森栄喜の新作個展「Moonbow Flags」が、10月10日から12月20日まで東京・新宿のKEN NAKAHASHIで開催される。2年ぶりの個展となる本展では、白い図形とポートレートを重ね合わせた新シリーズが初公開される。
シリーズの着想のひとつとなったのは、1968年フランス五月革命で掲げられたスローガン「敷石の下はビーチ!」。抑圧の下に潜む自由の可能性を示唆するこの言葉を起点に、森は国家や権力を象徴する「旗」と、台所のタイルや壁紙など身近な幾何学模様を組み合わせることで、シンボルの意味を再解釈している。
タイトルの“Moonbow(ムーンボウ)”とは、月光によって現れる微かな虹を指す。見えにくくとも確かに存在する虹のイメージは、既存の権威的な旗に遊びや偶然性を差し込み、新たな視点を提示しようとする森の姿勢を象徴する。
発表される約24点の作品は、過去10年にわたり撮影された未発表のポートレートと、旗の幾何学構成を参照して手描きされた白い図形をフォトグラム技法で重ね合わせて制作された。ネガフィルムとアクリル板を暗室で重ねてプリントすることで、従来の「影の転写」とは異なる、相互に侵食し合うレイヤーが生まれる。
図形は国旗やレインボーフラッグの伝統に倣いすべて手描きで制作され、修正液を混ぜた絵具による光沢や透明感が写真に定着している。森はこのプロセスを「過去を塗り替えるのではなく、未来へ書き添える行為」と語る。
森はこれまで『intimacy』(2013)で同性の恋人や友人との親密さを、『Family Regained』(2017)で新たな家族のあり方を探求してきた。前回の個展「ネズミたちの寝言|We Squeak」(2023)では「眠る」という受動的な行為を通じて抵抗の可能性を示唆したが、本展では「旗を掲げる」能動的な行為へと視点を転じる。
作品群において図形とポートレートは滲み、透け、入れ替わりながら変容を続ける。その流動性は抑圧と自由、国家と個人が交錯する曖昧な領域を可視化し、観る者に「旗」とは何か、「個」と「社会」の関係はいかに変容し得るのかを問いかける。
タイトル | Moonbow Flags |
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場所 | KEN NAKAHASHI(東京都新宿区新宿3-1-32 新宿ビル2号館5階) |
会期 | 10月10日(金)~12月20日(土) |
時間 | 13:00〜20:00 |
休廊日 | 日・月曜日 |
料金 | 無料 |
URL | https://kennakahashi.net/ja/exhibitions/moonbow-flags |