兵庫・神戸のTHE BOOK ENDにて、4月16日より写真家マルティン・エスルによる個展「Le bateau ivre」が開催される。本展は、パリを舞台に約4年にわたって制作された同名シリーズを中心に構成され、都市の記憶と現在を横断する視覚的なエッセイとして提示される。
エスルは、早朝のスタジオを起点にパリを横断するように歩きながら撮影を行ってきた。毎回異なるルートを辿るこの反復的な行為は、都市を単なる空間としてではなく、時間の層が重なり合う場として捉えるための方法論だ。歩行の中で彼が接続するのは、文学や芸術の歴史に刻まれた記憶と、現代のデモや暴動によって刻まれた痕跡という、異なる時間軸である。
シリーズの核となるのは、青い壁を背景に据えた定点的なカット。夕暮れ時、壁の前を通過する人々の姿が連続的に捉えられ、個々の存在は匿名性を帯びながら、都市の時間の中に溶け込んでいく。ここでは出来事そのものではなく、通過するという行為が主題化されている。
タイトルの「Le bateau ivre(酔いどれ船)」は、アルチュール・ランボーの詩に由来する。この引用が示唆するのは、方向を持たず漂流する主体としての視点である。エスルのカメラは都市を支配することなく、むしろその流れに身を委ねながら、偶然性と必然性のあいだにある瞬間をすくい上げる。
また、本展では作品集『Le bateau ivre Paris 2019–2023』に収録されたイメージが、日本での展示に合わせて阿波和紙にプリントされる。紙という物質の質感は、写真に新たな時間性を付与し、都市の記憶をより触覚的なレベルで経験させる。
エスルの実践は、写真を単なる記録から、個人的な物語と政治的なナラティブが交差するフォトエッセイへと拡張する。マン・レイやウォーカー・エヴァンスといった写真史の系譜、さらにはランボーやプルーストといった文学の記憶を参照しながらも、それらを単なる引用にとどめず、現代の都市において再び生成されるイメージとして提示する。
5月5日には作家によるトークイベントが開催。定員20名、1650円。
| タイトル | Le bateau ivre |
|---|---|
| 会期 | 4月16日(木)~5月6日(水) |
| 場所 | THE BOOK END(兵庫県神戸市中央区海岸通3-1-5 海岸ビルヂング302) |
| 時間 | 11:00~18:00 |
| 休み | 火・水曜日(祝日は営業) |
| 料金 | 無料 |
| URL | https://the-book-end.com/ |
