13 May 2022

地域密着型プロジェクトを通して考える、
エコロジカルな写真の未来
Vol.1 メリデル・ルベンスタイン

13 May 2022

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地域密着型プロジェクトを通して考える、エコロジカルな写真の未来 Vol.1 メリデル・ルベンスタイン【IMA Vol.37特集】 | 地域密着型プロジェクトを通して考える、エコロジカルな写真の未来 メリデル・ルベンスタイン「The Eden in Iraq Wastewater Garden Project」【IMA Vol.37特集】

A New Adam And Eve In The Iraq Marshes (Near the Possible Historic Site of the Garden of Eden), 2011-2017
写真の下にあるのは、2022年にイラク南部、アルチバイシュに建設予定の「エデン・イン・イラク廃水庭園」計画図。

持続可能な世界を目指す現代社会において、写真には何ができるのだろうか? IMA Vol.37「自然と環境をめぐる写真家の声」の関連記事第一弾では、現地コミュニティに根差して環境問題と向き合う写真家たちによる、イラン、ペルー、ガーナ、イギリスの4つのプロジェクトを紹介する。vol.1は写真家でアーティストのメリデル・ルベンスタインによる「The Eden in Iraq Wastewater Garden Project」。汚水問題を抱えるイラク南部の湿原を、植物とその土の微生物で水を浄化するシンプルで持続可能なシステムで環境的、文化的再生を目指すその活動に迫る。

テキスト=IMA

水質を改善する庭園を造り、
イラクに「エデンの園」を取り戻す

チグリス川とユーフラテス川が交差する肥沃な三日月地帯に位置するイラク南部の湿原帯アフワールはかつて世界第3位の広さだった。ここはメソポタミア文明の発祥地でもあり、エデンの園の起源の一つかもしれないとうたわれている。二つの川が合流するシャットゥルアラブ川の東端は、持続可能な生活を7,000年以上続けてきたマーシュアラブ人(マダン族)の故郷だった。しかし90年代初期、サダム・フセイン率いるイラク政府は、シーア派の反政府勢力を支持したことへの罰として湿原の水を抜き、広く豊かな湿原は砂漠化し、数万人が殺害され、同政権が失脚するまでに数千人の人々が故郷を追われた。

1977年、湿原帯に存在していた5万人規模の大都市セイガルの写真。人口の約半分は浮島に住んでいた。Photo: Nik Wheeler(1977年)

2011年サダム・フセインによる破壊の後に撮られた同地の写真。


2003年にイラク初の環境保護団体Nature Iraqのサポートで運河に新たな水路が開かれ、湿原が蘇る。以後、約35万人のマーシュアラブ人が同団体の手助けを得て、故郷を元の姿に戻すために帰ってきた。しかしその水路には汚水処理のシステムが導入されておらず、ユーフラテス川と湿原には未処理の下水が垂れ流されている。悪臭や湿原の生態系への長期的なダメージ、湿原の水で衣食住をまかなう住民への健康リスクを改善するためのシステムの導入が急がれている。

Military Site Near Eridu, Mesopotamian Marshes, dye sublimation on aluminum 2011-2016

Military Site Near Eridu, Mesopotamian Marshes, dye sublimation on aluminum 2011-2016

2011年、写真家でアーティストのメリデル・ルベンスタインは、「廃水庭園」と呼ばれる汚水処理システムの第一人者である環境工学者マーク・ネルソン博士とダヴィデ・トッチェット博士、Nature Iraqのジャシム・アル・アサディらと共に、マーシュアラブ人の文化遺産をたたえつつ、この環境問題を解決するプロジェクトを立ち上げる。廃水庭園の設計と環境アートによって、イラク南部の乾燥地域に適した水質改善システムの開発を目指した彼らが、7年を経てたどり着いたのが、植物と土中の微生物で水を浄化するシンプルで持続可能な廃水庭園システムだ。

A New Adam And Eve In The Iraq Marshes (Near the Possible Historic Site of the Garden of Eden), 2011-2017 写真の下にあるのは、2022年にイラク南部、アルチバイシュに建設予定の「エデン・イン・イラク廃水庭園」計画図。

A New Adam And Eve In The Iraq Marshes (Near the Possible Historic Site of the Garden of Eden), 2011-2017
写真の下にあるのは、2022年にイラク南部、アルチバイシュに建設予定の「エデン・イン・イラク廃水庭園」計画図。

26,500平方メートルの敷地で、一日7,500〜10,000人分の汚水を処理するこの庭園に運ばれてきた廃水は、まず園内に植えられた葦によって脱臭される。その後、地下湿地帯に流された下水の有機物が、バクテリアによってミネラル物質に変換され、下水をきれいにすると共に、地上の庭園の植物や果樹に栄養を与え、持続型の循環を生みだしている。この庭園のデザインには、アラブの伝統的な葦の家、セラミックタイルに施された古代の円柱形紋章印、メソポタミアの結婚記念ブランケットの花柄刺繍にインスパイアされたフラワーアレンジメントなどが用いられ、造形的にも美しい。湿原の豊潤な文化を体現した庭園は、低コストでシンプルなシステムなので、汚水処理がままならないイラクを含む中東各地でも応用できるだろう。

本プロジェクトは、各国の支援を受け、草の根運動としてユネスコの「Green Citizens Initiative」のひとつにも選出され、現在も継続中。環境問題の技術的な解決策を提示しながらも、歴史、伝統、地域、デザインなど多様な要素も含んだ優れたプロジェクトだ。

Water Buffalo Breeder in the Mesopotamian Marshes on Floating Reed Island,  near el Chibaish, S. Iraq 2013

Water Buffalo Breeder in the Mesopotamian Marshes on Floating Reed Island, near el Chibaish, S. Iraq 2013


メリデル・ルベンスタイン|Meridel Rubenstein
1948年、米国生まれ。1970年代初期に作家活動をスタートし、以後、写真、インスタレーション、彫刻ほか、多種多様なメディアを用いた制作で知られる。ルーヴル美術館(パリ)、ナショナル・デザイン・センター(シンガポール)、ニューメキシコ大学美術館(アルバカーキ)など、世界各地で展覧会を開催。

  • IMA 2021 Autumn/Winter Vol.37

    IMA 2021 Autumn/Winter Vol.37

    特集:自然と環境をめぐる写真家の声

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