11 March 2019

Interview
Chad Moore

チャド・ムーアインタヴュー
被写体との信頼から生みだされる、ロマンティックで刹那的な瞬間

11 March 2019

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チャド・ムーアインタヴュー「被写体との信頼から生みだされる、ロマンティックで刹那的な瞬間」 | チャド・ムーア

1987年、フロリダ生まれのチャド・ムーアはライアン・マッギンレーの下でアシスタントを務めた後独立し、現在ではファッションなどを中心に活躍するフォトグラファー。2016年にoodeeから発行した写真集『Bridge of Sighs』が大きな話題となり、翌年にはパリのギャラリー デュ ジュール(アニエスベーが運営)にて展覧会を開催した。ラリー・クラーク、ライアン・マッギンレーと続いてきたアメリカのユースが持つ痛みや輝き、フレッシュな生命力が溢れる写真の魅力は、多くのファンから支持されている。昨年オープンしたばかりのアニエスベー ギャラリー ブティックで、東京で初の展覧会を行うために来日し、自ら「東京が大好き」と語るチャドに話を聞いた。

インタヴュー・文=深井佐和子
写真=萬砂圭貴

―日本へようこそ。今回は何度目の来日ですか?

3度目かな。1度目はライアンと一緒に、2度目はTwelvebooks主催のサイン会のために。今回はやっと自分の展覧会のために来ることができて、感激しているよ。いつも被写体になってくれている僕のベストフレンドたちと一緒に来日したので、とてもワクワクしている。本当に東京は僕にとって特別な場所なんだ。

―このアニエスベー ギャラリー ブティックでの展示は点数も多く、とても見応えがありますね。

広い空間を活かして全部で32点、展示することができました。いままでの展示の中で最大規模です。それを東京で行うことができて本当に嬉しい。過去5年くらいまで遡って、作品を自由にミックスした感じかな。

メインヴィジュアルの被写体にもなっている友人のアテナ(左)と、ヘアスタイリストの友人リジー(右)と。

メインヴィジュアルの被写体にもなっている友人のアテナ(左)と、ヘアスタイリストの友人リジー(右)と。


―サイズもランダムで、自由で軽やかな展示空間になっている印象を受けます。インスタレーションはどのように行ったのですか?

作品のセレクトは、出力してスタジオの壁にマグネットで貼っていって少しずつ組み立てていったんだ。サイズは自由に決めたけど、メインヴィジュルの作品(写真下)は、本当は幅3メートルくらいにしたかったんだけど、搬入できないし、物理的に不可能だったんだよね(笑)。実はプリントがニューヨークで間に合わなくなってしまって、そのときパリにいたので、パリでプリントして、東京に送って額装したんだ。ニューヨークって写真都市だと思われるかもしれないけど、制作にすごく時間がかかるんだよ。でもこうしてフレームに入っているのを見ると、新鮮な目で作品を見直しているような気持ちになるね。


メインヴィジュアル


―あなたの作品は、もちろん実生活を写しているせいもあるかもしれませんが、どこか映画の一場面のような、ストーリー性がありますね。写真集になったら素敵だなと思うのですが、展覧会カタログは作られるのですか?

実はオープニングには間に合わなかったんだけど、アメリカのPacificという出版社から同名の作品集がもうすぐ刊行予定なんだ。4月の第1週には出来上がるので、クロージングに合わせて再来日する予定だよ。150ページのボリュームで、いままでの作品がリミックスされている。自分の写真集の中で最もしっかりした本になる予定で、出版社もニック・ワプリントンなど敬愛する写真家の作品集を過去に出しているところだから、とても嬉しいし、僕自身ワクワクしている。

―それは嬉しいニュースですね!ではあなたの制作について聞かせてください。普段はニューヨークをベースにしているんですよね。

マンハッタンに住んでいるよ。今回一緒に来日した親友たちもみんな数ブロック離れた近所に住んでいて、毎日のように会っている。


―ほかの大都市と同様、ニューヨークの都市自体は拡大しているし、その内情も風景も日々変容している印象を持っていますが、その中で生活し、制作するというのはいかがですか?

僕にとっては東京の方がよほど複雑で入り組んでいて未来的。ニューヨークは大都市だけど、変わらない良さがあるし、いると落ち着くんだ。特にいまはすごく寒い(-15℃)のでみんな外に出たくないし、友達同士で家にこもってくっつき合って他愛ない話をしたりして、そういう親密さがニューヨークの良さだと思ってる。

―それは意外ですね。でもそんな「地元」感、安心した親密な関係性が、あなたのフレッシュな作品の魅力を生み出すのだと納得しました。では東京の面白さとはどんなところですか?

すべて!道が入り組んでいて、地図なしで大都会に迷い込むと、庶民的な風景があったり、そうかと思えば近未来的な建物がすぐそこに建っていたり、いい意味で混沌としている。人も面白くて、オシャレな若者が多いし、あと鏡張りのバーとか監獄バーとか、変な店も多い(笑)。それから前回来たときに箱根に行ったんだけど、都心からすぐに自然の中でリラックスできる場所があるなんて驚きだよ。今回も、友達みんなを連れて行こうと思っている。本当は北海道も行きたいし、いつかは数カ月撮影しながら旅したいと考えているよ。

―友人たちとグループで、もしくは1人で、旅をするということはご自身にとって重要ですか?

そうだね。ヨーロッパだったらパリが好きだけど、でもいまや世界が均一になりすぎていて、正直ヨーロッパもニューヨークも、あまり代わり映えしないんだよね。特別な感じが薄まってしまっていて。その意味でも東京が好きなんだよ。僕にとっては過度にオリエンタルやエスニックということもなく、それでも何もかもが違ってまさに異文化にいることを体感できる。

ニューヨークも好きだけど、そこから離れて移動することはとても良い刺激になる。写真についていうと、いつでも撮影しているから、とりわけここだから撮れる、ということは無いにせよ、旅する友人たちはとても良い被写体だね。そして月夜などの風景も自分にとっては好きな撮影対象なので、日常と離れた場所の風景に感動してシャッターを切ったりすることも良くある。この展示、そしていま作っている作品集にもそんな風に旅先で撮影した作品がたくさん含まれているよ。

チャド・ムーア


―あなたの作品にはさまざまな感情が閉じ込められています。歓びや情熱、退屈さや悲哀など、ときには相反する感情も。そしてイノセンス、弱さ、センチメンタル、そして同時に暖かさ、強さが同居しています。特に悲しみは重要だと思うのですが、圧倒的な美しさや喜びの表情の中にも、時折悲しさが見え、それが作品に素晴らしいレイヤーを与えていますね。

僕の写真においては、「目」が、あるイメージを成立させる鍵だと思うんだ。被写体の目を見れば、撮影者を信頼しているかどうかがすべてわかってしまう。僕の写真は一見ハッピーでポジティブな感情だけが写っているといわれることもあるんだけど、よく見ればもっと多様な感情が隠されている。喪失や、切望すらも。写真は僕の理想の世界を写しているから、愛や幸せ以外のさまざまな人の感情に背を向けるのは、真実ではないと思っているんだ。

―ハッとするような瞬間をイメージの中に閉じ込めることに長けていると思うのですが、その瞬間を逃さないために気をつけていることはありますか?

おそらく被写体と長い時間を過ごしていることが原因だろうね。彼らの次の動きを読めることすらある。写真で一番大切なことは余白と、対象をよく見つめることに尽きる。写真を撮られるのが嫌いな人もいるけど、僕の写真に出てくる人は、皆カメラを向けられることに慣れているから、見ず知らずの人に対して、威圧的な印象を与えないのかもしれないね。

―あなたの作品を見ていると「生きる」「暮らす」「楽しむ」ということと写真がとても近く感じます。その距離感はとても大事だと思うけど、そもそもどうしてあなたは写真という表現を選んだのでしょうか?

いつの間にか写真は僕にとって世界と接続する方法になった。どうしてと聞かれても、答えを出すのは難しいな。おそらく色々な要因が重なって、写真は僕にとって世界を見るひとつの方法になったんだ。僕はとてもシャイな子どもだったから、カメラの裏に隠れられるのも自分に合っていたんだと思う。いまでもコミッションワークのためにモデルを撮影するときにそうしたりするよ。最近も歌手のキャット・パワーを彼女のアパートで撮影したんだけど、ベッドに座って写真を撮っている最中、クレイジーなことばかりいわれて思わず泣きたくなったけど、ただただ写真を撮り続けたよ。

―あなたの写真は「いま」を強く感じさせます。それが年齢を重ねることに深くなり、変化していくことが魅力だと思います。自分でこの数年間の作品を振り返ってみて、改めて思う変化はありますか?

「いま」を捕まえること、それはこれからも常に自分の写真の重要な一部分だと思う。歳を重ねるにつれ、新しいアプローチを見つけていかなくてはならない。例えばこの展覧会の中でもセットアップで撮影した写真もあるけど、それはきっかけに過ぎなくて、写真そのものは「瞬間」をとらえているし、同じエネルギーを反映しているんだよね。夜の空や夕日の写真もそうで、人が何かする瞬間を待っているのに疲れてしまったとき、空も人と同じように生き生きしたエネルギーを持っているって気づいたんだ。

終始穏やかでリラックスした雰囲気で、いまの東京での時間を心から楽しんでいる様子のチャド・ムーア。「ネクスト・ライアン」という文脈でこれまで語られることが多かったが、今回の展示、そして製作中の作品集で見る作品群はそういった呼び名をとっくに超え、ニューヨークのダウンタウン・カルチャーを写し取る手腕と、彼自身が持つ人柄がイメージから迫ってくる。ニューヨークという大都市が日々生き物のように高層化・AI化していく中で、マンハッタンのユースがいつでも放ち続ける輝きや、時折見せる刹那や影をその最中にいながら温かく見つめるような目線が、彼の作品を魅力溢れるものにしている。写真集の刊行と4月の再来日に期待したい。

オリジナルグッズ

展覧会開催に合わせて、Tシャツ、ポストカード、トートバックなどのオリジナルグッズも販売されている。

チャド・ムーア

インタヴュー動画

▼展覧会
タイトル

「MEMORIA」

会期

2019年2月9日(土)~4月28日(日)

会場

アニエスベー 青山ギャラリー(東京都)

時間

13:30~18:30

休廊日

月曜

URL

http://www.agnesbgalerieboutique.jp/

▼写真集
タイトル

『MEMORIA』

出版社

Pacific

刊行日

2019年4月第1週

URL

http://www.pacificpacific.pub/shop/neitherasaltspringnorahorse

チャド・ムーア

チャド・ムーア|Chado Moore
1987年、フロリダ生まれ。ライアン・マッギンレーの下でアシスタントを務め、ニューヨークのダウンタウンアートの次世代を担う。現在は主にファッションなどの分野で活躍。写真集に『Bridge of Sighs』がある。

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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