How They Are Made

vol.5 ルース・ファン・ビーク(IMA 2016 Autumn Vol.17より転載)

How They Are Made Vol.5

色鮮やかなペインティングとファウンドフォトを組み合わせた、ユーモアたっぷりの作品で知られるルース・ファン・ビーク。アムステルダム郊外の小さな町にあるスタジオは、ヴィンテージの本や雑誌、ポストカード、不思議な形をした色紙などであふれ、まるで彼女の作品の中に入り込んだかのよう。写真家のスタジオというより、画家のアトリエという方がしっくりくるかもしれない。写真を使ったアナログな手法にこだわるビークの魅力をひもといてみる。

深井佐和子=文
小山泰介=写真

ハンドメイドで、写真表現を拡張する

1600年代に建てられた、隣り合わせの小さな家を2軒借りているビーク。手前をスタジオ、奥を自宅として利用している

1600年代に建てられた、隣り合わせの小さな家を2軒借りているビーク。手前をスタジオ、奥を自宅として利用している


―ファウンドフォトをコラージュする独自の手法は、どのように生まれたのでしょうか?

1997年にアムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーに入学し、始めは画家を目指していましたが、途中で写真学科に移りました。その当時は、ドイツのデュッセルドルフ芸術アカデミーが確立された地位にあり、オランダでもリネケ・ダイクストラが国際的に活躍するなど、いわゆる正統派な写真がヨーロッパの主流でした。しかしリートフェルトでは、その頃から写真の概念を再考するような実験的な試みが盛んに行われていました。

私も写真の固定観念にとらわれない作品を目指す中で、蚤の市や古書店を巡り、ひたすら古い本や雑誌を買っては切り抜いてファウンドフォトを集めていました。どう扱えばわからないまま、コレクションはどんどん増え続けていたのですが、あるとき、イメージの切り抜きはもとの文脈から切り離され、ひとつの記号になり得ることに気づきました。それがきっかけでコラージュを始め、私の視覚言語となり、いまも同じスタイルで作品を作り続けています。

本棚の手前に置かれていた生け花の指導書とペインティング用のノート。こういった何気ない組み合わせから生まれる調和が作品に発展することも。

引き出しを開けると、さまざまな色や形をしたパーツがぎっしり。コラージュ用にたくさんストックしているとのこと。

ファウンドフォトのコレクションが入った箱やファイルが、スタジオの至るところに置いてある。


―スタジオでは、どういった作業をしていますか?

自分のことを「写真家」と呼んでいますが、カメラを作って撮影する時間は短く、手作業に費やす時間がほとんどです。まずは、ファウンドフォトが詰まったボックスやファイルを広げ、アーカイブを見直すことからスタートします。次に、スタジオの壁に素材を貼り付けてグループ分けしたり、テーブルの上で「ああでもない、こうでもない」と手を動かしながら写真とペインティングを組み合わせたり。いくつものアイデアが頭の中にあふれているのですが、そうやって試行錯誤を繰り返しながら、ひとつひとつを体系的にシリーズとしてまとめていきます。展示では、オリジナルのコラージュを見せることもありますが、コラージュを複写したものを「写真作品」として発表することが多いです。

―「写真」にこだわる理由とは?

単に写真が好きなことも理由ですが、写真は触れることができるのが魅力だと思います。写真を切ったり折ったりすることで、イメージを変形させられますよね。また、写真は人間の記憶や感情と深く結びついています。例えば、ファウンドフォトには、背後にストーリーがあり、かつて誰かに大切にされていた歴史も持ち合わせています。そういったさまざまな要素を組み合わせていくと、ユーモアのあるメッセージが生まれることもあれば、新たな物語が立ち上がることもあります。そういった写真が秘める可能性に魅了され、「写真家」として制作を続けているのです。

雑誌の切り抜きやドローイングなどが無造作に貼り付けられたボードこそ、ビーク作品の設計図。

玄関先にある石のコレクション。ビークが描く有機的な形のモチーフなのかも!?

明るい自然光が差し込むスタジオには、「The Arrangement」の作品とともに、インスピレーション源となるポストカードやドローイングなどが飾られている。

作業台の近くにある壁面を使って、展示のテストをしたり、作品の構想を練ったりするビーク。


―代表作「The Arrangement」では、もとのイメージにビーク流の新たな解釈を加えたことで話題を呼びましたね。

このシリーズでは、1950〜70年代にオランダの主婦の間で流行した日本の生け花の指導書を用いています。その上に自分でペインティングした色鮮やかな紙をカットして重ねることで、生け花の作法や象徴的な意味合いといったもとの文脈を取り除き、美しさや構図にフォーカスしました。遊び心あふれる作品に仕上がったと思います。

―最近の作品では、そのアプローチにさらなる進化が見られます。

「The Arrangement」では、個別の生け花の写真をそれぞれコラージュし、ポートレイト的な構図のイメージを作っていました。次の「Rehearsal」というシリーズでは、生け花の写真は使っていないのですが、単体で作ったコラージュ作品をテーブルの上にいくつも配置しています。コラージュしたオブジェをキャラクターに見立て、テーブルという舞台の上で、彼らが会話をしているイメージで制作しています。今年発表したばかりの新作「Garden Scene」(P.147)では、ふたつのシリーズを組み合わせて、生け花のコラージュを「Rehearsal」のときのように複数並べ、118×137センチという大きなフォーマットに挑戦しています。今年の12月にアムステルダムのThe Ravestijn Galleryで開催する個展でも、同じシリーズを発表する予定で目下制作中です。

―そのほかに、進行中のプロジェクトがあれば教えてください。

2冊の写真集を刊行する予定です。ひとつは『The Levitators』というシリーズで、写真を折り曲げて犬の足の部分を隠すことで、まるで犬が飛んでいるように見えるユーモラスな作品です。『The Manuals』は、『The Arrangement』のデザインも手がけたグザヴィエ・フェルナンド・フェントスとのコラボレーションで、私の方法論を写真とグラフィックを使ってヴィジュアル化する試みになります。

Ruth’s Tools

RUTH’S TOOLS
ペインティングとコラージュを主な手法とするビークにとって、絵の具とハサミは必須アイテム。カットする紙の厚さや大きさによって、さまざまなハサミやカッターを使い分ける。細かいカッティングには、なんと外科手術用のナイフを使っているそうで、マーケットで見つけたレトロなデザインの木箱に大切に収納されている。「写真とのコラージュに使う紙のパーツは、自分でペインティングしているのよ」といい、有機的な形にカットされた色紙は常にストックされている。紙を貼り合わせるテープとピンセットも必需品。なんともクラフト感あふれるツールばかりが並んだ。

Ruth van Beek

ルース・ファン・ビーク|Ruth van Beek
1977年、オランダ生まれ。2002年、ヘリット・リートフェルト・アカデミー卒業。雑誌『TIME』『Foam』『Fantom』などに取り上げられたほか、13年には『British Journal of Photography』が選ぶベスト写真家20名に選出された。写真集に『The Hibernators』『The Arrangement』などがある。

  • IMA 2016 Autumn Vol.17

    IMA 2016 Autumn Vol.17

    特集:ランドスケープは問いかける

*展示情報などは掲載当時のものです