1985年に刊行されたエポックメイキングなポール・グラハムの写真集『BEYOND CARING』MACKより復刻

イギリス人写真家、ポール・グラハムの写真集『BEYOND CARING』がMACKより復刻・再版された。

1985年に自費出版された本書は、英国内の社会保障事務所や失業保険給付所の待合室や廊下で撮影され、長い待ち時間や行列、多大な負荷を課せられたシステムの劣悪な状況を記録することで当時の人々が置かれていた窮乏を伝えた力強いシリーズである。本作を制作するための正式な許可を得られなかったグラハムは人目を忍んで撮影を行ったため、構図が歪んでいる写真も多いが、その歪みが社会的な弱者のやり場のない苦悩を強調している。

本書が発売されると多くの人に衝撃を与えた。マグナム派の写真家たちは伝統的なドキュメンタリーというテーマにカラー写真を用いたことに激怒したが、その一方でアクティビズムと芸術という二つの世界にまたがる作品として各方面で絶賛され、労働組合の大会とニューヨーク現代美術館で展示された。グラハムは社会派ドキュメンタリー、ニューカラー派、ルポルタージュの要素を融合させて被写体に深く関わる新しいスタイルを作り上げた。そうして生み出された作品は今日でもその凄みを失っていない。制作当時の1984年から何十年も経った今、これらのイメージは写真作品としてだけでなく、80年代半ばにイギリスで巻き起こった失業危機をとらえたユニークな史料としてもますます重要な意味を持つようになっている。

本書はイギリスをテーマにした1980年代を代表する3部作をMACKが再版した中の1冊。