23 October 2025

横尾忠則と家族と写真の関係とは?グッチ銀座で必見の展示

23 October 2025

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横尾忠則と家族と写真の関係とは?グッチ銀座で必見の展示 | _STK2785

足場とともに展示されている『椅子だらけの自画像』(2025)。輪郭があいまいになったような描き方が印象的。

グッチ銀座 ギャラリーにて、「横尾忠則 未完の自画像-私への旅」展が8月までの会期を延長し、11月9日まで開催されている。2025年は、本展に加えグッチが公式パートナーを務める「瀬戸内国際芸術祭2025」における豊島横尾館でのインスタレーション、グッチ大阪、心斎橋大丸グッチショップ、心斎橋大丸グッチサテライトショップでのインスタレーションと、グッチと横尾との取り組みが多く展開されている。さらに今春4月26日から6月22日まで「横尾忠則 連画の河」が世田谷美術館で開催されたこともあり、横尾はひときわ注目を集めている存在だ。

撮影=今津聡子
取材・文=菅原幸裕

未完を追求する横尾忠則

「未完の足場」(2025)の部分。金属のパイプのほか、写真のような竹も使われている。

屋上に設置されている「未完の足場」(2025)の一部。1970年の大阪万博・せんい館では足場はパビリオンの看板に組まれていたが、今回の展示では「原始宇宙」(2000)の原寸大レプリカを囲うように組まれている。

足場の途中に展示されている作品「壁に耳あり」(制作年不詳)。展示の延長で追加された作品で、「赤の時代」の作品である「赤い耳」(2000)を、横尾氏自身が忠実に模している。

シュルレアリズム的な『拒絶された愛』(2017)、グッチ渋谷 ミヤシタパークのオープニングヴィジュアルのもととなった『女性と紳士靴』(2017)、横尾氏の郷里である兵庫県西脇の線路を描いた『鎮魂歌』(2012)など、多彩な展示。

グッチと横尾との繋がりは、2020年のグッチ渋谷 ミヤシタパークのオープニングにあわせて制作されたアートワークに遡る。横尾による、GGパターンをコラージュしたヴィジュアルは大きな話題となった。そして「瀬戸内国際芸術祭2025」とのパートナーシップなど、今年グッチが日本においてアートへの取り組みを強化する中で、横尾が再びフィーチャーされたのだ。

美術評論家・南雄介による本展のキュレーションは、横尾作品への深い理解と、作家との密なコミュニケーションを感じさせる。まず本展のアイコン的な存在が、横尾が1970年に大阪万博・せんい館の建築デザインを担当した際に設置した「足場のアート」から着想された「未完の足場」。パビリオン建築のプロセスをそのまま作品化した試みは、横尾の表現の中核にある「未完」の追求を象徴するものとしてリクリエイトされている。

赤色の足場は7階のギャラリーフロアから屋上までの吹き抜け空間に設置され、さらに屋上には豊島横尾館に展示されている大作『原始宇宙』のレプリカとともに足場が設えられた。足場には作業服に身を包んだ人形も配置され、「未完」の状態が強調されている。

横尾忠則と家族写真

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インスタレーション作品「未完の足場」(2025)はギャラリーの吹き抜けと屋上に設置されている。また本展では、右手前のようなシルクスクリーンの作品も展示されている。

展示はペインティング作品が中心だが、いわゆる「画家宣言」以前に制作されたシルクスクリーンの作品なども織り交ぜられていて、横尾忠則という芸術家の歩みと複合的な魅力が感じられる内容になっている。また代表作『Y字路』シリーズや今年生誕100周年を迎えた三島由紀夫を描いた作品など、横尾の表現において重要なテーマも盛り込まれている。

特に印象的なのが、会期延長にあたって加えられた新作も含む、横尾自身と家族を描いた作品だ。展覧会タイトルにもある通り、近年横尾は自画像を数多く手がけているが、今回展示されている作品の中には、泰江夫人とのツーショット、さらには泰江夫人が描いた絵を組み込んだ(コラージュした)ものがあり、これまでの横尾作品とはまたひと味違った、新鮮な存在感がある。

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右は「TとRの交差」(1994)、中央は「宮崎の夜-台風前夜」(2004)。Y字路を描いた作品は150点以上あり、横尾作品の代表的な題材といえる。左は「家族狂」(2025)。1996年刊行の同名写真集に掲載された、1975年の家族写真をもとに描かれたもので、中央に泰江夫人が描いたスーパーマンの絵がそのまま使われている。


そうした近作の中に『家族狂』と題された作品がある。これは、写真家・安河内羔治が横尾家を25年間にわたって撮り続けた写真をまとめた『家族狂』(新潮社)に収められている、1975年に撮影された写真をイメージソースに描かれているという。

横尾は自身のサイトで、次のように記している。
「家族の肖像を描くので1996年に新潮社から出た写真集『家族狂』を久し振りで見て、こんな面白い本が世の中にあったのか?とびっくり」(2025年07月15日のYOKOO’S VISION -横尾忠則の日記-より引用 www.tadanoriyokoo.com)

新たに追加された、「休息」(2025)と題された油彩作品。中央上部には泰江夫人の絵画、左上にはこの絵のもとになったと思われる写真が配置されている。

新たに追加された作品「此岸、彼岸」(2025)。印象派を連想させるような油彩に、泰江夫人が描いたタージマハールの絵、そして夫妻がインドを訪れた際の写真がコラージュされている。

中央右は「寄り道」(2025)、中央左は新たに追加された「結婚式の想い出」(2025)。制作年からわかる通り、夫妻や家族の作品の多くは最近制作されている。

さらに横尾と泰江夫人を描いた作品の中には、その絵のもととなった写真が貼り込まれたものもある。絵と写真、双方を見比べることで、横尾が作品に何を盛り込みたかったのか、そして写真をどのように見ているのかがイメージできるようだ。今年は横尾撮影による写真集『僕とY字路Photograph』(トゥーヴァージンズ)も刊行されたが、Y字路を描くきっかけとなったのは、彼自身が撮影した夜の三叉路の写真だったという。本展はそうした横尾の創造性と写真との関係を考える上でも、示唆に富む。

「未完の足場」も含め、展示作品は30数点。それぞれの作品をじっくりと味わうことができる、適当な分量感だ。さらにギャラリー内ではこの展覧会、そして自身の表現について横尾自身が語る映像も上映されている。その変わらず淀みない語り口、そして「飽きるということは、変化だと思うんです」といった独自の箴言が頻発する内容は必見だ。

タイトル

横尾忠則 未完の自画像 – 私への旅

場所

グッチ銀座 ギャラリー(東京都中央区銀座4-4-10 グッチ銀座 7 階)

会期

11月9日(日) まで

時間

11:00~20:00(最終入場19:30)

料金

無料

URL

https://www.gucci.com/jp/ja/nst/gucci-ginza-gallery

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