23 May 2017

Book Review
Katrin Koenning & Sarker Protick

現代化されたモノクロ写真
ブックレヴュー『Astres Noirs』カトリン・コーニング、サルカー・プロティック

23 May 2017

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ブックレヴュー『Astres Noirs』カトリン・コーニング&サルカー・プロティック | Astres Noirs

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『Astres Noirs』が他に類を見ないものになっている理由のひとつが、ベルギーのCassochromeが手掛けた印刷技術であり、黒い紙にシルバーのインクで印刷が施されている。その効果は、暗室でプリントしたモノクロ写真とは似ても似つかない。ここに表現されている光の力強さは、1993年にグラビア印刷されたブラッサイの『Paris de Nuit』の初版に匹敵するものがある。この本のページは本当に光り輝いているように見えるのだ。ぜひ図書館に行ってオリジナルを見てほしい。きっと目を疑うはずだ。

Astres Noirs

『Astres Noirs』も同じく、ページに光が宿っているように感じられる。光の量が何よりも勝っているページもあるが、それもまたよい。この一冊ではクラシックな印刷の持つ繊細さや、無限に近いトーンの表現の幅が必要とされているが、Cassochromeはそれに完璧に応えている。もちろん、ページの中のイメージに純粋な輝きを与えたいというときにもだ。生き生きとした印刷は、見るものを飽きさせない。印刷された写真たちもまた、黒いページに光の点が散らばっているだけの写真でさえも、全体としての統一性を失っていない。この本は全体でひとつの作品であり、しっくりとしたまとまりを感じさせる。

よくできた写真集というのは、形式、テーマ、動き、楽器の音色、そして何より情熱的な演奏など、全ての要素が上手く調和している優れた音楽と同じくらい、人の心をつかんで離さないものでなくてはならない。

この一冊は、ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲を思い起こさせる。ダークで激しく、ムーディーで力強い、ひとつの曲として存在感を放つ楽曲。『Astres Noirs』を生み出した4人の演者、息をそろえてこの写真集という名曲を美しく奏でることに成功した二人のフォトグラファーと二人の編集・出版者、それと、職人的な印刷会社にも大きな拍手を贈りたい。

タイトル

『ASTRES NOIRS』

出版社

Chose Commune

価格

7,500円+tax

発行年

2017年

仕様

ハードカバー/160mm×220mm/168ページ/セカンド・エディション

URL

https://twelve-books.com/products/astres-noirs-by-katrin-koenning-sarker-protick-second-edition

カトリン・コーニング|Katrin Koenning
ドイツ、ルール地方生まれ。写真家。元The Australian PhotoJournalist誌編集。土地や自身の持ち物を主にモチーフとし、ありふれた日常や日々の移ろいに興味を置きながら、移民であるアイデンティティーを醸し出すような作風が特徴。ドイツ国内だけでなく国外でも積極的に活動し、New York Photo Festival、Noorderlicht、Delhi Photo Fest、FORMAT、HeadOn、Voies Offなど主にアート・フェスティバルでの展示で世界的に知られる。また、出版物では「HIJACKED 3 – AUSTRALIA / UK」、「The Guardian」、「The New York Times」「GUP Magazine」「Der Spiegel」をはじめとする数々の誌面を飾る。2012 JGS Award(フォワードシンキング・ミュージアム主催)受賞。オーストラリア、メルボルン在住。

サルカー・プロティック|Sarker Protick
1986年、バングラディシュ生まれ。写真家。パッシャラ写真学校卒、同学講師。VII Photo Agencyメンバー。時間や場所をテーマとし、音や光を媒体とした作品に定着させている。 2014年、British Journal Of Photographyが毎年才能ある写真家に贈る「Ones to Watch」と世界報道写真ヨープスワート・マスタークラスに選出、翌2015年には作品『What Remains』で世界報道写真コンテスト受賞、PDN’s 30 2015にノミネートされる。また、ラトビア写真美術館やチョビメラ国際写真祭、ダッカ・アート・サミット、フォトケ・ビエンナーレ、ノーデリヒト・フォトフェスティバル、Grand Prix Fotofestiwal、Organ Vida国際フォトフェスティバル、Gibellina Photoroad、Paris Photoなど世界中で作品が展示される。

ロバート・ダン|Robert Dunn
ライター、フォトグラファー、教師。主な小説に「Meet the Annas」や「Stations of the Cross」がある。彼の写真集「OWS」、「Angel Parade」、「Meeting Robert Frank」は、International Center of Photography(国際写真センター)の常設コレクションに含まれている(詳しくはこちらのリンクから)。2017年春には、NYのNew School Universityで「Writing the Photobook」というコースを教えることになっている。

*本レビュー記事は、Photobookstore.co.ukに2016年7月26日に掲載されたものを、Photobookstore.co.ukおよびレビュワーの許可を得て、翻訳・転載しています。原文ページはこちら

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