14 September 2018

Dior meets Emerging Talent

才能溢れる新進写真家を見出すDiorの新たな挑戦

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フランス

14 September 2018

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才能溢れる新進写真家を見出すDiorの新たな挑戦「Dior meets Emerging Talent」 | ユンギョン・チャン

豊かな色遣いとポエティックな世界観で、自国の若者たちをとらえた韓国の23歳のアーティスト、ユンギョン・チャンの作品。

ディオールはもともとムッシュ・ディオールがギャラリストであり、コレクターでもあったことから、これまでブランドとしてもアートと深い関わりを持ってきたが、2018年、若き才能を支援するグローバルなフォトアワードが始動。この夏、南仏アルルでつまびらかになったその実験的かつ意義のある活動の内容を、ピーター・リンドバーグとサイモン・べーカー、二人の審査員のインタビューを通して、レポートする。

文=Kyoko Kasuya(IMA 2018 Summer Vol.25より転載)

2018年、若き才能を支援するグローバルなフォトアワードが始動。

常に新しいビジョンを生み出し、クオリティと情熱を追求するパルファン・クリスチャン・ディオール。その開拓精神が意気揚々とした女性の存在を形成し、ロングセラーのパフュームや、はっとするようなリップやアイシャドウの色遣い、またそれらをビジュアル化する数え切れないたくさんの画期的なイメージを生み出してきた。

そのディオールが、今年、アルル国際写真フェスティバルで、世界8カ国を代表する美術大学を通じ、新しい才能を発掘していくコンペティションというユニークな試み「ディオール ヤング フォトグラフィー アワード(Dior Photo Award for Emerging Talents)」を開催した。ファッションフォトグラファーの大御所ピーター・リンドバーグを審査員長に、テートモダンからパリのヨーロッパ写真美術館館長に就任したばかりのサイモン・ベーカーを審査員の一人として迎え、写真祭のスポンサーでもあるLUMA財団創始者のマヤ・ホフマンにパルファン・クリスチャン・ディオール最高経営責任者のクロード・マルティネズが加わる。2018年は「女性、女性の顔」をテーマに、「カラー」「フェミニニティ」「ビューティ」というディオールに関連する言葉からイメージする作品で、選りすぐりのミレニアル世代の作家たちが競い合った。各国からそれぞれ40名以上の応募があり、10人の受賞者から最終1名の優勝者が選ばれ、写真祭で発表された。最も世の中の先端を行くこのアワードについて、二人の審査員に話を聞いた。

エレーヌ・ベランジェ(フランス・アルル国立写真高等専門学校)

エレーヌ・ベランジェ(フランス・アルル国立写真高等専門学校)
コントラストを強調するためグロテスクなまでにメイクアップを施された1920年代の映画から典型的な美女たちを抜粋、モチーフにし、当時の倫理とテクニックを問うた。

まず今回の賞は、各国一校ずつの美術大学から推薦された学生と大学を卒業して5年以内というかなり経験値の浅いアーティストたちにターゲットを絞っている。その理由は?と聞くと「アートと写真の発展に寄与したいと考えるディオールというブランドだから、才能がある若い世代をもっと応援したいと思ってこの機会を設けた」とベーカーはすかさず答えた。芽が出るか出ないかくらいの段階から、公で発表できる機会を持つことは非常に意味のある経験であり、その中でお互いが切磋琢磨し合うことで、さらなる成長を期待できる。「今までここまで若い世代にビッグメゾンがチャンスを与えることはほとんどなく、たいがいはもう少し経験を積んだ作家が対象だった。若い作家はお金がなかったり、発表する機会もない人が多く、学校で出会う関係者以外から励まされる機会もほぼ皆無と言っていい。彼らをサポートすることは本当に素晴らしいこと。みんながハッピーになれるプロジェクトだ」と、作家としての視点からリンドバーグはプロジェクトを評価する。

今年の応募作については、「学生やまだキャリアの浅い卒業して間もない若手が応募して来た作品だというのに、素晴らしいクオリティのものが多く、ただ驚くばかり。また展示作品は、内容だけでなく、プリントの出来、フレーミング、インスタレーションのすべての構成において、プロ並みのハイレベルである」とベーカーは力説する。

「ここに集まった『美』を象徴する作品からはさまざまな声が聞こえ、若さが溢れ出るイメージは眩ゆいばかりだった。その中で『美』というものに対して作家がどのように向き合っているのかということは評価するうえで大きなポイントだった。それぞれ『美』というものに対しての見方は異なるし、表層的な意味やとらえ方ではなく抽象的な側面からのアプローチは非常に大切だと考えた。私自身、とても批評的な人間なので、作品を見たときに一体何が面白いのかを突き詰めて判断した。また審査員には主観的な人たちが集まっていて、何が好きか嫌いかはそれぞれはっきりと好みがあった。評価について反対意見や衝突が生まれた場合は、なぜその作品が優れているかひたすら話し合った。だからこそ面白い結果が生まれたと思っている」とリンドバーグは、審査の醍醐味について語った。

ユアン・ワン(中国・上海視覚藝術学院)

ユアン・ワン(中国・上海視覚藝術学院)
アンドロジニー(両性具有)の概念を取り入れながら、現代社会においてもはや女性は男性基準ではなく、自ら女性性を見出し表現するという主張を映画のような作風で撮影した。


ミレニアル世代の作品からどのような新しい「女性像」「女性性」というものを読み取ることができたかと問うと、ベーカーは次のように語った。「新しい女性像かどうかという部分に関しては、現代社会で作家がどのような経験をしているかによっても変わるのではないだろうか?二人の韓国の作家シーユン・キム とジェイ・ウク・ジャンは作品を通して個性について物語っている。他人と同じか、違うのかということに対してだ。中国人作家も同じテーマを扱い、ほかの多くのアジアの女性作家も同じような視点で作品を制作している。いままでこういう傾向は見られない、新しい視点だった」。ベーカーはさらに続けて例を挙げてくれた。「韓国のソウルに滞在したときにあるものを目撃した。それは、とある企業が、従業員に対し、同じ髪型と同じ服装で会社のIDカード用の写真を撮ることを強要していたこと。そのような風潮に対しての反発を示す作品は面白いと思う。一体他人と比較してどのように違いを示すことができるのか?また同じであることはどういう意味をもたらすのか?社会性がとても強いテーマであり、非常に興味深い主題であると思う。有名でわかりやすい例を挙げるなら日本の写真家、澤田知子の作品と共通点がある」。

写真のトレンドという観点で何を感じたかという質問には、「フランス人のエレーヌ・ベランジェの作品はアーカイブをベースに仕上げたもので、歴史的な写真や、ファウンドフォトを使用している。これは現代写真の強いトレンドといっても過言ではないと思う。また中国人作家ユアン・ワンの作品は、中国の1920年代の情景を醸し出すストーリーの一部ともいえるような美意識で構成されている。韓国人作家ユンギョン・チャンも映画のワンシーンを切り取ったたようなドリーミーなイメージで、もしかしたらシネマトグラフィックな要素は新しい写真の流れになっているのかもしれない」。

レイア・ヴァンドゥーレン(フランス・アルル国立写真高等専門学校)

レイア・ヴァンドゥーレン(フランス・アルル国立写真高等専門学校)
ヘアメイクアップアーティスト、映画監督、写真家と様々な顔を持つセルジュ・ルタンスに 影響を受け、自らモデル、ヘアメイクアップ、写真と3役をこなしたセルフポートレート。

優勝者は韓国・ソウルの中央大学の推薦によるユンギョン・チャン。実際、今回のアワードの最終選考に最も多く残ったのは、韓国、中国の作家たちだったことは特筆すべきだろう。またイギリスの大学代表の一人も、中国人の作家である。ベーカーはこの結果に対してこんな解説を加えてくれた。「今回の賞は、各国がひとつの大学という機関を通して募集をかけている。つまり各国から代表は一人で良かったのだが、韓国と中国からはとりわけ優秀な作家が集まったため、一人だけを選出するということができず複数名の受賞になった。これはいままでに類を見ない面白い結果だった。また、私たちには名前からはその女性か男性かわからない作家も多かったのだが、蓋を開けたら女性作家ばかりだったのも驚きだった。韓国、中国の女性写真家の大躍進。二つの要素をまとめると、21世紀の写真は彼女たちの手に委ねられているのかもしれない」。

写真界の将来に大きく貢献するエキサイティングなプロジェクトであるこのアワードは、今年度に引き続き、来年以降も継続される予定だ。若きチャレンジャーへ贈る言葉として、リンドバーグは「携帯から手を離せ!」と冗談交じりに答え、ベーカーはこんなもっともなアドバイスを託した。「今年、第一回目からレベルがとても高く、ハイクオリティな作品が集まっているので、来年応募する人はプレッシャーを感じるかもしれない。そんな中で競うのに一番重要なことは、テクニックも大切ではあるが、アイディアをよく練り、自分なりのビジョンを持って制作に取り組むことだと思う」。

この実験的かつ意欲的なアワードからどんな才能が登場し、次代の写真界を担って行くことになるのか、ディオールの活動から目が離せない。

参加国はフランス、イギリス、アメリカ、日本、ロシア、中国、韓国、アラブ首長国連邦の8カ国。ICP(国際写真センター)やロイヤル・カレッジ・オブ・アートなどの名門校も名を連ねる。日本からは、写真家の鈴木理策氏率いる東京藝術大学が参加し、櫻井麻衣の作品が入賞した。受賞作品は「WOMANWOMEN FACES」というテーマで、7月2日から9月23日まで開催されるアルル国際写真フェスティバルの「ディオール アートオブ カラー展」で展示され、その後、世界各国を巡回する予定。

#diortheartofcolor #diorarles @diormakeup

【お詫びと訂正】IMA Vol.25 誤植について
IMA Vol.25に掲載した同記事のタイトルにつきまして、以下のとおり誤植がありました。深くお詫びするとともに、訂正いたします。
《訂正箇所》タイトル表記
【誤】Dior meets Emergency Talent
【正】Dior meets Emerging Talent

 

2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。

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