代表作『少女アリス』『ナディア』や雑誌や広告で多くの美女を撮ってきた写真家、沢渡朔。女性を撮らせたら右に出る者はいない。齢81歳でも被写体の瞬間をとらえるべくジムでのトレーニングを欠かさず、現役の伊達男の風格が漂う。創作意欲は衰えず、近年ではモトーラ世理奈を撮り、話題となった。1983年に撮影し、長い間お蔵入りしていたヌード写真をまとめた写真集『裸婦像』を昨年出版。沢渡の永遠の被写体としての女性への思いについて聞いた。
文=IMA
撮影=川島宏志
『裸婦像』(Akio Nagasawa Publishing、2020年)
―『裸婦像』、1983年撮影とは感じさせないモデルの雰囲気で、いま見てもみずみずしい印象です。
ありがとうございます。
これは当時、20×23インチの大型ポラロイドカメラで撮影するという企画が回ってきたんです。大体、新聞紙1枚程度の大きさですよ。アラブの石油王が作ったんだそうで、このサイズは世界に5台しかないとかいう触れ込みで。本当かどうか分かりませんがね(笑)。
僕のほかに森山大道さん、横尾忠則さん、池田満寿夫さん、深瀬昌之さん、石内都さんなどが持ちまわりで撮りました。僕も貴重な機会なので参加したんです。でも自分としてはあまり納得がいかなくて、30数年寝かしていたところを発見されて出版ということになったんですね。
―素敵な女性のヌードですが、どうして納得いかなかったんですか?
大型だから動かせないじゃないですか。構図が決まってしまいますよね。僕の良さはモデルが動くのに反応して、僕自身も動いて、その一瞬を切り取る。それが自分の写真だと思うんですけど、カメラがデカいからそうできないんですよ。
―なるほど。モデルはひとりの同じ女性ですか? カットによって別人のように見えます。
被写体は同一人物で、昔よく撮っていた子です。いま改めて見るともうちょっと何かできたなあと思いますね。もっっと寄るとか、もっとエロティックにとか。
ポラロイドフィルムも大型だから、一枚がすごく高価だったはずなんですが、何枚でも撮らせてくれたのでもったいなかったな。
―肖像画というか、絵画のように感じます。だから『裸婦像』というタイトルなんでしょうか?
タイトルは自分でつけたんですけど、普通で面白くないですよね(笑)。確かに油彩画をイメージしていたのかもしれません。この大型カメラ、本来は絵画など美術作品の修復用に使っているカメラらしいんですよ。
そういえば、藤原新也さんや石内都さんは動かせないから置いて、歩いてくる人を撮っていました。森山さんは渋谷の宮益坂に持って行ってシャッター切っていたけど、それでも森山写真になっちゃってるんだからすごいよね。
―いままで多くの女性を撮っていますが、作品で女性モデルを選ぶときの基準はあるんですか?
一緒になって作品を作り上げてくれる気持ちのある人。作品を媒介に対等でいられる人がいいですね。そういった意味では伊佐山ひろ子さんのヌード写真集『昭和』は一緒につくれた作品です。
1994年当時、女優にヘアヌードの依頼はギャラ数千万円が提示された時代です。それなのに彼女はノーギャラで参加してくれました。豪徳寺の廃墟となった元産婦人科の病院で撮影したんですが、面白いものをつくりたいからと放尿シーンとかハードな撮影もしてくれました。文章は彼女が書いたもの。彼女にとっても作品なんですね。
伊佐山ひろ子との共同作業で出来上がった名作『昭和』。
―そういった被写体との化学反応がないと撮れませんか?
いやいやそんなことはありません。でも1年に1回あるかないかという頻度で、とても良いなと思う女性に巡り会います。そういう方を撮っていると軽く恋しちゃうんですよね。最近ではモトーラ世理奈さんとか、今年週刊プレイボーイで撮ったフミカさんとか。だからモデルの良い瞬間を撮り逃さないように、40代からいまに至るまで、ジム通いを日課にしています。
―日芸の学生時代から女性を撮っていたとか。
ええ。僕の最初の個展は、篠山紀信との二人展なんですが、そこで横田基地で撮った作品を出しました。当時、詩人の白石かずこさんと交流があって連れて行かれて、黒人の人妻を撮っていました。あと、基地周辺のジャズクラブなんかね。
―人妻との化学反応は?
写真の中で、ですね、プライベートでは何も(笑)。写真集つくる方が創造的でいいですよ。
沢渡朔の女性作品集。左の2冊は『A girl at play』『モトーラ世理奈』
―『少女アリス』『ナディア』『モトーラ世理奈』など様々な年齢の女性の魅力を引き出しますよね。沢渡さんに撮られると、美しくなっていく気がします。
やはり女性は造形的にも圧倒的に美しいですしね。女性は年齢ごとの魅力がありますし、皆それぞれに個性を持っていれば美しいんです。少女であっても老女であっても、“女”ですよね。その魅力を引き出さなければいけません。引き出すには親しくならないと。親しくならないと心も体もさらけ出してくれません。たとえヌードであったとしても。
モデルがさらけ出してくれたとき、スパークが起こって、“女性を撮っていて良かった”と思いますね。
タイトル | 『裸婦像』 |
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出版社 | Akio Nagasawa Publishing |
発行年 | 2020年 |
価格 | 6,600円 |
仕様 | ハードカバー/207mm×217mm/56ページ/限定600部/サイン&ナンバー入り |
URL | https://www.akionagasawa.com/jp/shop/books/akionagasawa/rafuzou/ |
沢渡朔|Hajime Sawatari
1940年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、日本デザインセンター勤務を経て、1966年にフリーの写真家として独立。ファッションフォトグラファーとして活躍する傍ら、数々の雑誌で作品を発表。作品集に『NADIA 森の人形館』『少女アリス』(1973)、『蜜の味』(1990)、『60’s 』『60’s 2 』(2001)、『kinky』(2009)、『Nadia』(2016)など多数。