大判カメラのアオリを利用してジオラマのような風景を生み出す本城直季。その作品は、見慣れたはずの現実の景色を一変させ、われわれの生きる世界の有りように新たな気づきを与えてくれる。デビューから一貫して愛用する4×5カメラと作品との関係を聞いた。
撮影=川島宏志
文=小林英治
一枚ずつ撮影する感じがフィットした4×5カメラ
―事前に愛用するカメラを2つ挙げていただきました。「トヨフィールド45All」と「リンホフ マスターテヒニカ」、これは状況によって使い分けているのでしょうか?
左がトヨフィールド45All、右がリンホフ マスターテヒニカ
そうですね。どちらも4×5のフィールドカメラですけど、トヨフィールドは地上で三脚を立てて撮影するときに使っていて、リンホフは空撮のときに使っています。
―本城さんの作品は、第32回木村伊兵衛賞を受賞したデビュー作『small planet』(リトルモア/2006年)から、アオリを使った手法で風景をミニチュア的に撮影するのが特徴ですが、4×5はいつ頃から使っていますか?
東京工芸大学で写真学科に在籍していたんですけど、4年生になって研究室に入ると、大学からいろいろ機材を借りられるようになるんです。そのときに4×5の入門機として貸し出していたのがこのトヨフィールドで、そのときからですね。
―それまでは35mmか中判ですか?
大学1~2年生時の課題では35mmを使っていたんですけど、軽くてシャッターをいっぱい押せるから何でも撮れてしまうことに、逆に何を撮っていいかすごく悩んでしまって。自分には合いませんでした。
ほかの人のベタを見ると、いっぱい同じものを撮っているんですけど、自分は何を撮ろうか悩んで、一枚撮ったら、次のものをまた探す。そういうふうにやっていたので、35mmは全然ピンときませんでした。またPENTAXの中判を使ったりもしましたけど、4年になって4×5を手にしたら、この一枚一枚撮る感じが、すごく自分に合ったんです。
トヨフィールド45All
―4×5を使う人はまわりでは珍しかったですか?
わざわざ重くて機動性のないカメラを選ぶ人は、当時そんなにいなかったですね。だから研究室で借りてから、ずっと独り占めしていました(笑)。あと、4×5を選んだのは、当時、ホンマタカシさんやアンドレアス・グルスキーの写真が好きだったのもありました。ホンマさんの『TOKYO SUBURBIA』(1998年)の無機質な感じとかすごく憧れました。
4×5だと描写がきれいなので、リアルだけど嘘っぽいというか、無機質な感じが出るのかと思って、独学でいろいろ実験していきました。
手法の鍵となる蛇腹とイメージサークル
―アオリを使った手法も、リアルな風景だけど嘘っぽく見えるというところが関係しているんですね。いま使っているカメラは卒業してから買ったものですか?
そうです。というか、卒業してもしばらく借りて制作していたら、先生から電話がかかってきて叱られて(笑)。それで返却し、自分で買いました。何回か修理はしてますけど、それをずっと使っています。
―ほかの4×5を使ったことはないですか?
ほかのカメラに浮気したくもなったんですけど、蛇腹の感じとか大きさとか、結局これがちょうど良いんですよ。僕の場合はアオルため、蛇腹が小さいと黒いところにすぐぶつかってしまうので、大きさはすごく大事なんです。ほかの高級なカメラも気になって触ってみたんですけど、スマートに作られすぎていて、あれ、使えないなって(笑)。
―なるほど。レンズにも重要な点はありますか?
いわゆる「イメージサークル」が大きいレンズを選んでいます。カメラ雑誌とかカタログに書いてあるイメージサークルって意味あるのかな?って思っていたんですけど、自分の手法にとってはすごく重要だった(笑)。アオルから、イメージサークルが大きくないと、周辺部が暗くなってしまうんです。
―リンホフは空撮用ということですが、トヨフィールドと使い分けている理由はありますか?
これは手持ちで撮れるからです。4×5でこのようにグリップがつけられる機種はこれだけなんですよ。
―空撮の場合、撮影場所はどのようにして選ぶのでしょうか?
予算の関係もあるので、まずヘリコプターありきで考えます。いつも使っているロビンソンR44という小さい機体があるんですけど、全国でそれがあるヘリポートの場所をまず探して、そこから行ける範囲を予算と時間との関係で決めます。だいたい1時間で20万円くらいなので、数カット撮るだけであっという間です。
この世界をクリアに認識するために
―撮影の手法は一貫していても、以前と変わってきたことありますか?
そうですね、アオリの具合とかはだいぶ上手くなっているんじゃないですかね。ただどんどん上手くなると、逆に面白味がなくなっていく部分もあるので、そのあたりは気をつけています。上手い写真と味のある写真は違いますから。
―被写体に関してはどうですか?
被写体はいろいろ変えて探っています。いまは『small planet』みたいのは撮ってないですし、やっぱり自分の中で面白いなというテーマ見つけて撮るようにしています。
―2000年代に撮影した『東京』(リトルモア/2016年)のあと、現在継続しているテーマはありますか?
最近は、自然を撮っているのが一番多いですね(「plastic nature」シリーズ)。街ももちろん撮ってるんですけど、上から見てて興奮するというか、すごいなと感じるのは自然の方ですね。街は人間的な作られた形が見て取れますけど、自然も意外にランダムじゃないというか。地形とか、木の生え方とか、上から見るとつながっているかのように群生してる感じが面白いです。
―高知、宮崎と巡回中の大規模な展覧会「(un) real utopia」では、会場がある地域も撮り下ろしています。
地方の街並みを撮ると、自然とのバランスが取れていて、住みやすそうと思いますね。自分は東京で生まれ育ったんですけど、「東京」シリーズを撮っていたときは、ここに住むのは大変だって思いました(笑)。この夏に参加している「千の葉の芸術祭」では、千葉市を撮っています。リサーチすると、海もあるし、住宅地もあるし、工場地帯も、農村部もあるので面白いですよ。上から見ると、ちょうど湾岸道路が団地と工業地帯を分断して境目を作っていて、そこで世界が分かれているのが分かったり。
―本城さんの作品制作の根本には、自分が住んでいる場所なり街を理解したいという気持ちがありそうです。
そうですね。ホンマさんの写真を見たときに、「ああ、こういう世界に住んでるよな」って思いましたし、グルスキーの初期作品でも、大量に物が陳列されている写真を見て、自分が生きている世界をまざまざと見せられた感じがしたので。
自分の作品も、写真という表現を通して、現実の世界や社会の仕組みを認識したいというところがあると思います。
本城直季|Naoki Honjo
1978年東京生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。写真集『small planet』(リトルモア)で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞。主な写真集『TREASURE BOX』(2010/講談社)、『Shinkirou』(2013/リトルモア)、『東京』(2016/リトルモア)、『京都』(2016/淡交社)などがある。