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では、香港以外の地域はどうなのか。文字数も限られているので、中国を少し取り上げて本記事を締めたい。中国は現在アート市場においても、米国と英国に次ぐ第3位の規模を誇っている(The Art Basel and UBS Global Art Market Reportによる)。経済的な動きも大きく、その流れに合わせて、行政やコレクターなどの個人の動きも活性化している。中国各地で公立・私立の美術館が建てられているのもそのひとつで、写真のマーケットにおいても同じといえる。『IMA』Vol.19でも取り上げてはいるが、連州や廈門といった写真祭はかなりの大規模で開催されている。さまざまな展覧会が写真祭内で企画され、数多くの写真家やゲストが招聘され、その多くの費用は主催者が負担する。つまり、行政が写真を始めとする文化事業に力を入れていており、中心となる施設さえも行政が設立することもある。ロンロン&インリが運営する北京三影堂写真センターは私設ではあるが、廈門に設立された支店は地元行政のバックアップによるもの。また、連州では、2017年11月に連州国際写真美術館がオープン予定になっている。上海写真芸術センターの規模はどんどん大きくなっているし、ほかに麗水などにも写真美術館がオープン予定など、80年代・90年代の日本の勢いをはるかに超えるスピードで物事が進んでいる。
中国の作家も活動の場を広げつつある。上述のような写真祭での発表の機会は増えているし、中国国外に拠点を置く作家も多い。若手を取り扱うギャラリーはまだ少ないものの、フォト上海といったフェアも開催されている。傾向としては、有名作家に偏りが出ているとのことだが、写真作品を購入するコレクターも徐々にだが増えてきている。
中国の写真集をめぐる状況では、これからを担う若い世代が中心的存在となっている。中国は政府の目が厳しく出版活動が制限されることもあるが、ヤンヨーが主宰するJiazazhi Pressは、国内外でさまざまな賞を受賞する注目の出版社。昨年の廈門での写真祭で開催された中国初の写真集ブックフェアもJizazhi Pressがディレクションを任されていた。地元・寧波市からのバックアップにより、2017年1月にはオフィス・書店・写真集図書館を設立した。ここでのイベントも今後企画する予定とのことなので、とても期待できる。Jiazazhi Press以外にも、Same PaperやImageless Studioなどの小規模出版社や自費出版する写真家が年々増えてきている。この勢いもいまのところ留まることを知らない。
表面的ではあるが、今回紹介したように、香港・中国のマーケットは写真を含めてどんどん規模が大きくなってきている。とても楽しみな反面、現在の日本の状況を見てみると悲しくなってくるようにも思う(だからこそ、前に進まなければいけないのだが)。コレクターの数をとっても、国内外で積極的に活動する写真を扱うギャラリーも決して多いとはいえない。国内のさまざまなところで写真祭は開催されているが、長期的な戦略をもった行政のサポートはないに等しい。これはまだまだやれることがあるという一方で、いまのうちからやるべきことをやらないと、近い将来写真文化を育むことがより困難な状況になるのかもしれない。日本国外の現場に足を運び、実際に肌で感じると、見えてこなかったことが見えてくるきっかけになるだろう。アジアにおける写真の現場はいま本当に面白い。
松本知己|Tomoki Matsumoto
T&M Projects 代表。書籍の出版やディストリビューションを手掛けるほか、イベントの企画運営や執筆など幅広く活動。2017年6月には志賀理江子写真集『Blind Date』を出版予定。
https://www.tandmprojects.com/
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