今年もKYOTOGRAPHIEが開催された。まず、このコロナ禍に開催までこぎつけたことに敬意を表し、祝福したい。開催は昨年より、お馴染みだった春の桜のシーズンから秋に移動したが、京都の街から写真の力で新しい視座を与える恒例行事としてすっかり定着した感がある。観に行くべきアートイベントとして毎年カレンダーに書き込んでいる人も多いだろう。
今年のテーマは「ECHO」。KYOTOGRAPHIEの立ち上がった年に起きた東日本大震災と福島原発事故から10年目の今年、その間に起きたさまざまな災害を振り返りながら、過去と現在が呼応(ECHO)する歴史を見つめ直そうという提案だ。ここでは、特にIMAの読者にオススメの展示を5つ厳選してお届けしよう。
文=IMA
1. 榮榮&映里「即非京都」
琵琶湖疎水記念館
2000年よりユニットで共同制作活動を開始。精力的に作品をする傍ら、中国・北京で現代写真センター「三影堂」を主宰するなど一貫して中国の写真界をリードしてきた榮榮&映里。ほぼ10年ほど前、越後妻有のトリエンナーレをきっかけに生まれた「妻有物語」以来、生命の源である「水」をテーマに人間の営みについての思索を深めてきた二人が取り組んだ作品が展示されている。2015年の京都移住をきっかけに撮りためてきた写真群がなかなか大きな像を結ばなかったという彼らが、ある時、京都という古都では水の循環が文化と深い関係を結んでいることに気づいたという。そうして生まれた「即非京都」は、展示空間に琵琶湖疎水記念館という水にゆかりの深い場所を得た。屋内外を使ったダイナミックかつ繊細な展示の中に身を置いて、写真を媒介に、彼らと対話してみてほしい。
2. MEP Studio(ヨーロッパ写真美術館)による5人の女性アーティスト展――フランスにおける写真と映像の新たな見地
HOSOO Gallery
パリにおける写真の中心ともいえる、ヨーロッパ写真美術館(MEP)では、2018年に若手女性アーティストの支援を目的にした施設「Studio」を新設した。今回はそこから選ばれたマルグリット・ボーンハウザー、マノン・ランジュエール、アデル・グラタコス、ニナ・ショレ&クロチルド・マッタの5人による作品をMEP館長であるサイモン・ベーカーがキュレーションしたグループ展となる。5人それぞれにジャンルやテーマは異なるが、いずれも実験的、先鋭的な表現を通して、現代的な問題と対峙している。本展は、ケリングによるアート&カルチャー分野で活躍する女性をフィーチャーする「ウーマン・イン・モーション」による支援も受けているが、女性アーティストの活動を後押ししようとするフランスからの二つの動きを受けたこの展示からは、彼女たちの多様性と層の厚さ、そして熱いエネルギーが伝わってくる。
3. アーウィン・オラフ「アヌス ミラビリス―驚異の年―」
京都文化博物館 別館
ジェンダーや人種などの社会問題や世間でタブーとされているものに焦点を当て、限りなく緻密で美しい表現でビジュアライゼーションするオランダ生まれのアーウィン・オラフ。頭の中に思い浮かべた光景を描きだしてから写真制作するというその作品は、静かなトーンながら示唆に富んで、世界から高い評価を得ている。
今年のKYOTOGRAPHIEでは、「Im Wald(森の中)」と「エイプリルフール」の二つのシリーズを展示。「Im Wald(森の中)」はドイツのバイエルンの森で撮影されたポートレートシリーズ。長い歴史の中で、自然を搾取しながら発展してきた人間の傲慢な姿を浮き彫りにする。一方の「エイプリルフール」は、新型コロナウイルスのパンデミックによって、自らが自主隔離を強いられた日々をスチール写真と映像作品で表現。異なるテーマでありながら、人類がいま、向き合わねばならない二つの大きな問題はどこかでシンクロしながら、クラシックな京都文化博物館の天高の空間でスケールの大きな展示が映える。
4. トマ・デレーム
両足院(建仁寺山内)
KYOTOGRAPHIEでは毎年展示される定番のスペース両足院だが、2021年はフランスを拠点に活動するトマ・デレームが撮影した「Légumineux」というスティルライフ写真を展示。これは、ヴェルサイユ宮殿の農園「ポタジェ・デュ・ロワ(王の菜園)」で古くから栽培を続けられている古代種の野菜を撮影したもの。生命の持つ根源的な力に目を向け、その存在の強さとはかなさの両極を表現している。歴史ある両足院の空間で、畳の上に展示された作品を鑑賞するとき、フランス、日本の双方に流れてきた時間を感じることになるだろう。
5. ンガディ・スマート「多様な世界」
フライングタイガー コペンハーゲン 京都河原町ストアー3F
KYOTOGRAPHIEではすでにお馴染み、一つの特徴にもなっているアフリカ系アーティストの作品だが、今年はこの西アフリカ、シエラレオネ出身のンガディ・スマートが参加。写真、イラストレーション、デザイン、コラージュを組み合わせたミクスドメディアでアプローチするこのアーティストは、美しさとは何か、正義とは何か、当たり前とは何か私たちが当たり前だと思っている既成概念に軽やかに問いを立てる。アフリカ文化を温かい視線で切り取った写真作品がフライングタイガーの空間にマッチしている。出町桝形商店街でも新旧の写真をコラージュした「ごはんですよ」を展示中。合わせて鑑賞してほしい。
いったん中止されていた二条城での展示もオープンとなり、緊急事態宣言解除とともに本格的な開催を迎えたKYOTOGRAPHIE。作品と呼応(ECHO)しながら、この世界共通の未曾有の状況を共に考える場として、また再び街歩きを楽しめる喜びを分かち合う機会として堪能したい。
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会期 | 2021年9月18日(土)~10月17日(日) |
会場 | 京都市内各所 |
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