ヨーロッパの多様な視点を東京の街に映し出す新たな写真祭「SEEEU(シー・イー・ユー)ヨーロッパ写真月間 2025」が10月23日から始まった。都内各所の公共空間を舞台に、ヨーロッパ各地の写真家約10名による450点以上の作品が展示される。
フェスティバル・キュレーターは、『IMA』編集長の太田睦子と、オランダを拠点に活動するアーティスト・キュレーターのキム・ボスケの2名が務める。テーマを「Reframing Realities:現実の新たな輪郭」とし、変動するヨーロッパの社会状況を背景に、「現実」という概念を多層的に捉え直す。武力衝突、移民、気候危機、そして情報化社会における“加工された現実”の中で、写真家たちは記録と創造のあいだを往還しながら、誰の手によって“現実”が描き直されるのかを問う。そのためAIなど現代的手法を取り入れた作品が多いのも特徴だ。
プロデュースを手がけたのは、リトアニア出身のクリエイティブ・プロデューサー、セルゲイ・グリゴリエフ。彼はデジタルとアートを横断する文化プロジェクトを数多く手がけてきた。「日本の文化をリトアニアに紹介するイベントをやって来た。今回はその逆をやってみたいと思った。日本には10回以上来たことがある。街中で作品に“偶然出合う”ような体験を通して、ヨーロッパの多様なまなざしを届けたい。東京がアートの遊び場になるだろう」と語る。
既存の美術館やギャラリーにとどまらず、公共空間での展示が軸なのも特徴だ。街を歩く中で不意に出合う作品体験を通して、日常とアートの境界を溶かす新しい試みとなる。
六本木や赤坂の工事現場の仮囲いやビルの谷間、インターナショナルスクールのファサードなど様々なところにアート写真がインストールされている。
例えば田町では駅ビルにヴァルヴァラ・ウリクの『SUNSHINE, HOW ARE YOU?』が展示される。タイトルは彼女の母親が送ってくるメッセージから取ったもの。ウクライナに生まれ現在イギリスに住む彼女は、幼少期の記憶は家族アルバムやインターネットの情報を見ることだけになってしまったという。本作では子ども時代を「実際の記憶」と「想像の記憶」を織り混ぜて再現しウクライナを読み解く。
新宿のWPUホテルでは、イーゴル・シラーの『FAMILIAR CHARACTERS』が展示される。大人になった自分が子供の頃を再構築し、どのようにアイデンティティーを作ったか探る作品だ。日本のアニメから影響を受けたと語るように、ユーモアと遊び心溢れる被写体が写る。シラーは子ども時代を過ごした町の懐かしい場所で「幼い頃の空想上の登場人物たち」に自ら扮し、架空の王国の風景を再現しながら写真を撮影していった。
色鮮やかな作品たちが並ぶ中、どれもヨーロッパの社会情勢が背景にあり、現代を深く考えさせられる内容だ。会期中トークやワークショップなどのイベントが開かれるので、オフィシャルページを是非チェックしてほしい。ヨーロッパと日本の写真文化を架橋し、言語や国境を越えた対話の場を生み出すことになるだろう。
| タイトル | SEEEU ヨーロッパ写真月間 2025 |
|---|---|
| 場所 | 東京都内各所の公共空間 |
| 会期 | 10月23日(木)~11月23日(日) |
| 料金 | 無料 |
| URL | https://www.seeeu.jp/ |
