5 March 2021

革命や戦争の写真集がアート素材に?
イランで新たに本を再構成する理由

コレクターの視点 vol.4 ハンナ・ダラビ

5 March 2021

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コレクターの視点 vol.4 ハンナ・ダラビ「革命や戦争の写真集がアート素材に?イランで新たに本を再構成する理由」 | ハンナ・ダラビ

イラン革命の歴史を読み解く素材

近年、写真集に対する評価の高まりによって、特定の国や時代に作られた写真集を紹介するアンソロジーが数多く誕生した。2018年にイラン人作家のハンナ・ダラビが、イラン革命*とその直後に刊行された書籍をまとめた『Enghelab Street, a Revolution through Books: Iran 1979–1983(以下、Enghelab Street)』も、一見近年増加傾向にある「本にまつわる本」のジャンルに属しているようだが、それらとは一線を画する。

自身で撮影した写真とハガキや文書、本や雑誌の切り抜きなど、さまざまな素材を組み合わせるアーティストであるダラビにとって、「写真集は、メディアとして興味深いもの」だと語る。彼女の写真集コレクションの根源には、文書や資料を作品の素材として用いることへの興味がある。

「2014~15年にテヘランについてのプロジェクトに取り組んでいたので、素材探しによく古書店に通っていました」。そこで、イラン革命の指導者であるアーヤトッラー・ホメイニーを追ったシャーロフ・ハタミ著『Allah Akbar』と出会う。「この本をめくると、作り手が写真集の持つ多様な可能性を真に理解していることが伝わってきます。ほかにも同じような本がもっとあるはずだと思い、同時期にイランで作られた写真集を集め始めました」。だが、彼女の本探しは難航した。比較的寛容で改革派の政権下にあった2000年代初期に学生時代を過ごした彼女だが、「その当時、イランの写真集を見た覚えはありません。ただの一冊もです」。参考資料が限られている上に、資料を所蔵する図書館の数も限られている。さらに革命後に続いた戦争や検閲によって多くの写真集が消失してしまった。だが後に、ホメイニーに師事し、ダラビと同様に書籍を収集するイラン人男性からの協力を得たことでプロジェクトは前進する。

1. ハンナ・ダラビの作品集『Enghelab Street, a Revolution through Books: Iran 1979–1983』のカバー。パリのアートスペースLE BALで開催された同名の展覧会に合わせて、フランス国立造形芸術センターと欧州研究機構の助成金を受けて出版された。

2. 昨年受賞したParis Photo-Aperture Foundation Photography Catalogue of the Year Awardのトロフィーが飾られていた。

3.1979~1983年にイランで刊行された写真集コレクション。数万部刷られたものでも、現在では入手困難とのこと。


「学校で教わった革命史は、とても断片的で偏った内容でしたし、私の親、友人の親、欧米の書籍は、それぞれ異なる見解を持っていました。写真集をひとつの素材ととらえ、革命後に生まれた作家として、私自身の視点を表す作品が作りたかった」。そして多くの書店が立ち並び、テヘランの文化的エリアとして知られる“エンゲラブ(革命)通り”と名付けた本『Enghelab Street』が生まれた。

本書にはイラン革命とその余波にまつわる本、自費出版本や政府によるプロパガンダ、“白い表紙”と呼ばれる小さな独立系出版社による違法な書籍(例えば、政治に関する書籍や海外小説)などが収録されている。さらに最終章「再構成」では、各写真集の画像を再編集し、視覚的な文脈を生み出した。「これらの本は革命の歴史の一端でもあります。その歴史を伝えるためのに各写真集からイメージを選び、ポストカードや幼い頃にテヘランで観た映画のスチル画像などと呼応するかたちで掲載しました」。

本プロジェクトは終わりを迎えようとしているが、イラン史にユニークな視点を与えて くれるダラビの本探しは今後も続いていく。

*1978 – 79年に起きたイラン革命とは、イラン最後の皇帝モハンマド・レザー・パフラヴィーの政権を倒し、1979年2月にアーヤトッラー・ホメイニーを指導者とするイスラム共和国が樹立されるまでに至った一連の出来事。

4. パリの北西部にある彼女のスタジオ兼自宅アパートで作業をするダラビ。

5.6. ダラビのコレクションからイランのさまざまなライター、写真家によるイラン革命についての作品を収録した一冊『Chronicles of Victory』(Ministry of Islamic Guidance, 1982)を見せてくれた。

5.6. ダラビのコレクションからイランのさまざまなライター、写真家によるイラン革命についての作品を収録した一冊『Chronicles of Victory』(Ministry of Islamic Guidance, 1982)を見せてくれた。


文=マーク・フューステル
写真=Atelier 9
IMA 2020 Spring vol.31より転載

ハンナ・ダラビ|Hannah Darabi
1981年、テヘラン生まれ。2007年以降、パリを拠点とするアーティストおよ写真家。自身の写真とそのほかの素材を組み合わせ、イランの政治や経済に言及するアーティストブックを多く制作する。代表作のひとつである『Enghelab Street, a Revolution through Books: Iran 1979–1983 』は、 2019年にArles Historic Photo Book AwardとParis Photo – Aperture Foundation Photography Catalogue of the Year Awardを受賞。

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