目利きの書店が選んだシーズナルな写真集3冊を紹介するシリーズ第3弾。世界中の出版社やアーティストの作品集を幅広く取り扱うオンラインブックショップshashashaのセレクトは、ボリューミーなものばかり。室内で過ごす時間が増えるこの時期こそ、ゆっくりと大作に向き合ってみては?
セレクト・文=小林暢弘(shashasha ディレクター)
目次
マリウス・W・ハンセン『100 Whanzines』
ロンドンを拠点とするノルウェー人写真家、マリウス・W・ハンセンのパーソナルワークが詰まったZine100冊分のアンソロジー。ハンセンは『Fantastic Man』『i-D』などの雑誌やシャネル、ルイ・ヴィトンといったブランドとの仕事で知られているが、その傍ら、これまでのコマーシャルプロジェクトや休日のスナップなど自身のコレクションの中から、毎号ひとつのテーマを取り上げ、5年間にわたりZineを発表し続けてきた。550ページにわたる視覚体験から感じるのは、新しいイメージを生み出す喜びだ。個人的なZineという形式の自由度や楽しさが印象的な、創作意欲を掻き立てる1冊となっている。
タイトル | 『100 Whanzines』 |
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出版社 | 私家版 |
価格 | 4,499円 |
発行年 | 2023年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
ワイアット・ナオキ・コンロン『Double Double, Protein Style, Animal Style with a Strawberry Shake and Chips』
アメリカ人写真家のワイアット・ナオキ・コンロンは、祖父の死後、10年近くを祖父の人生を記録する写真の収集と整理に費やし、本書を発表した。各ページに現れる時計は、祖父の生前のルーティン(午前4時に起床し、午後7時に就寝)を示すと同時に、誕生から死までを示唆し、祖父の一日と90年の生涯の時間軸がパラレルに展開されている。時計が午前7時の少し前を指すページでは、日本軍による真珠湾攻撃の後、当時青年だった祖父が米軍に入隊するイメージが織り込まれている。ハワイで生まれ育った祖父は、アメリカのために日本と戦い、祖父と同じく日系人である祖母は、強制収容所に収監されていた。そうしてページをめくっていると、最後の1時間が必然的に近づいてくる。900ページ超の厚みから浮かび上がるこの人生の物語は、秋の夜長にぴったりだろう。
タイトル | 『Double Double, Protein Style, Animal Style with a Strawberry Shake and Chips』 |
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出版社 | The Fulcrum Press |
価格 | 10,500円 |
発行年 | 2023年 |
仕様 | ソフトカバー |
URL |
アンダース・エドストローム『Shiotani』
本書のタイトルとなっている “Shiotani” は、京都の山間の村、塩谷を指している。スウェーデン出身の写真家/映像作家であるアンダース・エドストロームは、塩谷出身の妻の帰省に伴いこの地を何度も訪れ、家族の日常を撮影してきた。周囲の自然、食卓、こたつでくつろぐ息子と娘、農作業といった些細な日々から、家族旅行、妻の祖父母の死まで⋯⋯。23年間にわたって撮影されたイメージが、750ページを超えるボリュームの中で、淡々と静かに家族の物語を展開していく。手触りのよい薄めの紙にエドスローム作品特有の美しい色が合わさり、ページをめくるたびにノンフィクションとフィクションの境界が心地よく薄まっていく。
タイトル | 『Shiotani』 |
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出版社 | AKPE |
価格 | 16,500円 |
発行年 | 2021年 |
仕様 | ハードカバー |
URL |
shashasha
日本とアジアの写真を世界中で閲覧、購入できる機会を広げるプラットフォームの提供を目的としスタートした、オンラインフォトブックコレクション。世界中からセレクトした出版社の写真集をはじめ、約1200タイトルの新刊本、ヴィンテージ写真集、プリントをラインナップし、幅広い作家を取り扱う。
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