2012年のデビュー以来、ヨーロッパやアメリカを中心とした横田大輔の活躍は、目覚ましいものがあった。海外のメジャーな雑誌に次々と登場し、モノクロで荒々しくも繊細なそのテクスチャーは写真ファンを熱狂させ、海外のフェスティバルやアートフェアがこぞって横田を招待した。日本写真の歴史的コンテクストで語られることが多いものの、その本質は写真というメディアの現在・未来に問いかける挑戦的なアプローチであり、オーディエンスの想像をはるかに凌駕する制作量や作品のボリュームは世界を驚かせた。横田は2013年に第一回目の「LUMIX MEETS BEYOND 2020 BY JAPANESE PHOTOGRAPHERS」に参加している。近年、拠点である東京郊外をベースに自分の作品と向き合っている横田に、作品とキャリアについて聞いてみた。
インタヴュー・構成=深井佐和子
写真=宇田川直寛
―まず、これまでの活動を振り返り、どこかご自身にとって海外の観客の方々を特に意識するようになったターニングポイントやきっかけはありましたか?
学校を卒業後さまざまな仕事をしながら写真を撮り続け、「1_WALL」受賞後は国内をベースに活動をしてきましたが、国内での活動にある種の難しさを感じていたことが、ひとつの大きなポイントとしてありました。ちょうどときを同じくして、インターネットによって海外の写真界の情報収集が容易になったことは大きなターニングポイントでした。
―日本から海外へ活躍の場を拡大していく過程で、自分にとって苦労したことなどはありましたか?
制作そのものは日本で行ってきたので問題ありませんが、それ以降の発展の過程で出てくる問題、つまり言語や移動上の距離・時間などの基本的な部分で克服できないことがたくさんあり、未だに悩ましい問題です。それに対してですが、強いていえば、ここ最近はそれらの問題に対して無理が出来なくなる、という自己防衛術が自分の中で強制的に発動した感はあります。もちろん弱点は人それぞれあると思うので、その点を補ってくれる他の人のサポートなりなんなりを見つける他、打開策はないかなと思います。
―ご自身のこれまでを振り返り、海外での展示や活動で特に印象に残っているものはありますか?
たくさんありますが、特に思い出深いのは2017年に行ったオランダのFoam写真美術館での個展「Matter」です。理由としては、当時、自分の中でひとつの目標としていたポール・ハフ・アワードでグランプリを受賞することができ、その結果としての個展でしたので、感慨深いものがありました。
Foam写真美術館でのPaul Huf Award受賞展(2007年)
―海外での活躍が広がるきっかけのひとつとして、ご自身の写真集がとても大きなツールとしての役割を果たしたようにも思います。自分の作品が特に海外で受け入れられた背景や理由をご自身でどのように分析しますか?
ひとつには、当時世界的に注目され始めていた日本の写真・写真集の歴史の流れに接続するコンテクストで僕の作品が受け取られたことだと思います。もうひとつは、自分の作品が、従来のストレート写真とは異なる、デジタル写真以後のPhotoshop等の事後処理・加工を経た写真の現在の形と、アナログ技術がもたらす写真の物質的側面、そのふたつの特性を取り扱っていた事にあるのではないかと考えています。
『Matter』横田大輔(Self Publishing/2017)
―過去に「Beyond 2020」展に参加してみて、どのような機会になりましたか?
同世代の作家との交流や、普段とは異なるオーディエンスの方々に作品を見てもらえた事は、自分にとってとても貴重な機会になりました。
―国内と海外のオーディエンスは、どのような点で異なりますか?またご自身の写真プリントのコレクターの方々の傾向は国内と海外でどのように違うのでしょうか?
英語でオーディエンスの方々と直接話しているわけではないので、一概にいえることではないのですが、海外の方が年齢や職種などより幅広い人々が写真に関心を持っている印象はあります。コレクターの方に関していえば、日本と海外での傾向の違いはあまり感じていません。ただ、ひとつ挙げるとするなら、海外での方が、「コレクター」と呼ぶほど作品をコレクションしていない人たちでも、例えば家具を買うように、アートフェアに立ち寄った際に作品を買っていくことが多くあるような印象は受けます。
―写真家としての活躍を目指す方々に、オススメのアワードやアートブックフェアなどがありましたら教えてください。
また、現在ではネットで簡単にそういったことのリサーチが可能ですし、僕がオススメするまでもなく、おそらくみなさんの方がよくご存知だと思います。それよりも、それらはもうすでに当たり前に存在していることなので、既存の形式に対する代替案となる企画や活動を、アーティスト自身が主導となってどんどん行っていくことが、今後の可能性としてより重要になっていくのではないかと思います。
―これからチャレンジしたいことなどがありましたら教えてください。
常に何か新しい事は考えていきたいです。
横田大輔|Daisuke Yokota
1983年埼玉県生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。2008年キヤノン写真新世紀佳作2010年第2回写真1_WALL展グランプリ受賞後作家として本格的に活動を開始。海外でThe Outset Unseen Exhibition Fund(2013年)、JohnKobal Residency Award(2015年)、Paul Huf Award(2016年)等の賞を受賞する他美術館での個展・グループ展に多数参加。また、これまでに『VERTIGO』、『垂乳根』など多くの写真集を発表している。
2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。