“全ての人はクィアなんです”トーガ青山で岡部桃展開催中

見るとちょっとどきっとしてしまうような写真が並ぶ岡部桃の個展。トランスジェンダーらの肉体に迫った写真は1人の人間の中で身体と精神とがぶつかり合う、生々しさに満ちている。

「自分の中にずっと流れているある映画のいち場面に現実で出会ったら、それをただ撮影して、作品になっていきます」と岡部はいう。

彼女の写真集の一つに付けられたタイトル「イルマタル」はフィンランドの叙事詩「カレワラ」に登場する精霊の名だ。

「自分の物語を語ろうとは思っていません。写真にはそのときの世界の情勢や歴史を記録する役割がありますよね。他の人がもしかしたら目にしない、出会ったことのない、今生きている人たちの人生の断片をまとめたものを作りたくて。だから叙情詩ではなく、叙事詩なんです」

岡部はLGBTQなど、いわゆる“マイノリティ”の枠にくくられてしまう人々を被写体にすることが多い。しかし岡部は、彼らだけが“マイナー”なのではないと感じている。

「クィア（queer）という言葉の意味を実は知らないな、と思って調べてみたんですけど、元々は風変わりな、不思議なとか奇妙なという意味合いだったんですね。それって私が最初に感じた印象と全く一緒だと思って。24歳の時に付き合ったFTM（Female ​to Male、心は男性、身体は女性のトランスジェンダー）の子にカミングアウトされた時に、そんなこともあるんだね、人生ってそんな不思議なことも起こっちゃうんだね、という感覚でした。人間って皆すごい不思議な存在じゃないですか。私は人間全員がクィアだと思っています。今後、逆にLGBTQという言葉自体が無くなっていくのかなと、ちょっと思います。定義すること自体がそもそも間違っているのかなと」

岡部はこれまでに3冊の写真集を出版している。それらはリングノートに写真を貼り付けたようなものだったり、ヴェルヴェット地のような表紙だったりと、どれも独特の装幀が施されている。

「写真集はデザイナーには依頼せずに自分で直接、印刷会社にリクエストしています。もともと本を作るのが好きで、ノートにプリントを直接貼っていくアナログなスタイルで個人的に楽しんでいました。どんな装幀にするかは祖父が大切にしていた本など、実家に昔からある古い本を参考にすることが多いですね。自分が死んだ後も残る、大切にされる本になればいいなと思っています」

今気になっていることは人間の老いや死だという。

「自分も親も年をとってきたのを目の当たりにしていると、ちゃんと向き合って考えるべきときが来たのかなと思います」

岡部の写真に登場する人々は自分からは遠い存在と感じる人もいるかもしれない。しかし実際には彼女の言う通りあらゆる人がクィアであり、その意味では岡部の写真ほど普遍的なものはないのだ。