Interview
Stephen Gill

スティーブン・ギル インタビュー
誰も見たことのないイメージを作り続ける気鋭の写真家と、
京都に残る伝統的プリント技法が魅せる新境地とは?

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スティーブン・ギル

カメラを水に漬けたり、蟻をカメラの中に入れたり、エナジードリンクを現像液として用いたり――誰も見たことのないイメージを追い求める飽くなき探究心から生まれる実験的なアイデアだけでなく、それらを美しいイメージへと昇華する徹底した姿勢を持ちあわせるスティーブン・ギル。一見何もないように見えるスウェーデンの自然を対象にした新作『Night Procession』では、ギルらしい型にはまらない発想によって生命力に満ちあふれた夜の森を神秘的に描き出している。そして今年、明治20年(1887年)に創業し、ガラス板を使った伝統的印刷技法コロタイプを継承する便利堂コロタイプ工房が主催するHariban Awardをギルが受賞。京都にある工房を訪ねたギルに、新作とプリント体験について話をきいてみた。

構成・文=IMA
写真=大野秀子

スウェーデンの豊かな自然をとらえた独自の視点

―『Night Procession』は、スウェーデンで制作されたシリーズです。いつ頃、ロンドンからスウェーデンに引っ越したのでしょうか。また、環境の変化が制作にもたらした影響があれば教えてください。

2014年3月に家族とともにスウェーデン南部に移住したのですが、その前から都市での生活から一転して田舎で暮らすことで、さまざまな面で新しい風が吹き込まれると確信していました。また、私の作品において自然が大きな役割を果たすようになるだろうとも。また、被写体がどのように立ち現れるのかも異なるので、表層から隠されているものを引き出すために、住み慣れたロンドンにいるときよりもっと想像力を働かせないといけないと考えていました。それに、近年の写真技術や不正確に映しだされた自然の姿にがんじがらめにされた抑圧から解き放たれた作品を作ることを楽しみにしていましたね。

スウェーデンは広大な国ですが、人口はとても少なく、何もない土地や鬱蒼とした森がどこまでも続いています。一見、荒涼とした景色として映りますが、実際はそうではありません。驚くほど活発に生命が活動している。そのような土地で、3年半かけて『Night Procession』を制作しました。

ギル自身が手がける出版レーベル、Nobodyより刊行した写真集『Night Procession』。

ギル自身が手がける出版レーベル、Nobodyより刊行した写真集『Night Procession』。


―私たちが普段目にすることのない、動物たちの姿に目を向けたきっかけとは?

日中に散歩をする中で見つけた生命の存在を示すたくさんの小さな証拠が、動物たちがどれほど夜に活発に活動しているのかを教えてくれました。例えば、羽毛の塊、さまざまなサイズの動物の足跡、かじった跡のある枝、卵の殻、アリ塚、食べかけのきのこ、前の夜に動物たちが残したご馳走のまわりに集まるかたつむりやなめくじ……。暗闇に覆われた森の中で、野生の勘と生きる意志に突き動かされて暮らす動物たちに思いを巡らせるようになりました。

便利堂でのテストプリント

便利堂でのテストプリント


―写真の中の動物たちは、カメラの存在に気づいていません。アングルも独特で、カメラは人の目線よりもずっと低い位置に設置されています。観る者は、動物たちの世界に忍び込んだような気分になりますが、カメラの位置はどのようにして決められたのでしょうか。

動物たちの活動範囲を想像して場所のあたりをつけ、木々の低い位置に人感センサ付きのカメラを設置し、何かが動くとシャッターと赤外線フラッシュが作動するようにしました。何もない風景を見ながら長方形のフレームの中で構図を考え、そこにまだ存在しない夜行性の動物たちの姿を想像し、まだ起こっていない活動について思いを巡らすのはとても面白かったです。「自分が鹿だったらどこで水を飲むだろうか?」「もしフクロウだったらどの枝にとまるか?」などと考え、「自分ならここだ」と思う場所にカメラを設置しました。


―自身でシャッターを押していない写真を目にしたときの感想を教えてください。

この世のものとは思えないパラレルワールドに足を踏み入れたようで、興味をかき立てられました。また、これらは無音のイメージですが、不思議と音を発しているように感じました。また、私が13歳のときに初めて手がけた写真プロジェクトを思い出しました。ブリストルの実家のバスルームの窓に腰かけて、カメラにつなげた10メートルのケーブルの先についたスイッチを握りしめ、庭にやってくる小鳥の写真を撮ろうとしていたんです。

便利堂の工房でプリント作業をするスティーブン

便利堂の工房でプリント作業をするスティーブン


―これまでの作品でも、作者の介入を抑えることで、新しい写真表現を提示してらっしゃいますよね?

イメージの作り手として、作者が一歩身を引くことによって、被写体が自ずと前面に出てくる方法を探求し、さまざまな方法を試してきました。「Talking to Ants」では、撮影した場所で採取した生きた植物や虫、種、ほこりなどをカメラの中に入れたフォトグラム作品を作り、「Best Before End」では、写真乳剤を化学変化させるエナジードリンクの性質を利用して現像ました。被写体になんらかの役割を担ってもらうことで、作者の意図と偶然の出会いによってイメージを作ったのです。今回の場合、私自身は完全にイメージづくりから手を引き、私が眠っている時間に被写体たちが作者の役割を担い、イメージを作ったり演じたりしているような感じでしたね。自然そのものが自身について語る作品といえると思います。

―本作では、切り取るイメージに対するコントロールを抑えていますが、最終的にどのイメージを使うか、またどのようなプリントとして仕上げるのかの選択は行われています。

イメージを選ぶときは、作品に時間を与えるようにしました。作品そのものが作品自身を構成するための余白を残したかったのです。作品を紙に印刷して日々の暮らしの中で眺めたりして、イメージのことをよく理解しようとしました。また同時に、あまりにも近づきすぎてイメージが窒息してしまわないように気を配ることも忘れませんでした。プリントの色調や雰囲気は、自然から受けたインスピレーションをもとに決めました。マスタープリントには、この地域に生えている植物で作った顔料を用いています。

便利堂の工房で作業をするスティーブン

便利堂の工房で作業をするスティーブン


―コロタイプに興味を持った理由とは?

私は、若い頃からさまざまな技法をインスピレーション源にしながら作品を作ってきました。それはいまも変わっていません。作品自身が表にでてきて息をするためにはどうしたらいいかを探求してきたので、コロタイプには自然と惹きつけられましたね。本作とコロタイプはとても相性が良いと思ったので、Hariban Awardに応募しました。オリジナルのプリントには植物性の顔料を使ったので、インクを用いたらどうなるのか見てみたいとも思っていましたし。デジタル時代において、昔ながらの印刷技術を体験し、学ぶ機会を得たことを非常にうれしく思っています。

便利堂の工房で作業をするスティーブン

便利堂の工房で作業をするスティーブン


―実際にコロタイプを体験し、オリジナルとはどのような違いがありましたか。

便利堂の職人の方たちと一緒にプリントしたイメージは、私が作ったマスタープリントと非常によく調和していると感じました。コロタイプの工程では、コントラスト、濃淡、色、陰影、ディテールの強調など、あらゆる要素を細部にいたるまで調整することができるので、表現の可能性が無限に広がっています。便利堂では、さまざまな技術を駆使してそのすべてをコントロールすることが可能です。経験豊富な技術者たちとは視覚的な理解の仕方を共有しているので、意見交換をしたり、アイデアを言葉にすることが、実にスムーズにできました。今回新しく作ったプリントには、オフホワイトの和紙を使用し、生き生きとした豊かな仕上がりになりました。

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―本作は、どこかで見ることができるのでしょうか?

来年の春にHariban Awardの受賞者展として、京都で個展が開催される予定です。今回の滞在でも下見に訪れてきました。春にみなさんにご覧いただけるのを楽しみにしています。

タイトル

『Night Procession』

出版社

Nobody

発行年

2017年

仕様

ハードカバー/216×270mm/160ページ

URL

https://www.nobodybooks.com/product/night-procession

https://benrido-collotype.today

http://haribanaward.org

スティーブン・ギル|Stephen Gill
1971年、イギリス、ブリストル生まれ。ロンドン東部に位置するハックニーを拠点とし、『A Series of Disappointments』『Hackney Flowers』『HACKNEY KISSES』など、そのエリアを舞台とした代表作も多い。出版レーベル・Nobodyを運営し、自身の作品集を多数発表している。現在は、スウェーデンを拠点に活動する。