ロレックスの芸術支援プログラムである「ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ」。世界中の才能ある若いアーティストとその分野の巨匠がペアを組み交流や対話を行うことで、世界中の芸術的遺産が次世代に確実に受け継がれるようにすることを目的に創設された。2022年9月9日、10日の2日間にニューヨークのブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで開催されたロレックス アート・ウィークエンドで発表された新作プレミアから、2020-2022年度の4組のコラボレーションを紹介する。
テキスト=IMA
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スイスの腕時計ブランド、ロレックスが2002年に創設した芸術支援プログラム、ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴ。さまざまな分野の才能あふれる若手アーティスト(プロトジェ)と巨匠(メントー)がペアとなり、一対一の指導のもと、世代や文化、分野を超えた豊かな対話を通して、芸術的遺産が次世代へ受け継がれることを目的としている。舞踊、映画、文学、音楽、舞台芸術、視覚芸術、建築、そして多分野にまたがる活動をカバーするオープンカテゴリーの8つの分野において、これまでに58組のペアが創造的なコラボレーションを行い、彼らによって国際的なコミュニティが築き上げられてきた。過去のメントーには、デイヴィッド・ホックニー(視覚芸術)やマーティン・スコセッシ(映画)、オラファー・エリアソン(視覚芸術)といった豪華な顔ぶれが並び、日本人では妹島和世(建築)、勅使河原三郎(舞踊)が参加している。
2020-2022年度は、映画、舞台芸術、視覚芸術、オープンカテゴリーの4つの分野で行われた。このプログラムは、メントーとプロトジェが2年の期間に少なくとも6週間を共に過ごすことが求められるが、世界中に蔓延した新型コロナウイルスによるパンデミックがその交流にも影響を及ぼし、各ペアの関係の発展のためにメントーシップ期間を1年以上延長せざるを得なかった。会うことが制限され、密接な交流が難しくなったものの、それぞれが前向きに成長する機会を作ったという。こうして2022年9月、ニューヨークのブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで開催されたロレックス アート・ウィークエンドにおいて、2020-2022年度のメントーとプロトジェが2年間共に行った創作活動の集大成が発表された。
Film
メントー:スパイク・リー(右)
プロトジェ:カイル・ベル(左)
Kyle Bell, protégé in film, with his mentor Spike Lee
© Rolex / Arnaud Montagard
メントーは人種差別をはじめとするアメリカの社会問題を描く作品で知られる映画監督、スパイク・リー。以前から自身とネイティブアメリカンとのつながりを感じていたリーは、プロトジェにオクラホマ州スロップスロッコ、クリーク出身のネイティブアメリカンの映画監督、カイル・ベルを選んだ。期間中、ベルは現場でリーの仕事を見て、ドキュメンタリーを制作し、編集室で一緒に時間を過ごした。リーはベルに、自分の思いを見つけて、それに従うよう促してくれたという。アート・ウィークエンドではネイティブアメリカンのコミュニティ経験を反映して完成させた物語映画『Eddie』と、ドキュメンタリー映画『Lakota』の二本の短編を上映した。
Theatre
メントー:フィリダ・ロイド(左)
プロトジェ:ホイットニー・ホワイト(右)
Phyllida Lloyd, mentor in theatre, with her protégée Whitney White
© Rolex / William Lacalmontie
映画『マンマ・ミーア!』で知られるイギリス出身の演出家であり、映画監督のフィリダ・ロイドと、監督、俳優、音楽家のホイットニー・ホワイトは、シェイクスピアや音楽への愛という共通点や女性のストーリーを描くことへの関心からつながった。ブラック・ライブズ・マターや新型コロナウイルスといった出来事を通して、舞台芸術が受けた危機や影響、これからの未来の形について議論し合い、互いに信念を共有してきた。アート・ウィークエンドでは、ホワイトの作品『Macbeth in Stride』の流れをくんで創作された『The Case of the Stranger』のワールドプレミアが行われた。移民や国境、予期せぬ人とのつながりがもたらす喜びといったテーマを探求している。
Visual Arts
メントー:キャリー・メイ・ウィームス(左)
プロトジェ:カミラ・ロドリゲス・トリアーナ(右)
Carrie Mae Weems, mentor in visual arts, with her protégée Camila Rodríguez Triana
© Rolex / Arnaud Montagard
視覚芸術の分野では、メントーに黒人女性のアイデンティティをとらえてきた写真家のキャリー・メイ・ウィームスが、プロトジェにコロンビア出身のビジュアルアーティスト、カミラ・ロドリゲス・トリアーナが選ばれた。トリアーナはステッチ、糸、テキスタイルを用いて、コロンビアの暴力の歴史と異なる未来への闘いについて、自身の考えを表現している。植民地主義の影響、移住、アイデンティティと帰属を探求し、記憶と回想を織り込む作品を制作してきた二人。アート・ウィークエンドでは、トリアーナが多人種の祖先を持つ女性としてのアイデンティティを掘り下げた個展「Patrimonio Mestizo」が行われた。
Open Category
メントー:リン=マニュエル・ミランダ(右)
プロトジェ:アグスティナ・サン・マルティン(左)
Agustina San Martín, protégée in the open category, with her mentor Lin-Manuel Miranda
© Rolex / Arnaud Montagard
ブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』や『イン・ザ・ハイツ』の制作、出演で知られるリン=マニュエル・ミランダと、アルゼンチン出身の映画監督アグスティナ・サン・マルティンのペアによるオープンカテゴリー。二人は対照的な組み合わせだったが、芸術の認識に対するひらめきがあり、それがクリエイティブな刺激となったという。サン・マルティンは、作品の幅をインディペンデント映画から、よりスケールの大きな物語性のある映画へと広げるために、ミランダから多くのことを学んだ。アート・ウィークエンドではその成果として、新作でワールドプレミアとなる『Childhood echoes』が披露された。仲間や見知らぬ人、ミランダへのインタビューから始まり、お気に入りの曲から呼び起こされる思い出について尋ねる。ドキュメンタリー映画でありながら、魔法のような幻影が描き出されている。
メントーの指導によって、プロトジェは多くの知見や経験、アイデアを共有し、アーティストとしての可能性を拡張していく。ロレックスはメントーシップ期間終了後もプロトジェの制作活動を支え続け、多くのプロトジェはその後自らがメントーとなっていく。ロレックス メントー&プロジェ アート・イニシアチヴにより、今後も多くの芸術的知識や技術が継承され、新しい交流の輪がさらに広がっていくことだろう。ロレックスの「パーペチュアル(永続)」の精神は、このアートプログラムにも息づいている。
▼ロレックス メントー&プロトジェ アート・イニシアチヴの詳細
https://www.rolex.org/ja/rolex-mentor-protege