17 January 2023

エミリー・ラウリオラがルーツをテーマに選ぶ写真集
「センチメンタリズムから逸脱したアプローチ」

17 January 2023

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エミリー・ラウリオラがルーツをテーマに選ぶ写真集 「センチメンタリズムから逸脱したアプローチ」【IMA Vol.38特集】 | エミリー・ラウリオラがルーツをテーマに選ぶ写真集  「センチメンタリズムから逸脱したアプローチ」【IMA Vol.38特集】

IMA Vol.38「ルーツをめぐる断章」の関連記事第7弾は、アメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アジアと拠点の異なるスペシャリストたちが、今号のテーマである「ルーツ」をそれぞれの視点で解釈し、ユニークなアプローチの写真集を5冊ずつ選んだ企画「30 Photobooks Around Roots」から、エミリー・ラウリオラのセレクトを紹介する。写真に特化した出版社・Sasori Booksを2021年に設立したラウリオラは、ルーツを考える際にもたらされる感傷的な表現とはまた違った角度から、写真表現の拡張に挑む作家たちの作品を取り上げる。

セレクト=エミリー・ラウリオラ

「ルーツ」を定義し、それが何を意味するかは、主観的でプライバシーに関わることであり、それを他者に理解してもらうのは、既成概念を打ち破りたい写真家にとって容易なことではない。ここでは写真というメディアを通して、領土、家族、個人のアイデンティティにおけるルーツを探求し、そこに問いを見いだそうとする多様なアプローチを紹介する。私が選んだ写真集は、安易なセンチメンタリズムから離れ、リスクを負って難解なトピックスや写真の形式に挑戦し、政治をプライベートの領域に持ち込んだものである。

『Tropism』Nhu Xuan Hua(Area Books、2022)

フランス系ベトナム人の写真家、ヌー・スアン・ファによる初めてのモノグラフ。本書は、作家の家族写真に写る人物の顔をうっすらと消すデジタル加工を施すことで、幻想的なイメージが生みだされている。ユニークなプロセスを通して、過ぎ去った時間、薄れゆく親密な記憶、世代から世代へと受け継がれてきた先祖代々のつながりを強く感じたという。一族に属するとは、どういうことなのか? 先代たちが古い写真の中にだけに存在するいま、そこに残っているものとは何なのか? 心に残るこの写真集は、記憶、ルーツ、そしてノスタルジアに対するほろ苦い考察を見る者にうながす。


『Périphérique』Mohamed Bourouissa(Loose Joints、2021)

2005年から2008年にかけて、パリで政府に対する激しい抗議活動が行われていた期間に、フランス系アルジェリア人のモハメド・ブルイッサが制作し、衝撃を与えた話題作。ブルイッサは、友人らと共に自身の苦しい生活を再現し、綿密に演出された写真を通して、パリ郊外における経済的・社会的格差を浮き彫りにする重層的なプロジェクトを作り上げた。舞台のセットや大判のフォーマットは、古典絵画から多大な影響を受けており、警察による逮捕のシーン、緊迫したやりとり、疲弊する住民など、郊外の抱える現状の問題を熟知した者だけが撮れる写真ばかりが並ぶ。本書は撮影から10年以上を経て出版されたが、とりまく状況は当時と変わっていない。


『Tonatiuh』Juan Brenner(Edition RM、2019)

フアン・ブレナーの処女作『Tonatiuh』は、スペインによる侵略、アステカ帝国の崩壊と、長く続いた植民地支配に翻弄され続けた故郷グアテマラの歴史を見る者に突きつける。アメリカでの長い生活の後、ブレナーは故郷に戻り、現代のグアテマラ社会に鋭く切り込む。中央アメリカにおける残酷な征服の歴史と、それが現在に及ぼす影響が物語の本筋だ。激しく混沌とした場所がどれほど深く自身のアイデンティティ構築に関わっていたかを自問しながら、伝統、民間伝承、風景、日常生活をとらえた写真を、相互に関連付けている。2019年に私が最も気に入った本のひとつ。


『I can’t stand to see you cry』Rahim Fortune(Loose Joints、2021)

アルル国際写真祭でディスカバリー賞を受賞した本書は、テキサス州の風景、住民、文化的に複雑な社会をモノクロ写真に収めた、優雅でありながらも荒々しいバラードのような1冊である。ラヒム・フォーチュンは、実父の病気と死、そして家族や友人との関係性など個人的な体験を記録しながら、そこに潜むさまざまな問題をもあぶりだす。パンデミック、人種差別によってもたらされた不安に揺れる国の黒人男性として、プライベートとパブリックの間にある摩擦を探求し、家族との関係性の中で父の死との折り合いをつけようと試みている。


『L’amour seul brisera nos coeurs』Bérangère Fromont(A la maison、2022)

繊細なオブジェのようなたたずまいのベランジェール・フロモンによる新刊は、現代社会におけるクィアネス、レズビアン女性に対する誤った認識をテーマにした1冊。愛と革命についてのこの写真集は、存在しないものとして扱われることに対して抗い、クィアな身体を祝福することで、アート業界のみならず、一般からも広く注目を集めた。レズビアンがキスをしたり、触れ合ったりする様子をとらえた写真の間に差し込まれた詩人エロディ・プティによる文章が、写真集に反骨心と柔らかさを加えている。個人の物語、アイデンティティ、セクシュアリティ、そして自分という存在を取り戻そうとする試みが、この写真集の核だといえる。

エミリー・ラウリオラ|Emilie Lauriola
パリの書店LE BAL Books元ディレクター、Rolling Paper Book Fairの共同創設者。2021年、写真に特化した出版社Sasori Booksを設立。『Camera Austria』や『i-D』とのコラボレーション企画や執筆活動を行う。

  • IMA 2022 Autumn/Winter Vol.38

    IMA 2022 Autumn/Winter Vol.38

    特集:ルーツをめぐる断章

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