Q. このコンテストでどのような作品を期待していますか?
A. 身の回りのこと、気になっていたこと、テーマはなんでも構わない。それをどのように伝えたいか、その表現はあなた次第です。一枚に切り取った写真、または数枚組みで語り掛ける写真。見る者に、心に、何かを振動させる、気付かせる写真。あなた自身の、あなたが考えている、感じていることを作品にしてください。
Q. 一貫して写真を使った表現を続けられていますが、現代において、写真が持つ力とはどのようなものだとお考えですか?
A.ビジュアル表現手法としてストレートに、瞬時に伝えることができる最大の力であり、そのイメージは我々が持つ一人ひとりの経験や記憶が日常を超えて歴史や社会へとつながり、呼応する。イメージを超え、想像力を促し、問い掛け、挑戦をするミディアムだと思っています。
Q. 写真を通してSTORYを伝えるためには何が大切でしょうか?
A. やはり、ソウル(心、魂)だと思います。ストーリーの芯にあるもの、伝えたいことに真摯に向かい、イメージと表現を独自の手法で表現をすること。
Q. 作品作りにおけるリサーチの大切さとは?
A. 私の場合、主旨目的を決めて選び出した主体に向かい撮影に挑むので、撮影前のリサーチは不可欠であると考えています。場所や国、人物や事物について、また私が選んだ特定テーマの表裏、明暗を探り、アーカイブから書籍、当時の芸術家がどのようにとらえていたかなど、過去のものから現在にいたるまでリサーチをして考えていきます。アスリートが目的に向かうよう、最終地点=撮影に辿るまでの準備と同じといえるでしょう。それが直接表面的に造形的に現れるということではなく、全ての生命が必要としているもの、例えば水のように不可欠であると思います。
Q. リサーチの例を挙げていただけますか?
『アルベール・カミュとの対話』と『コレスポンデンスー友への手紙』は、カミュの著作、当時のスナップ写真や新聞記事、日記など、さらにアルジェリア人と仏人作家の著作など出来るだけ幅広く読み、また親族やカミュ評論家にもインタビューを行い、撮影に挑んだ。
池の彫刻と椰子の木越しに空を覗く、ハマ植物公園(アルジェ・アルジェリア)2017
さまざまな1200種もの珍しい植物が茂る美しい公園は、フランス統治下アルジェリアで1832年に造園された。ここで、カミュは幼い頃、学校のない週二日、木曜日と土曜日に友人たちと木に登ったり、木の実やヤシの実を拾ったりと、木々の間を走り回り、思う存分遊んでいた。
駅とレジスタンスの慰霊碑(サン=ブリュー・フランス)
サン=ブリューは父リュシアンが埋葬されている場所。リュシアンはアルジェリアに生まれ、一度もフランスを見たことがなかった。第一次大戦の勃発(1914年)とともにリュシアンはズアーブ兵*1として動員され、マルヌの戦いで負傷。その後、サン=ブリューにある陸軍病院に運ばれるが、頭に受けた傷が致命傷となって、間もなく死亡する。リュシアンにとって初めて見たフランスの地が死に場所となった。同地を初めて訪れた35歳のカミュは、墓標の前で、自分より若くして父が亡くなっていたことに気づき、泣き崩れた。
*1. アルジェリア人、チュニジア人を基本に編成されたフランスの歩兵。当時、北アフリカはフランスの植民地だった。
シリーズ、Sceneより、森(ソンムの戦いがあった森/デルビルの森・フランス)2000
第一次大戦のフランス・ソンムでの戦いの激しかった最前線Delville Woodを撮影。これは従軍し、戦場画家ともなったポール・ナッシュが描いた、『我々は新しい世界を創造している』が作品のひとつのベースになった。その絵は爆破で波状に唸る地、なぎ倒された木々の荒廃した風景が描かれている。100年以上前の戦いであるが、今も不発弾などが残る、新緑の森を撮影した。
Q. 今年は、スペインのマフレ財団で大規模な個展を開催されましたが、今後の展示や制作のプランを教えていただけますか?
A. いまは大きな展覧会を終えて、これからまた新たな作品作りに取り組んでいるところです。想像と挑戦——もう一度、自然、共存という事について考え、新しい何かを探ろうと思っています。
▼今後の展覧会予定
長野県立美術館グランドオープン記念「森と水と生きる」
会期:2021年8月28日(土)~11月3日(水・祝)
会場:長野県立美術館
「東京都コレクションでたどる〈上野〉の記録と記憶」
会期:2021年11月17日(水)~2022年1月6日(木)
会場:東京都美術館
「Constellations: Photographs in Dialogue」
会場:サンフランシスコ近代美術館
『雪解けのあとに』恋人、ドゥナウーイヴァーロシュ(スターリン・シティと呼ばれた町)、ハンガリー 2004 発色現像方式印画 © Tomoko Yoneda, courtesy of ShugoArts
現代の写真表現において欠かすことのできない要素である「STORY」。一枚で何かを物語る、あるいは複数の写真によってイメージが物語を紡ぐこともあるでしょう。日常の中のささやかな出来事のドキュメントから、旅路で体験した冒険物語、空想から生まれたファンタジー、壮大な神話まで、そのイマジネーションは無限に広がります。現実を写す写真でありながら、組み合わせやシークエンスによって現実以上の世界を語ることもできるのです。それは自身の思いや感情、メッセージを誰かへ伝えるための心強いツールとなるでしょう。写真の新たな可能性の扉を開く、ユニークな「STORY」をお待ちしています。
タイトル | |
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応募期間 | 2021年7月5日(月)~9月5日(日) |
応募料金 | 2,000円/1エントリー |
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米田知子|Tomoko Yoneda
1965年生まれ。イリノイ大学シカゴ校芸術学部写真学科卒業。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)修士課程修了。現在ロンドンを拠点に活動。風景や空間、歴史上の人物の所有物を通して、記憶と歴史、人間の存在への問いをテーマに作品を制作する。近年の主な個展にスペインマフレ財団(2021)、パリ日本文化会館(2018)、東京都写真美術館(2014)。上海ビエンナーレ(2018)、キエフビエンナーレ(2012)、ヴェネツィア・ビエンナーレ(2007)など国際展に多数出展。作品は原美術館ARC(群馬)、兵庫県立美術館、カディスト美術財団(パリ/サンフランシスコ)、森美術館、国立国際美術館、サンフランシスコ現代美術館、東京都写真美術館、横浜美術館など国内外でコレクションされる。