4 August 2023

ジョアナ・クレスウェルが選ぶ
若手作家による2020年代のベスト写真集3冊

4 August 2023

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ジョアナ・クレスウェルが選ぶ、若手作家による2020年代のベスト写真集3冊【IMA Vol.39特集】 | ジョアナ・クレスウェルが選ぶ、若手作家による2020年代のベスト写真集3冊【IMA Vol.39特集】

世界同時多発的に写真集ブームが起こった2010年代、作り手は増加し、受け手の見る目はどんどん成熟していった。 ブームのピーク、そしてコロナ禍を経て、現在の若手作家が生みだす新しい写真集は、どう変化しただろう? 『IMA』vol.39の関連記事第4弾は、写真集のプロフェッショナルたちが2020年以降、35歳以下の作家によって出版されたベスト写真集を、さまざまなテーマのもと3冊ずつ紹介する「若手作家による2020年代のベスト写真集」の企画から、ジョアナ・クレスウェルを選者に迎えたセレクトを紹介する。3人の作家たちの体験が視覚化された写真集を通して、それぞれのまなざしに触れることができるだろう。

セレクト=ジョアナ・クレスウェル(ライター、エディター)

「目に見えない超感覚を可視化する」

ここで選んだ3冊は、まだ公開されていない、幻想的で魅惑的なインディーズのスリラー映画のようだ。LSDの影響によって精神に異常を来したエピソード、ホラーなイメージを用いて描いたクィアネス、モノクロ写真で迫った故郷に潜む幻影……。テーマは異なるが、個人的な呪縛や、過去の記憶や経験が意識にどのように編み込まれていくかについて、それぞれ独自の手法で語っている。ここで紹介する3人の作家は、肉眼では見ることのできない不思議な感覚をカメラを使って視覚的に呼び覚まし、観る者にそれを感じさせるという、驚異的なイメージメイキングを行っている。

『Transcendent Country of the Mind』 Sari Soininen (The Eriskay Connection、2022)

フィンランドの写真家サリ・ソイニネンは、20代半ばの頃にLSDによる変性意識を体験し、現実の見方が完全に変わってしまった。その後、彼女は自身の体験を乗り越えるために写真を撮り始め、その結果として生まれたのがこの写真集である。ソイニネンが当時見ていた世界を表す本書は、混沌としながらも、鮮やかで心を揺さぶる旅へと観る者を導くのだ。


『At Night Gardens Grow』 Paul Guilmoth (Stanley/Barker、2021)

夜を舞台に作家の故郷の風景を背景として、奇妙で民俗学的な物語が展開されている。幽霊のような人影、光る葉っぱ、蜘蛛の巣や蛾、洗礼、夜に輝く滝など、モノクロ写真でとらえたイメージが、見事に控えめな編集でまとめられている。強烈でありながらも、明瞭な方法で構成された本書は、夢と現実の間の暗い空間に漂う架空の世界へと私たちを誘う。


『Everything Goes Dark A Little Further Down』 Matthieu Croizier (自費出版、2020)

マチュー・クロイジャーは19歳のときにゲイであることをカミングアウトしたあと、ゲイに対するレッテルを超えたクィアという概念を受け入れ始めた。自分の身体を用いたアート表現は、自身のクィアネスを物語るためのプレイグラウンド。お気に入りのホラー映画をインスピレーション源とし、「フリーク」や「ホモ」といった性的マイノリティに烙印を押すような言葉を再利用しながら、遊び心たっぷりな奇妙さで、自分の意思から性転換していくさまを写真で表現している。

ジョアナ・クレスウェル︱Joanna Cresswell
イギリス、ブライトンを拠点とするライター、エディター。『Financial Times』『British Journal of Photography』『Aperture』など多くのメディアに寄稿するほか、『Unseen Magazine』『Self Publish, Be Happy: A DIY PhotoBookManual and Manifesto』『Aperture’s PhotoBook Review』などの編集も手がける。

  • IMA 2023 Spring/Summer Vol.39

    IMA 2023 Spring/Summer Vol.39

    特集:混迷する世界を駆ける若き才能

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