2 September 2024

Minoxで撮り続けるマーク・ヴァン・デン・ブリンクにインタビュー 9月POSTで展示も

2 September 2024

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Minoxで撮り続けるマーク・ヴァン・デン・ブリンクにインタビュー 9月POSTで展示も | マーク・ヴァン・デン・ブリンク

ポケットサイズのカメラMinoxは、1936年にヴァルター・ツァップによって開発され、簡単に持ち運びでき、新進気鋭のアマチュア写真家が購入できる経済的な小型カメラとして一般大衆に広まった。その革新的なデザイン、コンパクトで小型、隠しやすいという特徴は、後に冷戦中に斬新なスパイカメラとして利用された。スパイカメラには長い歴史があるが、このカメラは、堅牢なデザイン、比較的使いやすいこと、そして優れたレンズが組み合わさって、スパイ活動にも完璧な技術的発明をもたらしたと言われている。このカメラ自体は、多くのスパイ映画で定番のスパイカメラとして登場しているのでスクリーンを通じて見たことがある方々も多いのではないだろうか。そんなカメラを30年以上もの間使い作品を作り続けているアーティスト、マーク・ヴァン・デン・ブリンク。彼の最新作『Stills & Stones』が、オランダの出版社Van Zoetendaal Publishersから刊行され、9月7日よりブックローンチを兼ねた展覧会『Stills & Stones』が東京、恵比寿POSTにて開催される。今回、『Stills & Stones』の撮影の舞台となったアムステルダムPakhius Wilhelminaにあるヴァン・デン・ブリンクのアトリエで話を伺った。

文・写真=岩﨑淳

ー最初に、Minoxカメラを使い始めたきっかけを教えてください。

ドイツのミニカメラMinoxを初めて知ったのは1994年、ロバート・アルトマン監督の映画『プレタポルテ』を観た時でした。1996年、アムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミーで写真を学んでいた最後の年に中古カメラ屋でMinoxに出会い、当時引きずりまわっていた大判カメラの代わりとして使い始めましたが、この小型カメラ(ネガサイズ8x11mm)は、ぶらぶら歩きながら、気ままに撮影する私のスタイルにはぴったりでした。

私にとって今のスマートフォンの「先駆け」のようなものでした。MInoxとともに自由奔放で実験的でありながら気取らないやり方で仕事をするうちに、私の旅と人生を綴った詩的な日記のようなイメージのスタイルが自動的に生まれました。

ー最新作『Stills & Stones』の前に出された『The Minox files』(Van Zoetendaal Publishers,2021)『The Minox files』では、長い期間撮影されていましたが、どのように本プロジェクトはスタートしたのでしょうか?

1996年から今日に至るまで、私はMinoxをノート代わりに使い、毎日のように撮影しています。 使い始めた当時は、この作品で本を作ったりプロジェクトを立ち上げたりするつもりはありませんでした。私は小さなプリントを作り、番号と日付ごとに箱に纏めていました。2020年に出版社Van Zoetendaal Publishersを主宰するウィレム・ファン・ゾエテンダールに「Minox Files写真のアーカイブから本を作る気はないか」と尋ねられました。すぐに「そのつもりです」と返事をし、本の制作がスタートしました。

11553.03.nyc Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

07941.01.alps Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

ーヘリット・リートフェルト・アカデミーでは、ウィレム・ファン・ゾエテンダールのクラスで学ばれていたのでしょうか?

ウィレムは、私がヘリット・リートフェルト・アカデミーで学んでいた頃の写真学科の学科長でした。

最初はグラフィック・デザインを勉強していたのですが、なかなか自分の足元が定まらず少し迷ってしまいました。そのことを一度ウィレムに相談したら、「あまり考え込まずに、外に出て写真を撮り始めなさい」と言われました。

今思い返すとあれが最高のアドバイスでしたね。卒業試験の展覧会の際に、ウィレムからMinox Filesの日記写真も「公式」作品と一緒に展示したらどうかと尋ねられました。結果、Minoxで撮影したプロジェクトは私の最高傑作となりました。

ー素敵な物語ですね。ウィレムはあなたの1996年の大学卒業以来、2020年までMinoxカメラでの制作を続けていることを知っていたのですか?先生とは継続して連絡を取り合っていたのですね?

私の卒業試験の後に、ウィレムが当時持っていたギャラリーで作品を発表する機会を得ました。何度かの展覧会を成功させた後、ウィレムはギャラリーを辞めキュレーションと出版に集中することになりました。

その後、長い間ウィレムとはあまり連絡も取らず、私自身も家族を養うためにコマーシャル・フォトグラファーとして働かなければならない長い期間が続いていました。2020年のコロナ禍に、私はMinox Filesのアーカイブからいくつかの作品をInstagramに投稿しました。それが私たちが再び連絡を取り合うきっかけとなりました。

ーその後本を作ることとなり、ウィレムの作品のセレクトを見たとき、どんな印象を受けましたか?

最初に本の制作について話し合ったとき、ウィレムは私にこんな話をしました。「君は写真家だから、私は君の椅子には座らない。私はデザイナーで編集者だから、君は私の椅子には座らない」。つまり、編集の邪魔をするなということでした。

もちろん、私は彼に編集の提案をいくつかしましたし、そのうちの少しは採用されました。しかし、たいていの場合は、アーティストは自分自身のイメージとの距離が近すぎるのでデザイナーに編集とデザインを任せるほうが賢明です。 ウィレム・ファン・ゾエテンダールが編集とデザインを担当する場合は特に!

ー前作『The Minox files』で収められた写真は、オートクローム写真のような親密さ兼ね備えていますが、同時にさまざまな場所で撮影された古典的なストリート写真の一種のようにも感じられます。一方、本作『Stills&Stones』では、石と子供用の人形などスタジオ内で撮影された写真が収録されています。経緯と背景を教えてください。

「外」ではなくスタジオで撮影をするようになったきっかけは、私の人生の中で大きな2つの出来事があったからです。2004年に息子が生まれ、あまり旅に出ないことに決めました。そして、時を同じくこのスタジオに引っ越しました。このスタジオは、屋根の下にあり、天窓から美しい日差しが差し込みます。昼間の撮影には最適でしたので、この光を習得したいと思い、アルプスを旅したときに集めてきた大きな石とともに光の研究を始めました。こうしてスタジオでの私の旅が始まったです。

石を扱い続けているうちに、私はものの形状やサイズ感がもたらす印象に魅了されるようになりました。この新しい気付きによって、写真家であることに加えて、スタジオでは存在しない彫刻の「彫刻家」にもなれるような気がしました。スタジオでの仕事の仕方は、外で撮影する写真『The Minox Files』とさほど変わらず、何かをきっかけに身の回りのものに触発され遊んでいるような直感的なものでしたから、息子の人形が被写体になることもありました。

No. 23.05 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

No. 04.04 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

No. 09.04 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

No. 26.06 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

ーうさぎの人形は、息子さんの人形だったのですね。他にセレクトされたオブジェクトに何か意味はあるのでしょうか?

拾ってきたものも、撮影のために作ったものいろいろあります。いつどこで使うかもわからないまま、しばらくスタジオに置いておきます。

Minox Filesのアーカイブは、スタジオで作業する際のインスピレーションとしても使っています。例えば、『Stills & Stones』に収録している木造の家の模型は、ベルギーで撮った写真に写っていた家を再現したものです。 あまりコンセプトを持って仕事をするのが好きではなく、制作はプロセスであり、自由な流れを必要とし、決められた境界線に縛られるものではないと思っています。ですので『Stills & Stones』の被写体は岩、スツール、椅子、花瓶などなんでも登場します。計画を立てて仕事をすると、すぐに飽きたり行き詰まったりしてしまいます。計画をせずにいると、次から次へといろんなものに飛びつくことができるし、同時にいろんなことを試してみたいと思えるのです。それがどこにつながるのか、どんな結果になるのかわからないままたくさんの仕事をすることになりますが、その方法しか私にはできないのです。最終的な結果がどうでなければならないかは考えないようにしています。

ー本の中には、石から始まり、実験的な写真もあります。後半の実験作品についても教えてください。

カメラを使って実験し、技術的な問題の解決策を見つけることは、制作を継続させる方法の一つです。私はいつも実験の結果に興味があります。例えば、暗室のプリント用紙を直接カメラに入れるとどうなるか?インスタント写真やポラロイドのようなものができますね。98ページと99ページの丸いイメージの作品は、この種の実験作品の例です。これらの画像は、昼間の光、太陽を捉えようとしているのかもしれません。

100ページと101ページの画像は、小さなプラスチックの袋を引き伸ばし機に入れて作ったものです。 大変な作業と時間を必要としますが、実験作品にはいつも遊び心がありますね。
先ほども言ったように、私は物事をオープンにするのが好きなので、鑑賞者が自分自身のストーリーを作り上げる余地を残しています。

No. 112.21 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

No. 72.11 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

No. 82.13 Courtesy Gallery Fifty One ©︎Mark van den Brink

ー不完全な色のバランスが、あなたの捉える物語やイメージの魅力を増殖させているように感じます。色はどのように見つけましたか?

Minoxの小さなネガ(8x11mm)を引き伸ばすと、色のずれ、ぼけ、傷やほこりなど、いろいろなことが起こります。私は、これらの不完全さをすべて受け入れ、ギフトとして見るのが好きなのです。

細部は欠けていて、鑑賞者自身の解釈の余地が残されているようですし、同時に木炭画やカラーパステル画のようだとも言えます。

暗室でカラー写真を自分でプリントしていたこともありますが、色を正しく出すのは大変でとても難しかったです。今は、カラーネガをスキャンしてデジタルで色を調整するとき、昔の暗室でのカラープリントに近づけたいと思っています。今でもアナログのモノクロプリントはスタジオ内の暗室で行います。これも作品制作のプロセスの一部です。 アナログで作業するときは、ネガがプリントを決めると思っています。プリントを少し調整することはできるけど、できるだけネガに近づかなければならない。ですので、写真からほとんど何でも作れるデジタル撮影とは違います。暗室でプリントするプロセスにおけるアナログ的な「境界線」が好きなのです。

ー2021年に刊行された『The Minox files』があなたにとって最初の写真集だったと思いますが、『The Minox files』および『Stills & Stones』を出版したことによって何か制作方法、活動、環境に変化がありましたか?

今はステージ(ギャラリーと出版社)があるので、仕事をするのは難しくなりました。『The Minox files』や『Stills & Stones』の制作は、展示や出版の予定もなく進めたプロジェクトでした。今はその頃よりももっとプレッシャーがあり、以前のように自由奔放でいるのは少し難しいです。でも、自分自身のプロセスに忠実であり続けようとしています。そして、Minox filesプロジェクトとして「外」で仕事をすることと『Stills & Stones』のように「スタジオの中」で彫刻家として仕事をすること、どちらのプロジェクトも現在進行中でお互いに刺激し合っています。

ーあなたに大きな影響を与えているであろうウィレム・ファン・ゾエテンダールについて教えてください。

ウィレムは未加工の素材を使って仕事をするのが好きなデザイナー・編集者であり、写真家が選んだものを見るのではなく、コンタクトシートを見ることから始めます。そうすることで、写真家やアーティストが何を考えていたかをより深く理解することができると言います。また、良いイメージのセレクションだけでなく、プロジェクトのプロセスを見せるのも彼のやり方です。『Stills & Stones』には、私だったら選ばないような作品も含まれていますが、それらの作品は本や作品を引き立て、新たなレイヤーを与えてくれる作品です。 優れた編集は作品作りの鍵となり、ウィレムはそれを最も得意とする人物の一人だと思います。

ー今後の活動はどのようなものがありますか?

9月7日からに東京のPOSTで『Stills & Stones』の展覧会とブックローンチを予定しています。日本で作品を観ていただける機会があることをとても光栄で幸運に思っています。東京にいる間にも撮影する予定です。11月にはGallery FIFTY ONEと共にParis Photoでの展覧会があります。

今アメリカ西海岸でのMinox Filesの撮影トリップから戻ったばかりで、家にいるときは、スタジオのプロジェクトに取り組んでいます。

来年は、アムステルダムのGalerie Wouter van LeeuwenでMinox Filesの新作と『Stills & Stones』の個展を開催予定です。

Mark van den Brink
Instagram: @markvandenbrinkphotography

タイトル

Mark van den Brink / Stills & Stones

場所

POST(東京都渋谷区恵比寿南2-10-3)

会期

2024年9月7日(土)~10月6日(日)
初日17:00~19:00レセプション。作家在廊、入場自由

時間

11:00~19:00

定休日

月曜日

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