持続可能な世界を目指す現代社会において、写真には何ができるのだろうか？ IMA Vol.37「自然と環境をめぐる写真家の声」の関連記事第一弾では、現地コミュニティに根差して環境問題と向き合う写真家たちによる、イラン、ペルー、ガーナ、イギリスの4つのプロジェクトを紹介する。vol.4は写真家のハンナ・フレッチャーが始めたプロジェクト、The Sustainable Darkroom。イギリスを拠点に暗室作業における持続可能性を探究しており、その活動は少しずつ国をまたいで広がっている。環境に負担をかけない写真制作とは、一体どのようなものなのだろうか？ いま知っておくべき彼女たちの活動を見てみよう。
テキスト＝IMA
プリント制作もサステナブルに！？
写真家たちの環境意識を高めるプロジェクト
2019年にアーティストのハンナ・フレッチャーがロンドンでスタートさせたプロジェクト、The Sustainable Darkroom。暗室での作業が環境に与える影響をリサーチし、写真制作そのものの持続可能性を探求する。ワークショップや講演を始め、出版物、レジデンス、トレーニングセッションなどによって、写真家たちの環境への意識改革の促進を目指している。
ケミグラムという技法を学ぶワークショップでは、化学物質に代わり、エコフレンドリーな材料を用いて、銀塩プリントにさまざまなイメージを浮かび上がらせた。
彼女たちが実践する暗室プロセスは、サステナビリティとアクセシビリティの双方に重きを置く。暗室ワークショップで使用する材料のほとんどは市販の写真用品よりも安価で、ガーデニング店やスーパーでごく普通に手に入るものだ。現像液や還元剤など従来の化学薬品に代わるものとして、環境負荷の少ない自家製の植物由来の液体や、低毒性のもの、ホワイトビネガーやレモンジュースといった一般家庭にあるものを用いている。フレッチャーは環境問題を学びながら、自然を単なる素材としてではなく、作品の主題としてもとらえている。このワークショップに参加したアーティストたちは、写真への取り組み方に少しずつ変化が表れ、その変化は時間をかけて彼らの一部分となり、数年後には環境に配慮しながら制作をすることが当たり前になる時代がやって来るだろうとフレッチャーは語る。
菌と酵母の共生培養であるスコビーと呼ばれる素材を乾かしたものに、プリントされたフレッチャーの作品。
アリス・カズナーヴェによる植物にイメージを転写した作品。
スコビーに、サイアノタイプでイメージを転写している様子
スコビーに、サイアノタイプでイメージを転写している様子
一年前、研究者でアーティストでもあるアリス・カズナーヴェとエド・カーがチームに参加し、彼らのコミュニティは国際的に広がりを見せている。2021年には、The Sustainable Darkroomが運営する暗室スペースを立ち上げ、その敷地内には撮影や暗室作業に使用する植物を栽培するDarkroom Gardenを併設。さらに今年に入ると、サステナブルな手法で作られた写真作品だけを展示するスペースHot Compostをオープンした。フレッチャーはこの活動を通して、写真業界全体に環境への取り組みが広がることを望んでいる。プリントやフィルムの洗浄システムを変えたり、銀の再生装置を導入するなどして、写真に携わるすべての人たちが、普段制作に使用している材料はどこからやってきて、その後廃棄物はどこに行き着くのかを知ることの大切さを訴える。彼女たちは実験を繰り返し、写真をこれからも豊かに楽しむために挑戦し続けている。
ハンナ・フレッチャー｜Hannah Fletcher
ロンドンを拠点に活動するアーティスト。The Sustainable Darkroomの創設者であり、London Alternative Photography Collectiveの共同ディレクターも務める。チェルシー・カレッジ・オブ・アーツの准講師。環境と生態学に焦点を当て、土壌、藻類、キノコ、植物などの有機物を用いて作品を制作する。
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IMA 2021 Autumn/Winter Vol.37
特集：自然と環境をめぐる写真家の声
