1970年に出したポートレイト集『One』で知られる、アメリカ西海岸在住の小原健(1942年〜)が古巣のニューヨークで初個展を開いた。
「One」は、当時、小原がアシスタントをしていたリチャード・アヴェドンを驚かせ、すぐにニューヨーク近代美術館の写真部長だったジョン・シャカウスキーのところへ持って行かせたという逸話のある写真集。シャカウスキーは「写真は写真集ではなくプリントで見るもの」と、典型的な欧米のアート写真観を持っていたにもかかわらず、1974年に土門拳、細江英公、東松照明、森山大道など15人の写真家を初めて取り上げた「ニュー・ジャパニーズ・フォトグラフィー 」展では、唯一この写真集だけ会場に展示した。彼曰く「この写真集はとても不思議だ。どう意味付けていいかわからない。でも皆が見るべきだと思う」。以後、日本写真史、写真の教科書、写真集史の本などに掲載され次世代に影響を及ぼしてきた。
今回の展示では、写真集ではなく『One』に使用された写真そのものを大きくフィーチャーした。入ると、真正面に飾られた特大のポートレイトが目に飛び込んでくる。1枚の写真を、81枚の六切プリントをつなぎあわせて再現した「Grain」(1993年) だ。その左右の壁を、1998年に焼き直した大全紙大のポートレイト20枚が囲んでいる。今回の展示にあたっては、各プリントの顔を見ないでランダムに配置した。ベトナム反戦集会のためにセントラルパークなどに集まった背景の異なる人々の顔のアップ。写真集よりも濃く、ギラついた感じに焼かれた個々の顔から60年代末の熱気が感じられる。
「One」(1970年/1998年にプリント)
当時は、コンセプチュアルアートの隆盛期でもあり、場所や時間などの条件を付けて記録する作品に写真が多用された時代でもある。中央に配されたエド・ルシェの「Every Building on the Sunset Strip」を彷彿させる蛇腹状の「Diary」(1972年)は、今回初めて一般公開された。35ミリのセルフポートレイトと、室内や風景のスナップショットのコンタクトプリントそのものを2枚ずつ1ページに貼り付けた活写日記だ。この日記のコンセプトには、アヴェドンが写真集を編集したジャック=アンリ・ラルティーグの影響があるという。
「Diary」(1972年)
奥に掲げられた「with」(1999年)は、被写体を1時間カメラの前に座らせて大判カメラで撮った複数のポートレイト。「One」とは裏腹に、ぼやけた被写体の背景からその人物が想像できる。
「with」(1999年)
会期中にギャラリーを訪れた人は、数十ミリから数メートルまでの作品をじっくり鑑賞していたという。美術館からも反応があった。それぞれ連続性のある作品から、数十年にわたってポートレイト写真を追求してきた小原のこだわりを感じ取れる濃厚な展覧会だった。
文=Yuriko Yamaki
© Ken Ohara, courtesy MIYAKO YOSHINAGA, New York
タイトル | 「Extreme Portraits 1970-1999」 |
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会期 | 2017年3月2日(木)~4月15日(土) |
会場 | Miyako Yoshinaga Gallery(アメリカ) |
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