メンズファッションブランド「OAMC(オーエーエムシー)」のキャンペーンやインスタグラムのヴィジュアルは、写真好き注目だ。率いるデザイナー、ルーク・メイヤーは常に写真家をリサーチしているという。過去には森山大道や北島敬三らとコラボレーションし、ジャンル、国内外問わず写真を見る。写真は彼に何をもたらすのか。ルークとの話は、写真とは何か?という哲学的内容にまで及んだ。
撮影=竹澤航基
取材・文=IMA
ルーク・メイヤーと写真家
―OAMCは、写真を大事にしていると感じます。写真があなたのクリエーションに影響することを教えてください。
写真でイメージを創造することを大切にしています。フォトグラファーは、私の服の翻訳者だと思っているから、誰と仕事するかは丁寧に見極めます。
ただ大切にしているけれど、ファッションはアート活動ではありません。服にはシーズンがあり、そのシーズンに売らなければならない商業面があります。写真でやりたいこととコマーシャル要素の加減が難しいし、悩ましい。
写真家のアーティスティックな切り口や、作品に感情を揺さぶられる気持ちを無視したくないから、いつもどう表現できるか向かい合っている気がします。
―写真家はどのようにして見つけますか?また最近気になる写真家がいれば教えてください。
まずフォトグラファーのカテゴリーは一切関係ありません。私がいま置かれている環境とか、いまのフィーリングで選ぶことを一番大切にしています。依頼する写真家がファッションと関係ない人になるケースもあれば、逆にとてもファッションフォトグラファーとして活躍している人のこともあるのです。
それは、いまの自分のフィーリングの結果。なので、色んなギャラリーやアートフェアに行き、写真を見ることを常に行っています。
―写真家とはどんなやりとりでヴィジュアルをつくりますか?
ファッション業界は、そのフォトグラファーのテイスト、アイデアを買うような文脈でコレクションを撮ってもらいます。けれども私は、そういったやり方には興味がなくて、写真家自身の強みや感性を尊重します。
そのため、お互いを理解するために対話を繰り返すし、タッグを組む写真家にはニュートラルな状態で撮り下ろしてもらうのが、最も素晴らしい作品ができると信じています。
クリエーションの力とは、お互いの信頼から生まれると思うのです。
―いままで日本の森山大道や北島敬三、『プロヴォーク』など日本の写真界ともお仕事されています。彼らともそういう対話を繰り返してコラボレーションしたのでしょうか?
森山さんも北島さんも昔から仕事をしたかった自分にとってのヒーローです。だから前述のようなやり方とは違います。彼らを100%尊重して、できることをやってもらうという依頼でした。
『プロヴォーク』は、本誌を持っていてアトリエの本棚に常備しています。それをチームのグラフィックデザイナーが見て、彼も好きという話で盛り上がりました。そしたら彼がタッグを組んでいる日本人にコンタクトをして、二手舎へ繋がりました。この機会を逃したくないと思ってコラボレーションしましたね。
スケボー雑誌から写真に興味
―そもそも、ルークさんにとって写真に興味を持つきっかけが何だったのか教えてください。
いままで考えたこともなかったですが、8~10歳の頃だったかな、スケボーマガジンの写真に興味を引かれたことかもしれません。被写体であるスケーターのトリックや彼の背景を見て、何でこんなヴィジュアルがつくれたのだろう?と思ったことが原点だと思います。それからだんだん写真に興味を持って、色々な写真家と知り合うようになりました。
写真が面白いのは、一瞬のことを切り取っているので、それが何なのかフォトグラファーもその場では説明できない。けれど、切り取られた瞬間それ自体が作品として誰でも見られる作品として出来上がってきます。そのプリント自体が意味を持つし、見た人は何か感情が揺さぶられる。
でも、被写体は撮られた数秒後には全く新しい動きをしていて、違う人生を歩み出す。その写真を見た人が感じる印象とは全く違うことをしていたかもしれない。そういった鑑賞者と被写体の関係の無さみたいなことも面白い。
トータル的にめちゃくちゃ写真は魅力的です。
―いまコラボレーションしたい写真家はいますか?
いまこの場で特定の人を挙げることは出来ません。というのも、常にさまざまな人の作品を見ているので、そのうちコラボしたい人が出てくると思います。
フォトグラファーはアーティスト。しかし作品をつくり上げる過程として画家とは全く異なる。画家は絵を描いて、それを飾ればどこでも同じような雰囲気で絵は存在するでしょう。対して写真は、その場を切り取るもので被写体が必要。社会的と思います。
ファッションも社会学で、その人のスタイルとか様子が社会を映し出します。写真とファッションは近しいと思うのです。
―絵は写真と違い、想像だけでも描けますものね。
また、写真と絵は時間軸が違います。写真はシャッターを切った一瞬。絵は長い時間を掛けて描くもの。時間の流れが全く異なりますよね。
でも、例えば写真家ジェフ・ウォールは絵画にちなんだ写真を撮っています。葛飾北斎の浮世絵『富士三十六景』からインスパイアされた作品『A Sudden Gust of Wind』はドキュメンタリー風だけど実はセットアップしてつくりこんだ写真。ラフに見えても長い時間かけてつくったものです。
ヴォルフガング・ティルマンスもそう。スナップのように見えてつくりこんだ写真を撮ります。9月にニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催中の個展「Wolfgang Tillmans: To look without fear」を観ました。展示はランダムにテープで写真をラフに貼っているだけで一見雑です。そして写真はストーリーで繋がっているのかと思いきや繋がっていない。一枚一枚追っても「何だこれ?」という感じ。しかし、距離を取って全体像を見ると何か感情が揺さぶられて理解できたのです。この展示でそんな感興をもたらすティルマンスには感銘を受けました。
この二人はコラボレーションしてみたい写真家かもしれません。
―ティルマンスは大局的な視点から撮っていると思います。写真は社会的ということを体現している写真家です。
最後にこちらから質問させてください。ファッション写真はアートでしょうか?
―依頼された仕事はコマーシャルになり、自発的に作品として撮ったものであればアートではないでしょうか。ヴィヴィアン・サッセンのように両分野で活躍する人もいますが……我々も答えの出せない質問です。
難しい問題ですよね。私は、ときどきファッションがアートとして扱われることがあるけどそれは間違いだと思っています。そこの線引きはずっと考えているのです。同じように、ファッション写真はアートなのかどうか。これも未だ答えの分からない命題ですね。
ルーク・メイヤー|Luke Meier
カナダ生まれ。米・ジョージタウン大学でファイナンスと国際ビジネスを学ぶ。イギリスに渡り、オックスフォード大学で経営学を専攻。その後、アメリカに渡り、ニューヨーク州立ファッション工科大学に通う。2014年「OAMC」を設立。