この数年、アート写真がぐんと身近になっている。世界中の美術館で写真展が増えているし、写真集の刊行も活発。アートフェアも各都市で盛んに繰り広げられてはいるが、大衆に浸透しはじめている何よりの理由が、アート写真のフェスティバルが急増していることだろう。
写真祭といえば、これまでは1969年にスタートしたアルルの国際写真フェスティバル、31年目を迎えるイエールの写真フェスティバルといったフランス勢の老舗が主流だったが、2010年代に突入した頃から、写真祭の世界地図に変動が起き始めた。
1. Unseen Photo Festival
アムステルダムで2012年にスタートしたアートフェアのUnseenも、そのひとつ。大御所の写真作品が集うパリフォトと対極をなすように、写真雑誌『Foam』と連動し、エッジーかつ旬の若手アーティストを紹介し、まだ手垢のついていない才能や表現に出会える場として活況を呈してきた。中でも、『Foam』の若手に与える賞TALENTに選ばれた作家たちによる屋外展示は、毎年注目の的。
そのUnseenはすっかり知名度も上がり、成熟期に入った感があるが、5年目を迎える今年からはこれまで開催してきた3日間の写真フェアに加えて、前週から2週間続く写真フェスティバルが追加され、街を取り込んでの大きなイベントに拡大。フェスティバルとなった今年は、『IMA』でもパナソニック/LUMIXの特別協賛による、日本人若手写真家6人の展覧会「LUMIX MEETS / Beyond 2020 by Japanese Photographers #4」を開催し、好評を得た。
ユニークなのは、フェスティバルの開催エリアが年ごとに街を転々と移動していくというコンセプトだ。アートフェア、ブックフェア、屋外展示とフェスの街ぐるみでの複合形。今後の発展の仕方が楽しみだ。
2. Breda Photo
公共施設とアパートに囲まれた広場には大きな写真のインスタレーションを。工事現場の足場を利用し、1枚から2、3、4枚と図形を組み合わせるようにして展示する。
欧州フォトフェスティバルレポート第2弾は、オランダの Breda Photo。
アムステルダムから電車で1時間少しの小都市ブレダで「Preda Photo」が開催された。日本では名前も聞いたことのない地方の街で繰り広げられる写真フェスティバルの特徴は、屋外展示が多いこと。今年は「YOU」というテーマを掲げ、美術館や公共のスペース、公園や川などを使って、25の展示と43のイベントが7週にわたって開催された。オランダのお国柄かUnseenに負けず劣らず、これからという若手が中心の意欲的なセレクションが特徴だ。IMA gallery所属の石橋英之も参加作家として招待された。
屋外展示の多くはごく普通の住宅地や空き地などで、小さな街をのんびりと散歩をしながら1日で歩き回れるほどよいサイズの写真祭だ。都市で見る写真とはまた違った見方が楽しめる。
3. Images Vevey
レマン湖の周辺は、半周ぐるっと複数のアーティストの作品が点々と配置されている一大展示スポット。湖畔を散歩しながら、ゆったりと作品鑑賞する人たちの姿が。
欧州フォトフェスティバルレポート第3弾は、ジュネーブから電車で1時間、スイスの西部にあるVeveyのフォトフェスティバル「Images Vevey」。2年に一度のビエンナーレ形式の写真フェスティバルだが、これが知られざる名フェスなのだ。
駅に到着するなり構内で写真作品が出迎えてくれる。人口2万人弱、レマン湖沿いのリゾート地で、さして大きな街ではないのだが、街全体がフェスティバル一色。なんと75もの展示が街中に点在していて、犬も歩けば展示に当たる状態。美術館という美術館、教会、アカデミーはもちろん、ギャラリーやカフェ、デパートや蚤の市まで巻き込んで、写真を展示している。
とりわけ目立つのが屋外展示だ。湖畔の道沿いや街中の通りに立つ広告のビルボードや立て看板はもちろん、建物の外壁を利用した巨大写真の展示は圧巻。普段見知っている作品も、サイズが異なるだけで印象が大きく変わる。
いわゆるプリント作品の額装展示を超えた、大掛かりなインスタレーションも上手に取り入れ、その展示のユニークさと多様さに、写真というメディアの可能性を実感する。
展示手法だけでなく、作家のクオリティも文句なし。ピエール・エ・ジルにマーティン・パー、クリスティーナ・デ・ミデル、クリスチャン・パターソンと、大御所からいま旬の作家までがずらりと並ぶ。それでいて、ごく普通の観光客も写真ファンも地元のお年寄りから子供たちまでが、自然に展示を楽しんでいるのが印象的。次回、2年後の開催が楽しみだ。
コアなコレクターに向けたアートフェアより、誰もが楽しめる開かれた写真フェスティバル。それも主要都市ではない地方での開催が人気を博しているのは、時代の要請だろうか。ギャラリーや美術館でツンとすました展示は苦手な人も、かならず楽しめるのがよいところ。ぜひ出掛けてみてほしい。
【各フェスティバル公式サイト】
・Unseen Photo Festival(オランダ・アムステルダム)
・Breda Photo(オランダ・ブレダ)
・Images Vevey(スイス・ヴヴェイ)
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。