Book Review
Henk Wildschut

ブックレヴュー『Ville de Calais』ヘンク・ヴィルスフート
難民たちのキャンプをドキュメントする人間的なまなざし

Ville de Calais

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デザインを担当したのは、ヴィルスフートの第一作『Shelter』を手がけたロビン・ウレマン。本書では、具体的・統計的な情報や、ヴィルスフートが実際にキャンプの住民から聞いた言葉など、このキャンプの状況が端的にわかる文章を含むページの切り抜きがイメージの間に織り込まれている。

オランダといえば革新的で斬新なブックデザインで知られているが、『Ville de Calais』もその好例だ。ここでウレマンが使ったような多層的なデザインというものは、かえってイメージの邪魔や妨げになることもある。しかし本書では、この手法が非常にシンプルで自然に感じられ、プロジェクトの複雑な内容を分かりやすく、人の心に響くかたちで伝えることに一役買っている。

Ville de Calais

テキストのレイアウトはもちろん、ヴィルスフートの言葉の使い方も本書の大切な要素のひとつ。写真作品からだけでなく、随所にちりばめられたキャプションからも、被写体を人間として尊重するヴィルスフートの姿勢を感じ取ることができる。また、非常に多くの情報が詰め込まれているのにも関わらず、冷たく客観的なジャーナリズム的な用語は一切使われていない。キャプションはいずれもメモや日記のような文体で書かれており、その時は自分のために書いた言葉を後になって共有することにしたのだろうと想像される。例えば2015年2月25日に撮影されたイメージには、「フェリーターミナルに向かう道沿い一帯は砂丘になっているが、ここは昔ゴミの埋め立て地だった。そこを何人かの少年が歩いていた。彼らは一体何をしているのか不思議に思い、シャッターを切った。その時点では知る由もないことだが、この辺りは後に「ジャングル」の北の端となる。これはここで撮った最初の一枚だ」というキャプションがついている。

ヴィルスフートは、自分自身が「ジャングル」で体験したことを共有することで読者をこの場所のリアリティに引き込んでいくが、上記のようなキャプションからもそれがよくわかる。彼の言葉の使い方は、冷たくもお涙頂戴でもなく、私達が酒の席で友人相手に一枚の写真にまつわる話を語るときと何ら変わりのないものだ。

本書の終わりの50ページは、「ジャングル」の構成要素を視覚的にまとめた『Landmarks』というタイトルの章になっている。ヴィルスフートはキャンプのさまざまな地域を写真に収め、それぞれが時間の経過と共にどのように変化していったかを記録した。ページをめくっていけば、昨今の難民危機を考える際に重要な意味を持つひとつの地域について余すところなく記録した『Ville de Calais』という一冊の写真集の持つ重要性が自ずから明らかになってくる。

また本書の最大の強みは、普通の人が自分のこととして深い関心を持つことがあまりないような非常に複雑な問題を、どこまでも人間的なものとして取り上げたことにある。ヴィルスフートのものの見方は、他に類を見ない。

Ville de Calais

タイトル

『Ville de Calais』

出版社

私家版

価格

55ユーロ

発行年

2017年

仕様

ソフトカバー/280mm×210mm/320ページ

URL

http://villedecalais.nl/

ヘンク・ヴィルスフート|Henk Wildschut
1967年、オランダ・ハルデルウェイク生まれ。ハーグ王立芸術アカデミーで学ぶ。多くの長期的な自主プロジェクトに加えて、多数のオランダ語雑誌やデザイン・通信事業の代理店向けの撮影も行う。港湾労働者、非合法移民、ランナーなどを被写体としたシリーズ作品を手がけるとともに、ヘルト・ウィルダースやペーター・バルケネンデなど、多くの著名なオランダ政治家の肖像も撮影してきた。2005年から撮影を開始した「シェルター」シリーズは2010年に写真集『Shelter』、映像作品「’4.57 Minutes Back Home’」としてまとめられた。2011年、『Shelter』で2009/2010年オランダ最優秀写真集としてキース・シェーラー賞、ダッチ・ドック賞のドキュメンタリー・プロジェクト部門最優秀賞を受賞。その後アムステルダム国立美術館の制作依頼から始まった食糧をテーマとした作品『Food』を発表。現在ヴィルスフートはかつてのテーマ、移民と難民という主題に立ち戻っている。アムステルダム、シドニー、上海、北京、ロンドン、プラハ、ローマ、ハーグ他、世界各地で展覧会を開催。
http://www.henkwildschut.com/

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