カラフルな鳩レースを撮った『Paloma al aire』(2011年)で一躍注目を集めた、スペインを代表する写真家、リカルド・カセス。新作『Estudio elemental del Levante』では、一番身近な環境であるスペインのレバンテ地方を舞台に、ここ10年をかけてイメージ同士がもたらす視覚言語を探求しながら、写真集でしかできないイメージのレイヤーを生み出している。
ビーチとパエリアという古典的なアイコンを越えて、もっと深くこの土地の特徴に着目し、音楽バンド、ヤシの木、建設業というシンボルを見つけたカセス。そこから発展して、東南アジアからやってきたヤシオオオサゾウムシがヤシの木に寄生すると、木はたちまち枯死するという、もうひとつの物語に行き着く。最終的にこの写真集の中心となったのは、ヤシの木、吹奏楽隊、そしてヤシオオオサゾウムシという3つの要素。これらは現代スペインのシステムの崩壊、暴力、衝突を心象地図として描かれている。それぞれの要素が合わさることで不協和音が誘発され、この末期的状況における警鐘として、耳障りな金属音がイメージから発せられる。
本書では、ページ内で写真の一部分が繊細に切り抜かれ、イメージの隙間を通してもうひとつのイメージが現れるという特殊な製本を試みている。イメージが重ね合わさることで、表紙が象徴する錯乱した楽譜の混沌とした構造が露わになる。『Estudio elemental del Levante』は、終焉を楽しむためのレクイエムのようでありながら、乾いた土地にもたらされたエキゾチックなモチーフの連鎖は、私たちの想像を掻き立ててやまない。
タイトル | 『Estudio elemental del Levante』 |
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出版年 | 2020年9月下旬 |
価格 | 3,500円+tax |
仕様 | ハードカバー/237mm×160mm/カラー図版51点(部分的にイメージを切り抜いている箇所あり) |
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