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ブックフェアの醍醐味のひとつは、作家に直接話を聞きながら本について知ることができること。ということで、作家自らが運営する写真集レーベルで、おすすめをピックアップしたい。まずは、オスロのHeavy Booksは、写真家のクリスチャン・タンゲが2014年に立ち上げたプロジェクトで、彼自身やほかの作家の写真集、ZINEやプリントなどを販売する。オリンピックにまつわるファウンドイメージを中心に構成したタンゲの写真集『The Games』や新刊の『Two Tide』、エイヴィンド・エグランドが、特に意味のない日常のノイズのなかに意味を見出すことに試みた『Finding Meaningful』など、スタイリッシュなデザイン、一見ランダムな写真群を1冊にまとめ上げる遊び心のある編集力も魅力だ。Heavy Booksとブースシェアをしていたのは、オラ・リンダルの『Distance』も出版しているノルウェーのスモールプレス、Cornerkiosk Press。ビャーン・ビア、モルテン・トージャスラッド、エベ・スタッブ・ウィトラップなどの新刊が並んでいた。どちらも、北欧の気鋭の作家とのすばらしい出会いをもたらしてくれるレーベルだ。
次に紹介したいのは、ロサンゼルスを拠点とするコリー・ブラウンによるSilent Sound。2年前までニューヨークにいたブラウンは、過去にはライアン・マッギンレーのアシスタントも務めた経歴も持つ。2014年にSilent Soundを設立し、編集、デザイン、出版のすべてをブラウンが手がける。シンプルなハードカバー、大判サイズのフォーマット、写真をメインに据えたデザインで、これまでにピーター・サザーランドの『70s 80s 90s 00s』、ジム・マンガンによる『Time of Nothing』、そして自身の写真集『Deeper than Night』などを刊行している。暗闇に包まれた夜に撮られたランドスケープ写真や、自然の中で見つけた植物や蜘蛛の巣などが綴られた『Deeper then Night』は、限られた光のなかの幻想的な世界へと観る者を誘う。
ブックフェアの主役は本だけにとどまらない。資金集のためのフェアオリジナルのマルチプルでは、マイク・ミルズとExperimental Jetsetのコラボレーションによるポスター、ルース・ファン・ビークのプリント作品、リッキー・スワローとピーター・シャイアーによるキッチュな時計など、人気作家のアートピースが手頃な値段で手に入るのが魅力。本をサポートするという意味が込められたIn Support of Booksのブースでは、ポートランドのBOOK/SHOP、ロサンゼルスのバッグブランドBuilding Blockら、エッジーなアーティストやお店が手がけるコンテンポラリーなブックエンドが集められていた。ブックエンドというよりもどれもアートピースのようなハイクオリティな仕上がりとなっている。
エントランス前の広場には、ミュージックライブやポエトリーリーディングなどが行われるステージがあり、その周りにはハンバーガーやピザ、フルーツなどを販売するフードヴェンダーが並んでいた。来場者たちで賑わうスペースで、ポップな佇まいが一際目を引いていたのがFOTOMATだ。ロサンゼルスのギャラリーSlow Culture & Deadbeat Clubによる実験的なインスタレーションで、かつてアメリカに存在した24時間フィルム現像サービスを行う、ドライブスルーのフォトキオスクのオマージュだという。エド・テンプルトンやトーマス・キャンベル、シェリル・ダンなどのさまざまな写真家が順番に店員に扮し、彼らが直接スペシャルエディションのプリントや写真集を販売するエキサイティングなサービス目当てに、常に人々で賑わっていた。Gagosian Galleryのブースでは、アーティストがデザインしたタトゥーを入れられる特設ブース「FLASH FLASH FLASH」も。それぞれの趣向を凝らしたユニークなブースも、フェアならではの楽しみだ。
Gagosian Galleryによる「FLASH FLASH FLASH」では、その場でタトゥーを入れてもらえる。
フェアのためのマルチプルを作ったマイク・ミルズやピーター・シャイヤー然り、アメリカ西海岸を拠点とする作家たち、Family BookstoreやAmpersand Gallery & Fine Booksなどのローカルのブックストア、ZINEを作るスケーターたちも数多く参加し、ウェストコーストのアートブックシーンに幅広く出会うことができた。現地の人々曰く“異常だ”という、ロサンゼルスにしては寒い気候、2日目は一時雨にも見舞われたにもかかわらず、ブックフェアを訪れる人々の勢いはとどまることなく、最終日のフェア終了間際まで会場に入ろうとする人々の列は途切れなかった。毎年出展している出版社の多くも過去最大の賑わいと口にし、最終日には用意した本が売り切れる出展者の姿も多く見かけた。フェアのためにロサンゼルスを訪れたという人も少なくなく、現地の人たちは会場で知り合いのほとんどに会ったというほど、LA Art Book Fairは、グローバル、ローカルの両方においてますます進化を遂げている。
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2021年3月以前の価格表記は税抜き表示のものがあります。予めご了承ください。