2021年、ショパンコンクールで日本人として二人目となる最高位2位入賞を果たしたピアニストの反田恭平。以降、メディアで見ない日はないほど日本を席巻している反田だが、彼が写真好きということはあまり知られていないだろう。氏のツイッターアカウントをよく見ると、#Leicaの文字が掲げられており、ライカユーザーということが分かる。写真を撮ることと、クラシック音楽に関係はあるのだろうか?視覚と聴覚は交わらない印象だが、実は意外な共通点を感じているようだ。
撮影=竹澤航基
取材・文=IMA
取材協力=スタインウェイ&サンズ東京
―まず、写真との出合いを教えてください。
僕が小・中学生の頃、デジカメブームだったんです。そこで一眼レフに憧れがありました。プロのカメラマンが使っているようなイメージがあって。そして、高校時代から携帯電話のカメラで撮るようになりました。風景や植物をよく撮っていましたね。
その後成人して、演奏活動などで自分で稼ぐようになって、憧れの一眼レフを購入したんです。最初はニコンのD5600でした。当時モスクワで学んでいたのですが、持って行って使っていました。
―最初はニコンだったんですね。ライカを使い始めたのはいつですか?
ライカは昨年(2021年)春頃に買いました。ニコンD5600は使いやすかったんですが、少し物足りなさも感じていたんです。今後、自分のCDのジャケットやブックレットの写真を撮りたいなと思っていて高性能なカメラを探していました。
2018年に会社NEXUSを立ち上げるなど仕事も頑張っていたし、自分へのご褒美の意味も込めて思い切ってライカ銀座店に行って購入しました。ライカSL2-Sとレンズのバリオ・エルマリートSLです。
愛用のライカSL2-Sとバリオ・エルマリートSL f2.8–4/24–90mm ASPH.。レンズは焦点距離24-90mmで、さまざまなシーンで使いやすい。
―ライカはピアノでいうとスタインウェイ&サンズのような、カメラ界を代表するブランドですが、元々憧れはあったんですか?
いえ、全然知りませんでした(笑)。2020年頃、宣材写真を写真家の大杉隼平さんに撮ってもらったんですが、その写真がとても味があって惹かれるものがありました。
その彼が使っていたのがライカだったんです。実はその時までライカを知りませんでした。それから取材でライカのレンズを使用しているフォトグラファーさんが連続して。これはもうライカを買う運命なのかなと(笑)。
―それは買いたくなりますね(笑)。ライカSL2-Sのどこが気に入ったんでしょう。
液晶モニターとファインダーで見え方が違うんですよ。ファインダーをのぞくと印象が違って、映画的というか何となくジブリ映画の世界のようなんです。これにすごく感動しました。
見た目も格好良くて、この隙間のない防塵防滴な仕様に、ドイツらしいミニマルなルックスといった無骨・機能的なデザインも気に入っています。主にオフや旅行の時に使用するんですが、最近車を自分で運転するようになったので、車内に置いています。
あと動画を撮れる点も良い。なんと時間制限なしで撮れるんです。ショパンコンクールは最初の書類審査で演奏映像を提出しなければいけないんですが、そこで使おうとも考えました。まあ最終的にはプロの方に頼んで撮影しましたが。
―何を撮るのが好きですか?
風景が好きで、花や海、丘などを撮っています。シーズンになったら桜を撮りに行くんですが、これを持っていると振り返られることが多くて、優越感に浸れます(笑)。
また、海には音楽を感じますね。クラシック音楽には海を題材にした曲がたくさんあるんですが、例えば天気が悪い時の海はショパンの練習曲Op25-12「大洋」とか思い起こしたりします。
―海外公演も多いと思いますが、このライカSL2-Sも持って行って撮られるのでしょうか?
コロナ禍で携行品に厳しくなっているのか、税関で引っ掛かりそうになったことがあって、以来海外に持っていくのは止めました。なので、新たに小さい手持ち用のライカを買おうかなとも考えているんです。中古でも良いので。
―なるほど、普段からカメラが必需品なんですね。
iPhoneは12プロマックスを使用。
そうですね、ぷらっと出歩くときは、iPhoneで撮っています。ライカに引けを取らないよう腕を磨いています(笑)。
また、写ルンですやチェキといったインスタントカメラでもよく撮ります。こちらは完全プライベート使用ですね。親友や家族、打ち上げの場などをスナップしています。実はポートレイト撮影が上手いと思っているんです。友達を、撮るということを意識させないでパパっと撮るのが好きなんですよね。
写真はソナタ?
―そんなに写真に惹かれる理由は?聴覚芸術と視覚芸術に共通点はあるのでしょうか。
う~ん、どうしてでしょうか。僕は撮るのも撮られるのも好きなんです。最近取材で蜷川実花さんに撮ってもらって嬉しかったですね。新鮮な印象のポートレイトでした。
写真は断片的な記録です。一方、音楽は移り変わりの中で変化していきます。第1主題、第2主題、展開部、再現部……と、ソナタ形式というんですが、これと写真は近いと思っていて。
思い出を撮りためて、後で見返すと、これはあれに使えるな、とか、これはあの感情に近いのかな、とか、第1主題、第2主題の関係を考察するような感じなんですよね。まるで撮っていく中で自然にソナタ形式が生まれているかのような。少なからず写真撮影は演奏に影響していると思います。
あと、僕は基本カラーで撮るんですが、色合いは音楽にとって重要です。作曲家によって彼らが考えている視点は異なります。例えばショパンだったら、はっきりした黒やピンクではなくて、薄いにじんだ青、くすんだ紫とか形容詞が付く色合いなんですよ。ショパンはそういうニュアンスで音を表現していた人だと伝記や手紙から推測できます。
だから僕も、ファインダー内でどう色を表現するか拘って撮っています。
美音を紡ぎ出す反田氏の手。
―とても撮る行為が好きなんですね。
家で置物を物撮りするのも好きなんです。木の質感をどう出すかとかライティングを調整したり。以前ユーチューブに力を入れていた時は、冒頭の映像をわざわざ撮りに行ったり。僕がプロデュースしている楽団ジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーも撮って、アルバムにしたいなあと考えているんです。
―プロに近づいてきていますね(笑)。
もう常日頃撮っています。写真が一番の趣味ですね。
反田恭平|Kyohei Sorita
1994年生まれ。ピアニスト。2012年高校在学中に第81回日本音楽コンクール1位。その後チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院を経て現在F.ショパン国立音楽大学研究科在籍中。2018年マネジメント会社NEXUSを設立し、