Interview
Vasantha Yogananthan

ヴァサンタ・ヨガナンタンインタヴュー
ドキュメンタリーとしての現代版ラーマーヤナ「A Myth of Two Souls」

AREA

東京都

19 September 2019

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ヴァサンタ・ヨガナンタンインタヴュー「ドキュメンタリーとしての現代版ラーマーヤナ『A Myth of Two Souls』」 | ヴァサンタ・ヨガナンタン

日本で老若男女誰もが知っている説話といったら何だろう?浦島太郎か桃太郎の童話ではないだろうか。後者桃太郎の元になったという説があるのが、インド二大叙事詩のひとつ「ラーマーヤナ」だ。この物語に魅了され、フォトストーリーとして再構築した写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」が9月29日(日)まで東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催されている。この物語を写真で紡いだのはパリ在住の写真家、ヴァサンタ・ヨガナンタン。ドキュメンタリーとフィクションの狭間を表現する作風で、2015年「マグナムフォトアワード」を受賞した注目の写真家だ。展覧会に合わせ来日した彼に、このプロジェクトについて聞いた。

文=海老原光宏
写真=清水はるみ

「ラーマーヤナは、インド人なら誰でも知っている大変人気のある作品。漫画にもテレビドラマにもなっています。私自身のラーマーヤナを作るにはどうしたらいいか考え、写真のみならず着色し、テキストも添え、現代を舞台にしました。また、ローカルなインド人の表情を旅して撮りたいという構想もありました」

ヨガナンタンは幼少時にスリランカ人である父親から漫画版ラーマーヤナを与えられ、以来愛読してきたという。ラーマーヤナのストーリーは、王子のラーマと妃となるシーターとの出会い、王国からの追放、魔王ラーヴァナとの戦い、そしてシーターとの別れを描いた7章にわたる英雄譚。詩人ヴァールミーキが編纂し、ヒンドゥー文化の哲学、倫理観が凝縮されている。

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景 ©️   CHANEL NEXUS HALL

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景 ©️ CHANEL NEXUS HALL


ヨガナンタンは、ラーマの足跡をたどり、ネパールからインド、スリランカと北から南へと7年かけて撮影旅行していったという。現地に赴いたのは12回。ラジャスターンなどの観光地ではなく、ローカルな地で住んでいる人々にシーンを演じてもらい、撮影を進めた。

「車でしか行けない田舎ばかりでした。未開な地もあり、本当に叙事詩の中の世界のようでした。モデルになった人たちは、オーディションをするのではなく、道行く人を呼び止めて撮影しています。説明するとみなラーマーヤナを知っていました」

撮影方法はまさにドキュメンタリー的。物語と写真表現が連動し、現代インドがファンタジーとなる。展覧会では、各章ごとに異なるビジュアル表現が特徴的だ。1・2・7章ではカラー写真に加え、モノクロ写真に現地の画家が伝統技法の手彩色で着色したものが並ぶ。3章では和紙にプリントし、4章ではヨガナンタンが幼少期に親しんだという漫画が登場。5章はアクリル絵の具でヨガナンタン自らが動物に着色。6章は写真と動画で構成された3面マルチスクリーン映像(出版の際は写真)とさまざま。

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景(5章)©️ CHANEL NEXUS HALL

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景(5章)©️ CHANEL NEXUS HALL


「章ごとの変化を体験できるよう表現しています。例えば、1・2章はラーマの生誕から結婚までを描いた現実的な内容なので、写真もはっきりしています。3章はラーマ夫婦が王国を追放される、物語のターニングポイント。そのため、和紙に印画し、もやがかかったような雰囲気にし、二人の未来が不安であることを表現しました。

展覧会では通常すべて同じ紙に印画して展示しますが、そのマテリアルや展示方法などを吟味することで、写真も彫刻的に、3次元的に見せられるのではないかと考えているのです」

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景(3章)©️ CHANEL NEXUS HALL

写真展「A Myth of Two Souls(二つの魂の神話)」展示風景(3章)©️ CHANEL NEXUS HALL


森が舞台の4章は、シーターがさらわれるためコミックを用いてドラマティックに演出。3章とコントラストをなす。戦争となる6章はバイオレンスな映像が流れる。10月に行われるインドのラーマーヤナのお祭りで撮影したものだ。テレビドラマ版ラーマーヤナが人気のため、ヨガナンタンはどこかで映像表現を実施したかったという。展覧会ではそれぞれの章のコントラストをより直接的に体感できる。

ヴァサンタ・ヨガナンタン 01


「最後、二人は別れ、ハッピーエンドで終わりません。でもそれはシーター自らが決断していること。ラーマは正義のヒーローであっても、ダークな一面も持っている。善は善、悪は悪といった二元論ではなく物語は複雑です。そういったところがラーマーヤナの魅力なんです」

「A Myth of Two Souls」は、現在5章までが出版社Chose Communeより出版されている。6・7章はこの展覧会で先行して見られる機会となる。この2章は来年出版予定。気になる人はまずはラーマーヤナがどんな物語かチェックしてみてほしい。その後「A Myth of Two Souls」を見ると、ラーマーヤナの混沌とした世界観を見事に結晶化させたプロジェクトと分かるはずだ。

タイトル

「A Myth of Two Souls 二つの魂の神話」

会期

2019年9月3日(火)~9月29日(日)

会場

シャネル・ネクサス・ホール(東京都)

時間

12:00~19:30

URL

https://chanelnexushall.jp/program/2019/vasantha/

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ヴァサンタ・ヨガナンタン|Vasantha Yogananthan
1985年生まれ、パリ在住。2015年にマグナム・フォト・アワード、2017年にICPインフィニティ・アワード新人賞受賞。ドキュメンタリーとフィクションの狭間を写し出す作品に取り組む。長年にわたり、自然光に基づく特有のカラーパレットを展開し、「A Myth of Two Souls」(2013—2019)プロジェクトでは、地元のインド人画家と協働して伝統的な手彩色を復活させた。本プロジェクトは、ヨガナンタンが2014年に共同設立した出版社Chose Communeから、2016年から2020年の間に7冊の写真集として刊行予定。

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