15 October 2026

曖昧さという力――ヴィヴィアン・サッセンが詩の眼で見つめるもの

15 October 2026

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曖昧さという力――ヴィヴィアン・サッセンが詩の眼で見つめるもの | 2B2A9829

東京・神宮前のThe Massで個展「Myriads(無数)」を開催中のオランダの写真家、ヴィヴィアン・サッセン。2000年代初頭の初期作、未発表作品、そして友人のアーティスト、エメリン・デ・モーイとともに古い民話の女神を現代に呼び戻した新シリーズ《Frau Holle》(ホレおばさん)が展示されている。ファッションとアートを往還しながら撮られてきたイメージは、ひとつの意味に還元されることを拒み、政治ではなく詩の眼で世界を見つめ直すためにあるという。イメージの多義性、政治化する時代の表現、そして年を重ねた女性の力をめぐり、話を聞いた。

ポートレイト撮影=高木康行
取材・文=アイヴァン・ヴァルタニアン

一枚のイメージは一つの言葉のように

――展覧会タイトルの「Myriads」は、とても開かれた言葉ですね。

ヴィヴィアン・サッセン(以下、VS):写真の可能性は無限です。これはひとつの視点にすぎないし、いくつもの視点かもしれないし、もう100や1000の視点なのかもしれません。解釈はいつも無数にある。私自身、自分の写真をそう捉えています。一枚のイメージは、ほとんど一語の単語のようなもの。ほかの言葉やイメージと並ぶと文になり、新しい物語が生まれる。でもその言葉を文脈から取り出し、別の写真と並べれば、意味は変わり、また別の物語をつくることができるのです。

――作品の意味は固定されず、見る人に開かれているということでしょうか。

VS:私にとっては「曖昧さ」と「矛盾」という二つの言葉が、昔からとても大切です。私はずっと、自分を戸惑わせるイメージに惹かれてきました。理解できないから、もっと探りたくなる。あるいは強い感情を受け取るのに、何を意味しているのか完全にはわからない。そういうイメージこそが心に残るのです。

グラフィックス2

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政治の眼ではなく詩の眼で

――ファッションを含め、さまざまな文脈で仕事をされてきました。イメージがどう消費されるかは、いまとても不安定です。

VS:作品をつくるとき、特にアートの作品では、そのことは考えないようにしています。商業の仕事なら、とても柔軟です。クライアントを満足させ、そのパズルを解くために、自我は一歩引かせる。でもアートでは、自分の好きなことができる。制作するときは潜在意識に触れ、流れるように、直感的に動きます。見る人のことは考えず、自分を突き動かすものについて考える。自分の執着を探り、自分の影と光を追いかける。子どものように開かれた、好奇心に満ちた眼で世界を見ようとしています。解釈や政治は、すべて後から来るものです。

――いまは誰もが政治的な立場を示すことを求められています。

VS:いまの世界では、あらゆるものが政治的になってしまって、とても舵取りが難しい。それが人を怖がらせ、内側へ引きこもらせる。外の世界や未知のもの、他者と関わることが怖くなってしまうのです。すべてが政治的だとわかっていても、私はそこから距離を置き、驚きをもって世界を見たい。政治の眼ではなく、詩の眼で。

――若い作家の多くは「私の物語、私の身体、私のアイデンティティ」という自伝的な領域を安全地帯にしています。

VS:それは問題だと思います。突き詰めれば、みんな自分のへそばかり見つめることになる。写真家は特に、外へ出ていかなければなりません。みんなが自分の隅に引きこもったら、世界のためにはならないでしょう。試行錯誤なんです。この部屋の作品の多くは2000年代初頭、20年、25年前に撮ったものです。当時は表象や文化の盗用をめぐる議論は、今ほど強くなかった。こうした議論があるのはとても良いことです。でも特にオンラインでは、議論が過熱し、単純化されてしまう。グレーゾーンが、曖昧さが失われるのです。

ひとつのものが複数の意味をもちうる、ひとつのことに還元などできない、と私は強く信じています。だから当時の作品を、今も引き受けています。今なら同じことをするかと聞かれたら、違うやり方をするでしょう。でもあのときは誠実な心でつくった。間違いもしました。でも、間違えてもいいのです。

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フラウ・ホレ――年を重ねた女性の力

――新作では、小道具やコラージュ、ストレートな写真を通して、さまざまな年代の女性の身体が表されています。どのようなプロジェクトですか。

VS:最新のプロジェクト《Frau Holle》です。友人でオランダのアーティスト、エメリン・デ・モーイとの共同制作です。1990年代に出会った頃、私たちは森へ行き、ただ遊び、実験していました。そして何十年も経った今、その共同作業をもう一度始めようと彼女に声をかけたのです。

フラウ・ホレは、異教の古いヨーロッパの民話への目配せです。グリム兄弟も彼女の話を書き留めていますが、もっと古い民話は、老いた女性の強さについての物語なのです。多くの文化で、年配の女性は社会の外側に置かれ、見えない存在になっていく。西洋のメディアに映るのは、若くてきれいな女の子か、年上の男性ばかりです。そして長いあいだ、魔女は社会の脅威として火あぶりにされてきた。彼女たちは知恵をもっていた。もう子どもを産まない。あるいは社会から身を引いて、ひとりで生きることを選んだ。それは社会にとって、とりわけ男性にとって、脅威であり恐怖だったのです。

面白いことに、このシリーズにはユーモアがたくさんあり、エロティックな力もたくさんある。エロス、つまり生命力です。性的なものだけでなく、生命そのものの力。これほど反応が分かれたシリーズは初めてです。大好きだという人もいれば、まともに見ることができない人もいる。年を重ねた、激しく強く性的な女性を人々が直視できないということ自体が、多くを物語っています。

――女性器の位置に口がある作品には驚かされました。

VS:とてもあからさまですが、舌を突き出すような、ちょっとした「くたばれ」でもあるんです。反抗的な行為。彼女が性的な存在として自分を見せていることが、ではありません。ポルノはどこにでもあふれていますから。そうではなく、ここでは彼女が主導権を握り、見る者に手を伸ばし、あるいは嘲笑っている。私たちはただ楽しんでいるのです。

――神話へ立ち返る衝動はどこから来るのでしょう。

VS:意識的なものではありません。二人とも最初からずっと惹かれてきたものです。たとえばエメリンは「シーラ・ナ・ギグ」を研究していました。中世のゲルマンやアイルランドの文化で、教会や建物の上部に置かれた、老女が両手で自らの女性器を押し広げる素朴な像です。インドの女神カーリーのように、悪でもあり善でもある。荒々しいイメージですが、その意味は、彼女が生と死をひとつに抱えているということ。生命の円環なのです。シリーズにも、「Volvo」ではなく「Vulva(女性器)」と書かれた青いTシャツが出てきます。

生々しく、臆さずに

――サッセンさんの作品の多くは女性の身体を扱っていますが、ファッションの仕事とはどう結びついているのでしょうか。

VS:ファッションは多くの場合、美や若さ、美学についてのものです。ただ私にとっては、別の道も探ることが大切なのです。女性として、生々しく、臆さずにいられるということ。

日本の文化で特に驚かされるのは、とても小さい頃から女の子が控えめに、ほとんど恥ずかしがるように振る舞うよう教えられることです。手で口元を隠して話すような、どこか従順な振る舞い。それはとても美しいし、この文化を深く尊敬しています。でも同時に、とても家父長的な社会だとも思う。だからこそ、その境界に挑むのは気持ちがいいのです。女性の内にある力、創造的でエロティックな力を私は信じていますし、それを表現できるのはとても美しいことです。

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――オランダのブックデザイナー、イルマ・ブームが手がけた写真集『Frau Holle』への反応も分かれているそうですね。

VS:ほかの本ほど早くは売れないでしょう。でも、小さなカルト的な存在として、自分の道を見つけていってくれたらと思います。世界には、安全で無難な方へ向かう傾向がある。そうするとすべてが同じになってしまう。そんなのは退屈です。リスクをとってください。安全でいることを気にしないで。それこそが人生であり、生きるということです。リスクをとり、探求すること、です。

Viviane Sassen|ヴィヴィアン・サッセン
1972年、オランダ・アムステルダム生まれ。幼少期をケニアで過ごした経験が、独自の色彩感覚と光と影への感性を形づくった。静物、ポートレイト、風景を横断し、幾何学的な抽象と身体表現が交差する視覚言語を確立。ミュウミュウ、ルイ・ヴィトン、ディオールなどのファッションや『Purple』『Dazed & Confused』などの雑誌でも活躍し、ファッションとアートを地続きの実践として捉える。主な写真集に『Flamboya』(2008年)、『Umbra』(2014年)、『Of Mud and Lotus』(2017年)。ニューヨーク近代美術館「New Photography」(2011年)、ヴェネチア・ビエンナーレ(2013年)に参加し、2023年にはヨーロッパ写真美術館(パリ)で大規模な回顧展を開催。2024年にはKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭に参加した。2026年、エメリン・デ・モーイとの共著『Frau Holle』(Kominek Books、デザイン:イルマ・ブーム)を刊行。

タイトル

ヴィヴィアン・サッセン「Myriads」

場所

The Mass(東京都渋谷区神宮前5-11-1)

会期

2026年9月5日(土)〜11月8日(日)

休み

月・火曜日

時間

12:00〜19:00

料金

無料

URL

https://themass.jp/ 

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