26 December 2022

ジェット・スワン インタヴュー
「『渦中にいない』ことで生まれる新たな視点」

26 December 2022

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ジェット・スワン インタヴュー「『渦中にいない』ことで生まれる新たな視点」【IMA Vol.38特集】 | ジェット・スワン インタヴュー「『渦中にいない』ことで生まれる新たな視点」【IMA Vol.38特集】

IMA Vol.38の関連記事第4弾は、ファッションフォトグラファーとして活躍する写真家たちを「ファッション写真も撮影する写真家」と広義にとらえ、いま注目すべき7名の写真家を彼らの多様なバックグラウンドと共に紹介した企画「ファッション写真は進化する」より、ジェット・スワンへのインタヴューを掲載する。バレンシアガ、ヘルムート ラングなどのキャンペーンや、『Dazed』『Another』『Arena Homme+』などのファッション誌のエディトリアルを手がけ、数多くのファッションフォトグラファーが所属するエージェンシー、Mini Titleと契約するなど、いま最も勢いのある写真家、ジェット・スワン。そんな彼女に、現在の心境と2021年に発表した初写真集『MATERIAL』を出版するまでの道のりについて聞いた。

文=安齋瑠納

「もともと洋服は大好きでした。ファッションの仕事をしている者が服が好きといっても当たり前のように聞こえるかもしれませんが、7歳の頃から祖母のミシンを借りて洋服を作ったり、専門学校でテーラリングなど本格的な服作りを学びました。その後、セントラル・セント・マーチンズのファッション・メディア・コミュニケーション学部に進学したのですが、卒業する頃にはファッションに対する興味を完全に失ってしまって。5年ほど距離を置いて、まったく関係のない仕事をすることに。拠点もイギリス南東の港町、ラムズゲートに移し、自宅のスタジオでマイペースにアートワークを作っていました」     

作品を制作する過程で、たまたまカメラを手にしたスワン。写真作品を作ることを目的にしていたわけではないが、友人を自宅に招き、撮影を続ける中で、少しずつポートレイト撮影に興味が湧いてきたという。

最初にポートレイト撮影の拠点に選んだのは、ラムズゲートにあるボート好きが集うコミュニティスペース。ポートレイトといっても、ドキュメンタリーから場所の要素を削ぎ落とした写真、という解釈の方が正しいかもしれません。ポージングを指示することもないですし、背景紙を敷いて、あえて場所の情報をなくすことで、一人一人の人間性に焦点を当てた写真を撮りたいと考えていました」

Untitled personal work, 2020

Material Published by Loose Joints, © Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

Dazed Magazine, Autumn 2021

Material Published by Loose Joints, © Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints


ボートクラブでの撮影後、同様のプロジェクトを続けるために拠点に選んだのがショッピングセンターだった。イギリス国内のさまざまなショッピングセンターに電話で問い合わせたところ、無償で場所を提供してくれたのが、ヨークシャー州スカーバラのショッピングセンターだった。偶然にもそこは、スワンが幼少期によく訪れていた街。そうしてなじみのある場所で滞在制作が始まったのだ。

「それまでは、興味のある人物に自分から声をかけて撮影をお願いすることもありました。でもショッピングセンターでは、みんなが平等。一角にスタジオのようなセットを作り、誰でも撮影に参加できるようにしたんです。当初は『この人のどこが面白いんだろう?』と失礼ながら悩むこともありました。しかし、撮り続けるうちに、『つまらない人なんていないし、面白い部分を無理に探す必要もない。自分なりの視点と好奇心を持って相手に接することが大切なのだ』と気がつきました。その瞬間、はっと目が覚めるような、いままでにない感覚を覚えました。もちろんそれは私にとって挑戦でもあったんです」       

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints

© Jet Swan 2021 courtesy Loose Joints


年齢、職業、人種まで、さまざまな人が集まるショッピングセンターへポートレイト撮影のために訪れる人は皆無だろう。スワンは、写真撮影とは一切関係なく、ありのままの姿でカメラの前に立つ人のドキュメンタリー性にスリルを感じるという。

「写真を撮られるとわかっていたら、鏡を見てメイクを直したり、少しおしゃれをしたりして準備をしますよね。でも、ここで出会う人は、そんなことすら考えていません。例えば、メイクブラシの跡がほんの少しだけ顎に残っている女の子の写真があります。私は、こういった些細なことに想像をかき立てられるのです。今朝は忙しかったのかな? とか、どんなライフスタイルを送っているのかな?というように」   

スカーバラのショッピングセンターで撮影したポートレイトシリーズを中心に構成した『MATERIAL』には、当時スワンが並行して制作していたヌードのシリーズや、雑誌に寄稿したポートレイトなど、異なるプロジェクトも同時に収められている。

「唐突な組み合わせに感じるかもしれませんが、私にはそれらをつなぐ共通点がはっきりと見えています。そして、同時にそれを言葉で説明しない良さもあると感じています。いまでもヌードやポートレイトを撮り続けていますが、すべてに完全な答えを出すのではなく、その先にある何かを探求し続けることが制作のモチベーションや新しい発見にもつながるのだと思います」     

Helmut Lang, Spring Summer 2022

Helmut Lang, Spring Summer 2022

『MATERIAL』の出版をきっかけに、ファッション撮影の依頼も増えているという。自身をファッションフォトグラファーと定義しないスワンは、ファッションという題材にどう向き合っているのだろうか?

「例えば、女性の体を被写体にしたヘルムート ラングのキャンペーン。これは私自身のセルフポートレイトで、自宅のベッドルームで撮影しました。こうしたプロジェクトは、まるでパーソナルワークに取り組んでいるかのような面白さがあります。一方で、スタイリストやキャスティングディレクターなどとコラボレーションして作り上げる撮影もあります。そのような現場では、私のようにファッションとは関係のないフィールドの人間が、異なる視点をもたらし、いい意味でその場をかき乱すことで、まったく新しいアイデアが広がっていくことがあります。必ずしもいまの私にそれができているかはわかりませんが、そうしたオープンなコラボレーションがファッション写真の面白さなのだと感じます」


ジェット・スワン |Jet Swan
1990年、イギリス、ノースヨークシャー州生まれ。ドキュメンタリーと古典的なポートレイトを融合したような作品群で知られる。2021年、初作品集『MATERIAL』をLoose Jointsより出版。現在は、ケント州ラムズゲートを拠点に活動を続ける。

  • IMA 2022 Autumn/Winter Vol.38

    IMA 2022 Autumn/Winter Vol.38

    特集:ルーツをめぐる断章

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