世界同時多発的に写真集ブームが起こった2010年代、作り手は増加し、受け手の見る目はどんどん成熟していった。ブームのピーク、そしてコロナ禍を経て、現在の若手作家が生みだす新しい写真集は、どう変化しただろう？ 『IMA』vol.39の関連記事第4弾は、写真集のプロフェッショナルたちが2020年以降、35歳以下の作家が出版した写真集を、さまざまなテーマのもと3冊ずつ紹介する「若手作家による2020年代のベスト写真集」の企画から、須々田美和を選者に迎えたセレクトを紹介する。個人的な出来事が落とし込まれた写真集は、インディペンデントな枠組みを超えた多くの人々にその体験を届けている。
セレクト・文＝須々田美和（Dashwood Booksマネジャー）
写真＝森山綾子
目次
「若手作家が自らの手で作るプレイグラウンド」
コロナ禍において新進作家がとったアクションの中で特に目を引いたのは、自費出版もしくはインディペンデントな出版社からより自由に、そして迅速に作品を発表するという動きだった。もちろんリスクも負うことになるが、大手の出版社では叶えるのが困難であった、作家自身のアイデアと責任で編集や本の仕様を決めたり、よりプライベートなテーマを探求したりすることがアーティストブックでは可能となる。また、今回取り上げる3冊に共通しているのは、作家自身がSNSなどを使って積極的に行ったプロモーションによって、多くの注目を集めることに成功している点だ。ここでは話題の若手作家によるアーティストブックを選び、それぞれのアプローチの仕方を検証する。
『Photographs 2022』 Jack Davison（自費出版、2022）
ジャック・デイヴィソンが年1回のペースで出版しているアーティストブックの第2弾。新聞紙のような粗い紙の質感と、鮮やかながらも曖昧な色味で光と影を強調したデイヴィソン特有の幻想的な写真が見事に融合している。アーカイブの整理を目的にスタートしたプロジェクトで、本作はSNSなどで既に発表した人物、建築、花、オブジェなどの商業写真や、妊娠しているパートナーを撮影した未公開のプライベートショットなどが収録され、作家本人が選ぶベストな写真の組み合わせを堪能できるファン待望の1冊。
『La Luz También Viaja』 Genesis Báez（Matarile Ediciones、2022）
2022年のCapricious Photo Awardを受賞したジェネシス・バエズによる初の写真集。アメリカ在住のプエルトリコ移民2世として、コロニアリズムがコミュニティや人々の記憶に与える影響に向き合う。本作では、水と鏡が象徴的なモチーフとして登場。どこへでも分散する水は、人種の国境を超えた広がりを、粉々に割れてもその破片が何であるか一目瞭然の鏡は、母国を離れて散り散りになってもオリジナルの文化が消え去ることはないことを表す。期待の新人は、今後もふたつの文化をまたぐ作品を生みだしていくのだろう。
『Space Moves Like the Surface of the Sea』Stef Mitchell （自費出版、2022）
自由と希望に満ちあふれたユースカルチャーをとらえ、ファッションの分野で活躍するステフ・ミッチェルの5冊目となるZINE。元パートナーでスタイリストのシドニー・ローズ・トーマスとモデルのフライヤ・ベハ・エリクセンと共同制作し、コントラストの浅いモノクロ写真と手書きの短い詩、ドローイングが収録された。鎖、マスク、縄などを小道具として使用しており、コロナ禍の閉塞感やレズビアンである3人のセクシュアリティに対する考察がうかがえ、パーソナルな視点が重視されている。
Photo: Ayako Moriyama
Photo: Ayako Moriyama
Photo: Ayako Moriyama
Photo: Ayako Moriyama
須々田美和︱Miwa Susuda
2006年よりDashwood Booksのマネジャー、Session Pressのディレクターを務める。2021年より、ニューヨークのPenumbra Foundationでワークショップの講師、Parsons School of Designの写真学部のポートフォリオレビューのアドバイザー、2022年度のThe Paris Photo–Aperture Foundation PhotoBook Awardの審査員を務める。
https://www.dashwoodbooks.com/
-
IMA 2023 Spring/Summer Vol.39
特集：混迷する世界を駆ける若き才能
