東京都写真美術館で9月21日まで「TOPコレクション 明日の食卓」展が開催されている。食をテーマに14名の作家の作品を展覧し、食べること、共に生きることを考えさせる展覧会だ。夫婦で写真家である島尾伸三、潮田登久子夫妻のその家庭を撮った作品群も並ぶ。展示に際し、夫妻に当時の生活について聞いた。島尾はなんと取材日の前日に酔っ払って横転、額に痛々しい傷を携えて登場。それを淡々と話す潮田。肝の座った家庭が垣間見えた。
撮影=今津聡子
取材・文=IMA編集部
ーお2人は日常を撮られてきましたが、撮ったものがいつ作品になるとお考えですか?
島尾:私はカメラ依存症なんです。カメラがないと景色を見たくない。例えば田舎に行って古い喫茶店に座って窓の外を見ていると、ガタガタと路面電車が窓ギリギリに走ってくる。とても面白い光景で、撮りたいと思うんですけど、そんな時にカメラが無いと本当にイライラしますね。そんな自分にびっくりです。
面白いと思ったら何でも撮りたいんですよ。あとあとそれが作品になる。撮りためて、集まったらその時の気分で写真を選んでシリーズとする。あなたはどう?
潮田:私も似たようなものですね。いつの間にか撮っているんです。写真集『マイハズバンド』のシリーズも撮ったことを忘れてて、たまたま引っ越しする時に見つけて、こんなのがあったんだという感じでした。
私が撮ったのには違いないんだけれど、一方こんなの撮っていたっけという気もする。写真集としてまとまりましたが、自分で確証を持てませんでしたね。
ー本展では、《冷蔵庫》シリーズを展示されていますが、こちらも撮った当時は作品とは思っていなかったのでしょうか?
潮田:思っていませんでしたね。当時15畳くらいの西洋館の一室を間借りしていて、生まれたばかりの子供と島尾と3人で生活をしていました。そこに島尾が半分壊れている大きな冷蔵庫をどこかから持ってきたんです。それが3人の生活にはあまりにも大きすぎて、しかも古い冷蔵庫だから、モーターの音がうるさくてね。夜中になってガタンと鳴り始めるわけです。
私はこれからどういう生活になるのかと思うんですが、島尾と子供はスヤスヤと寝ているんですよ。
島尾:潮田の父が、私があまりにも働かないもんだから心配して、いろんな仕事を紹介してくれるんですよ、この会社は月収いくらで、とかね。
私に家族を食べさせなさいって、義父がそういう話をいくつか持ってきたけど、知らんぷりしてたんですよ。そしたらある時、義父からどういう生活がしたいのか、何か目標があるのかと聞かれたので、遊んで暮らしたいって言ったんです。それ以降、何も言われなくなりました(笑)。
潮田:本当の話でね、父はサラリーマンをずっとやっているから働かないというのは、考えにくかったんでしょうね。でも最終的には私たちが楽しくやってるから、まあいっかということになったのでしょう。

ーそれはご家庭の雰囲気が良かったんですね。
潮田:恐らくね。父は心配していろいろ言ってくるんですけど、私は自分で決めたから放っておいてと。家庭は自分の責任だからね。まあそうやって啖呵切っちゃったから、楽しくやらないと。
島尾:私は潮田との生活が楽しくてしょうがなかった。
ーその生活を写真に残したいと思ったんですか?
島尾:いや、楽しいから撮っちゃうんですよ。癖ですよ、もう習慣ですから。遊んでばかりで、織姫と彦星たちみたいにいつか別々にされる日が来るかなと思って怯えてましたが来なかったね。
潮田:今もその延長です。本当に変わりません。展示の内覧会があって今日の13時には集まらなきゃいけないってなったら、前日は早くに帰宅するでしょ。島尾は出かけたら出っぱなしだから。何時に帰ってくるかなんて分からない。ただ、うるさく言うと帰ってこないから。
そして放っておいたら警察から電話があって、島尾がケガして病院に送られたと。こういうのも2~3回目なんですよ。お酒飲むと楽しくなる時と、ダメになる時の2パターンあるみたいでね。
ーお互い面白かったんですかね。
島尾:潮田は肝が据わってるんですよ。香港に行ったとき、オープンカフェのすぐ横で豚を解体していても、潮田はその隣でレバーとか食べますからね。
潮田:私はちょっとへそ曲がりの人を見て面白いと思うところがあるんでしょうね。
ー今回の展示はお互いの作品が向き合わせで展示されていますが、お互いの写真を見てどう思いますか?
潮田:いや、別にどうってことないですけど、同じ部屋で暮らしてるでしょ。島尾はしょっちゅう傍らにカメラを置いていてコタツに入ったまま周りを撮っている。私、コタツ写真って言ってるんです。子供が来たら子供を撮るし。島尾は子供の面倒を見るのが上手なんですよ。元気な子供が生まれればもう私の役目は終わりと思っていましたから。
島尾:子供は外を向かせて抱っこする。そうすれば世の中を見られるようになるでしょ。親の希望通りに歩かせようとしちゃダメだね。
潮田:私は子供をそんなに撮ってないんですよね。島尾を撮ろうと思うんだけど、子供が入り込んで来るんですよ。邪魔しに来るのよね。島尾は本当に子供が好きで、子供がやって来ると一緒に遊ぶしね。
ーそんな生活をお互い撮っていたわけですね。
潮田:うん、生活が面白いんですよね。
島尾:命に関わらなければピンチでも面白いんですよ。ある時、土砂降りでうちだけ停電になった時があって、そとの公衆電話に電話を掛けに行かなきゃならなかった。それも楽しかったね。
ー「明日の食卓」という展示ですが、明日の食卓を撮るとなったら何を撮りますか?
島尾:ビタミン剤とか薬が入っているケースを撮るかな。未来の食事という感じ。あと、宇宙だと人間の小便を溜めて濾過して水にしているんだって。それも明日の食事。
潮田:うーん難しいなあ。食べなきゃいけないからねえ。安くて美味しいお魚、野菜、お肉を買って何かつくるかな。安い食材を美味しくするのは手抜きができないからね。食べることは大事だし、基本だから。贅沢なものは食べられないけれど。
島尾:あなた今冷蔵庫の中でりんごを育ててるじゃない。
潮田:あれはシワシワになるのが楽しみ。しばらくたつとどうなるのかなと思ってやってるんですよ。ただ冷蔵庫に入れて眺めるだけ。食べそこなって中がスカスカになっちゃって。それがシワシワになっていくのが楽しみ。冷蔵庫はそんな楽しみもあるわね。今もレモンがカラカラになって入っています。皺くちゃになっていく自分の手を眺めているのと同じかもしれない。
| タイトル | TOPコレクション 明日の食卓 |
|---|---|
| 場所 | 東京都写真美術館(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内) |
| 会期 | 2026年7月2日(木) ~ 9月21日(月・祝) |
| 休み | 月曜日(祝日の場合開館、翌平日休館) |
| 時間 | 10:00~18:00(木・金曜日は20:00まで、入館は閉館30分前まで) |
| 料金 | 一般700円、学生560円、高校生・65歳以上350円 |
| URL | https://topmuseum.jp/exhibition/5419/ |
