現在、パリのヨーロッパ写真美術館では私写真をテーマにした展覧会「Love Songs」が開催中だ。
キュレーションは、館長であるサイモン・ベーカー自らが手がける。50年代より、日本や北米では身近な被写体へカメラを向け、撮り続けることで作品とする潮流が写真史に顕著に表れている。ベーカーは、20、21世紀を代表するこのジャンルに長けた14人の写真家で展覧会を構成。私写真の核とも言える、妻・陽子との日々を写し出した荒木経惟の「センチメンタルな旅」と「冬の旅」、80年代に過ごしたニューヨークで恋人や近しい友人、当時アウトサイダー的に扱われたクイアたちを切り取ったナン・ゴールディンの代表作「The Ballad of Sexual Dependency」を中心に、ラリー・クラーク、エメット・ゴーウィン、サリー・マン、ロンロン&インリ、エルベ・ギベール、リン・チーペン、殿村任香らが選出され、MEPコレクションも交えた作品で構成している。
中にはヨーロッパで初展示となる作品もあり、見ごたえがある内容になっている。2フロアに分けられた会場は、A面が1950年代〜2000年まで、B面は2000年以降から現在に至るまでという時代系列で展示されている。タイトルが物語るように、恋愛を軸にした関係性は、年代や性別を超えて紡ぎ出され、出会いから日常の営み、そして別れまでがドラマティックに立ち現れ、見るものを大きく揺さぶる。会場ではこの展覧会のために作られたラブソングのプレイリストがあり、無料でヘッドフォンが貸し出され、聴きながら展覧会を鑑賞できる。
Spotifyで聴く展覧会「Love Songs」
また、地上階のSTUDIOという新鋭作家を扱うスペースでは、2008年に発表した題府基之の「Lovesody」がフィーチャーされている。「Lovesody」は愛とラプソディー(狂詩曲)を掛けた造語で、シングルマザーで、二人目を妊娠していた彼女との関係性を表すタイトルとなっている。当時23歳の題府にとっては衝撃的な出会いで、閃光を放つような日々だったという。彼女の妊娠後期から、赤ん坊が誕生した後の数週間の、合計6カ月の関係の中で作家の視点は、恋人、友人、父親、さらには愛を求める子供のようにも変化していく様子が、作品を通して垣間見ることができる。
文=糟谷恭子
タイトル | 「Love Songs」 |
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会場 | ヨーロッパ写真美術館 Maison Européenne de la Photographie |
会期 | 2022年3月30日(水)〜8月21日(日)(題府基之「Lovesody」は6月12日まで) |
時間 | 11:00〜20:00(木曜は11:00〜22:00/土日は11:00〜20:00) |
休館日 | 月火曜、5月1日(日) |
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