東京には、個性的なセレクトが光るブックショップが数多く点在する。その中で、アートに力を入れる大型書店や個性的なアートブックやZINEを扱うインディペンデントブックショップなど、写真集を扱う4店舗の書店員が、毎月おすすめの写真集を3冊ずつピックアップ。
セレクト・文=錦多希子(POST)
ヌード写真の多様性
現代的で親密なヌードの描写に定評のあるモナ・クーンの作品は、昨今ではより抽象性の高い表現へと昇華しています。砂漠地帯を含むジョシュア・ツリー国立公園の端にあるモダニズム建造物で撮影された本作では、そのファサードをなすガラスや鏡が光軸となり、屈折した強烈な光が女性へと注がれます。一糸まとわぬその姿は生身の人間が醸す気配が削ぎ落とされ、純粋なシルエットとなり、グラフィカルな存在感を放つ。本作においては、人間と自然景観、そして建造物とが、その特質を問わず等価に扱われているように思えてなりません。小口の上面のみに施された箔加工は、まばゆい光の屈折の要素を物質的な書籍という形態に落とし込むという演出なのでしょう。写真家自らがブックデザインチームに編入したことにより、装丁という側面からも作品世界を表現しています。
タイトル | モナ・クーン『She Disappeared into Complete Silence』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 7,200円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー/スリーブケース付 |
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3月より新潟県立万代島美術館にてソール・ライターの写真展がスタートしました。街角のなにげない日常を絵画的に撮り収めたストリートスナップが彼の代名詞であるとしたら、それとは別に、実は長年にわたって密やかに撮り続けていた作品群がありました。それは、当時の恋人を始めとする数名の女性たちの一糸まとわぬ姿です。ライターは自身のアパートメントの室内で、ほの暗い空間にわずかに差し込む自然光を頼りに、親密なコミュニケーションを重ねながらシャッターを刻んでいたようです。物怖じせずごく自然体に振る舞う彼女たちは素直に美しく、彼もきっと不意にあらわれる一瞬を逃さんとしていたのでしょう。そんな情景に思いを馳せてみれば、欠点をも愛そうとする彼なりの美学をも感じ入ることができるはずです。
タイトル | ソール・ライター『In My Room』 |
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出版社 | Steidl |
価格 | 6,600円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
2018年にFOMU(アントワープ写真美術館)で開催されたポール・コイカーの写真展に寄せて、本展のキュレーターであるヨアヒム・ナウツは「生物の百科事典」と言及しました。風景や静物写真、そしてポートレイトが織り交ざり、ランダムに繰り返されるなかで、度々目に止まるのが女性のヌード。それも豊満なプロポーションの方が多いように見受けます。見本帳のごとく淡々とした客観的なアプローチに見せかけて、実はごく私的な偏向がさりげなく、だがしかし色濃く反映されている。これぞ、彼の得意とするやり方です。一般的にフェティッシュな要素が盛り込まれた作品は、ややもすると鑑賞者からは敬遠されがちなのですが、なぜだか彼の作品からは湿っぽさが感じられない。見事なさじ加減です。
タイトル | ポール・コイカー『EGGS AND RARITIES』 |
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出版社 | Art Paper Editions |
価格 | 8,000円+tax |
発行年 | 2018年 |
仕様 | ソフトカバー/スリーブケース付 |
URL |
POST(limArt Co., ltd)
恵比寿にあるブックショップ。定期的に取り扱っている出版社が変わり、出版社の個性を感じる事の出来るセレクトになっている。また書店だけではなく、トークショーや展覧会なども開催、本の売り場のコーディネートや本のアーカイブ作成も手がけている。
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