがリプレゼントしているが、静かで美しく構成された写真の背景には、中国の社会的な問題などが関わってくる。その背景を知ることで、イメージがより恐ろしいものにも見えてくる。
Galerie Rüdiger Studio(ミュンヘン)での陈维による写真作品。
アートバーゼル香港だけでも多くの写真作品が展示されてはいたが、香港における写真の現場は発展途上なのかもしれない。まず、香港のギャラリーで写真を中心に扱うギャラリーが本当にわずかなこと。また、そういったギャラリーの地元作家の扱いも多くはない。つまり、香港の写真家が作品を売って生計を立てていくのには難しい状況がある。ACOや細倉真弓が展示をしていたnomad nomadといった新しいスペースもあるが、常にオープンしているわけでもなく、ほかにカフェなどで展示をしているケースもある。マーティン・パーらが編集した『The Chinese Photobooks』(Aperture)に写真集『BLOCKS』が収録された香港の写真家ダスティン・シャムは以前自主ギャラリーThe Salt Yardを運営していたが、ニ年前に閉廊した。その後、写真集のディストリビューションや販売もしているが、「今後の見通しも厳しい」と語る。2015年からはブックフェアHK Photobook Fairも始まり、写真集を手に取る書店がないに等しい香港においては貴重な機会となっている。長い目で香港の写真・写真集マーケットを見ていく必要があるだろう。
今年、アートバーゼル香港と同時期に開催されたHK Photobook Fairの様子。
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行政のサポートも後押しする、中国写真シーンの現在
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