2003年に自身のブログ「North Latitude 23」を立ち上げて以来、リン・チーペン(aka No.223)は親しい友人たちの日常を撮り続けてきた。ベッドに横たわる裸身、絡み合う手、深夜の街、花や動物——それらの写真はしばしば官能的だと受け取られる。しかし彼自身はそれらを特別なものだとは考えておらず、食べることや眠ることと同じ、ごく自然な生活の一部なのだという。中国の若者文化を象徴する存在として語られるリンが照らすのは、国や性別、年代を超えて、誰もが抱く“親密さ”の風景なのかもしれない。
撮影=高木康行
取材・文=アイヴァン・ヴァルタニアン
アーティスト「No.223」が生まれるまで
――「No.223」という名前は、ウォン・カーウァイ監督の映画『恋する惑星』の登場人物から来ているそうですね。いつからその名前を使い始めたのですか?
Lin Zhipeng(以下、223):アーティストになる以前の、2000年頃です。当時は中国で一般にインターネットが使われるようになったばかりで、BBS(電子掲示板)上のテキストでのコミュニケーションが中心でした。その投稿のハンドルネームとして使っていたのが「No.223」です。ウォン・カーウァイ監督の描く夢のような世界観が好きで、影響を受けました。
別の名前を持つことは、投稿と自分のアイデンティティを切り離すのに便利でした。その後、写真を発表するようになってからも、この名前を使い続けています。中国ではセクシュアルな表現に厳しい規制があるため、別の名前があることで作品との間に距離を置くことができるのです。

――写真を始める前は、どんな創作活動をしていましたか?
223:日本風の漫画を描くのが好きで、『ドラゴンボール』、『スラムダンク』、『ドラえもん』などをよく真似していました。当時の典型的な中国の若者ですよね(笑)。大学卒業後に雑誌社で働き始めて、写真に触れるようになったのですが、そこで写真を撮るほうが漫画を描くより直接的に表現できると気づき、徐々にシフトしていったのです。
――2004年から写真集や雑誌を自費出版で作っていたんですね。
223:雑誌は職場の友人たちと作っていました。みんなインディペンデントマガジンが大好きで、自分たちでも作ってみたかったんです。『TOO』というタイトルで、とりあえず一号2,000部、一冊15ユーロ。流通も自分たちでやりました。
写真集に対する衝動も同じです。2004年に出した一冊目はごく少部数。2006年の二冊目は1,000部。当時の中国は出版規制がそれほど厳しくなく、書店やオンラインストアで売ることができました。今は出版に対する規制が厳しくなり、当時のように流通させるのが難しいので、ヨーロッパや日本の出版社と組むようになりました。

――印刷物という物体は、あなたにとってどんな意味を持ちますか?
223:インスタグラムは速すぎます。誰も一枚の画像に目を留めず、すぐに画像を切り替えてしまう。でも本を手にすると、一枚の写真の前に立ち止まることができます。その写真からさまざまなことを想像できる。だから私は出版し続けています。ギャラリーでの展示も、オンラインで見るのではなく、実際に足を運んでほしいのです。体験は全く違うものだから。
――新しい写真集『223 BY 223』について教えてください。
223:いつも参考にしていたのは、ヨーロッパやアメリカのインディペンデントマガジンでした。中国への輸入ができなかったので、買うために他の国へ旅していたくらいです。あのとき集めた雑誌が私の編集感覚を形成したと言っても過言ではなく、『223 by 223』にもその影響があります。
タイトルの意味は「223が223によってキュレーションされた作品集」。年ごとのアーカイブになっていて、今回の第一巻は、2019年の作品を収録しています。今後も2020年、2021年と毎年一冊ずつ出していく予定です。号ごとに決めたテーマに合わせて編集を組み立て、画像を選び終えたら私の仕事は終わり。選んだものをデザイナーに渡して、あとは完全に任せています。タイトルに私の名前しかなくても、出来上がった本はいつもコラボレーションです。
開かれる身体と関係
――去年、写真集としてまとめたパリのプロジェクト『Amour Défendu(禁色)』について教えてください。
223:まず、インスタグラムで被写体を募集しました。アジア人モデルのみ、全員が私にとって見知らぬ人を選びました。街を一緒に歩いて、場所を見つけた瞬間にアイデアが浮かぶんです。撮影は1分、時にはたった10秒で――橋へ、屋上へ、市場のスタンドへ、そしてバーにも。その場でアシスタントにアイスクリームを買ってきてもらって、それをモデルの顔に乗せたりもしました。いつも早朝に出かけ、警察が動き出す前の7時半頃までに撮り終えるようにしていました。
――223の作品はとても官能的で、しばしばエロティックです。
223:エロティシズムは特別なものではありません。私にとっては、ショッピングや眠ること、食べることと等しい。中国の伝統的な考えでは、セックスは寝室に属するもの——公の場で見せてはいけないものとされています。でも私にとっては、他の何とも切り離されていません。誰もが経験することで、愛と同じです。だったら、なぜ写真で表現してはいけないのか。身体は美しい。フェティッシュでもある。私自身はエロティックものとして撮影しているわけではないのです。
――フィルムでしか撮らず、一度のセットアップでほんのわずかな枚数しか撮らないのですね。
223:ほとんどの写真は1枚しかシャッターを切りません。フィルムは高価で、たくさん撮るとそれだけいい写真でなければならないというプレッシャーが生まれてしまうから。私にとって、写真を撮ることは楽であるべきだと思っているんです。一本撮り終えて、良い写真が1枚でも5枚でもあれば嬉しい。1枚も得られなくても構わない。結果を求めるのではなく、プロセスを楽しんでいます。
――フィルムで撮っていると、撮影後すぐには画像を見ることができませんね。
223:フィルムを全部ラボに送ります。現像とスキャンをしてもらい、デジタルファイルとネガが届くまでは、被写体も私も写真を見ることができません。友人が自分の写った様子を見たければ、参考としてiPhoneで撮ったものを見せることもありますが、私が見るのはフィルム写真だけです。去年パリで、カラーネガから手焼きのプリントを作ることに挑戦しましたが、まるで油絵のように美しかった。でも費用がかかるし、失敗も多い。またいつかやりたいです。
時間の経過は美しい
――作品に登場する人たちの多くは親しい友人で、2004年から撮り続けている人も。もう20年以上になるんですね。
223:友情と信頼で結ばれた親しい4、5人の友人には、本当の姿を見せることができます。いつも同じ街にいるわけではありませんが、会うたびに写真を撮ります。死ぬまでこれを続けたい――ただ、時間の経過を表現するために。歳をとることは怖いことではなく、美しいことだと思います。髪が白くなり、しわができ、形が変わっていく。でもそれは、時間が経っただけのことです。時は美しい。人の変化を、肌の細部を、時間をかけて記録しようとしています。
――花のモチーフも、作品に繰り返し登場します。
223:花と果物は好きですね。2019年にT&M Projectsから写真集『Flowers and Fruits』を出版しました。新鮮な花は美しい。でも、枯れかけた花も美しい。死は誰にとっても怖いものです。もちろん私も例外ではありません。でも、花が枯れていくのを見るとき、そこには時間の流れがあります。美しいものは変化するんです。
――20年にわたって仕事を続けてきて、写真集、友情、それらが連れて行ってくれた場所をどのように見ていますか?
223:中国でアーティストとしてやっていくことは簡単ではありません、特に若い頃は。いま、私はさまざまな国で作品を発表し、出版することができています。東京にもまたこうして戻ってこられて嬉しい。アーティストとして自分の道を見つけることができて幸せです。

Lin Zhipeng(林志鹏 / No.223)|リン・チーペン
1979年中国広東省生まれ、現在は北京を拠点に活動。中国の現代写真を代表する写真家で、中国において、写真を通じて若者たちの日常や文化を写真で表現した先駆的な一人。インディペンデント出版など、中国の若者たちへ多大な影響を与え、現在も中国内外での出版や展覧会で精力的に活動する。これまでに、Unseen Amsterdam、Paris Photo、Photo Basel、Copenhagen Photo Festival、Planches Contact Photo Festivalなど、世界各地のアートフェアや写真祭に参加するほか、ICP New York、MEP Paris、西オーストラリア美術館、シュトゥットガルト州立美術館などで作品を発表。主な出版物は『No.223』、『Sour Strawberries』、『La Liberté ou L’Amour』、『Amour Défendu』、『Skinny Wave』ほか。
| タイトル | |
|---|---|
| 場所 | Akio Nagasawa Gallery Ginza(東京都中央区銀座4-9-5 銀昭ビル6F) |
| 会期 | 6月4日(木)~7月4日(土) |
| 時間 | 11:00~19:00(土曜日13:00~14:00クローズ) |
| 休み | 日・月曜日、祝日 |
| 料金 | 無料 |
| URL | https://www.akionagasawa.com/jp/exhibition/223-by-223/ |

