本書では、キャンプの住人やボランティアが建てたにしては驚くほどしっかりした仮設住宅の写真、周辺地域の急激な変化が一目でわかる風景写真、住人達のポートレイトなど、さまざまなイメージを上手く使っている。ヴィルスフートの作品に一貫しているのは、堅苦しさとは無縁のシンプルで明確なアプローチだ。逆にいえば、対象に深い関心を持ち、わかりやすい表現を目指すことによって、主題とつかず離れずの距離を置きつつ、カレーの問題に対する写真家としての興味や関わり合いを作品に反映することに成功している。これらのイメージは、カレーの「ジャングル」における暮らしを詳細に描いた、全体としてひとつの力強いポートレイトとなっている。
「ジャングル」を頻繁に訪れることでヴィルスフートは、実際の時間軸とほぼ並行してキャンプの発達の過程を記録することができた。何もないところから店やレストランを数週間で作ってしまうなど、難民たちの生きる力の強さが、本書から伺い知ることができる。収蔵された写真には日付がついているが、イメージは日付順ではなく、キャンプのさまざまなエリアについて、またそれらが時間の経過とともにどのように変化していったかがはっきりわかるように並べられている。
本書のもうひとつの重要な要素となっているのが、ヴィルスフートによる「ジャングル」の住人達のポートレイトだ。これらのイメージは、悲壮感や批判的な見方を打ち出そうとするものではなく、人間の姿をとらえた写真であり、難民問題を象徴するイメージを作りたいとか、見る人を感動させてやろうというような意図は介在していない。もちろん、難民としての彼らの生活が非常に苦しいものであるということは火を見るよりも明らかであるが、同時に彼らはそれぞれ独自のバックグラウンド、性格、態度、希望、夢などをもった個人であるということがはっきりと見えてくる。『Ville de Calais』、すなわち「カレーの町」というタイトルが示しているように、本書は難民キャンプというよりもむしろひとつの都市、ひとつの地域のポートレイトのように感じられる。ヴィルスフートの作品において「ジャングル」の本質は、この土地に住む人々の悲劇や彼らの存在が社会に与えるマイナス効果などではなく、創意工夫によって逆境に立ち向かう住民たちのパワーにあると提示されている。
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ブックデザインに仕掛けられた本作の狙いとは
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。