Photobooks of the Month

コロンビア出身のコンセプチュアルアーティスト、アルバロ・バリオスのアーティストブック。南米のスポーツ新聞に掲載された著名なスポーツ選手たちの写真。ガッツポーズのために振り上げられた両腕、整った口髭など、執拗に繰り返される（収集された）モチーフがスクラップされる。フェティッシュな視点が、子ども向けのイラストと組み合わされ、筋肉質なスポーツマンたちの愛らしさが際立つ。本書は、1972年に自費出版されたオリジナルを複写したもの。スポーツ史を形成する映像の記録と、個人の私的な眼差しの記録が、折り重なった一冊。

ベルリンを拠点に活動を行うアーティスト・デュオ、ジェイ・チュン＆キュウ・タケキ・マエダ（以下J&Q）によるアーティストブック。1965～66年の2年間、無名の一鑑賞者であった西山輝夫は、前衛芸術の展覧会に足繁く通っては、詳細にメモを取り、案内状やチケットなどの配布物を収集、展覧会のすべての作品を撮影し、後に2冊のスクラップブックにまとめる。あるきっかけでJ&Qがこの2冊に出会ったことが、本書の制作に発展。本書は、3部構成でまとめられ、1部は、西山によるスクラップブックの精巧な複製。2部は、西山の手法を模倣した、J&Qによる2017年版のスクラップブック。3部は西山へのインタビューと西山のスクラップブックの英訳を収録している。

本書の魅力は、西山のスクラップブックを、単に美術資料としての記録価値だけに留めていない点にある。当時の展示会場の臨場感や熱量を正規の記録には残らなかったもうひとつの記録として伝えている。J＆Qは西山の写真を、作品との距離感や観客の写り込みなど、専門家の展示写真とは全く異なる性質であることを見出した。その手法を模倣することで、現在の展示も、過去と地続きであることを強く感じさせ、そのことがまた、西山が写した写真を活き活きと蘇らせる。美術界の外側にある一鑑賞者の行為を、アーティストが模倣し作品として提示することで、それを美術界の内側に組み込んでしまうこと。アート作品であり出版物である本書（本作）は、「美術史」の内側と外側から、本というフォーマットの新たな可能性を示している。

オランダの写真家、アン・グリーンによる辞典的な写真集。オランダで最も都市化が進むロッテルダムの市民向け分区園のひとつ（235番）を観察し、見つけたものを仔細に記録・分類していたもの。落ち葉、花々、昆虫や両生類など、245平方メートルの園に存在するさまざまなもの、または雲や雨など自然の事象を、ときには顕微鏡写真や最初期の写真印刷技術であるソルトプリントなども駆使して、記録している。大小さまざまの定点観測から見て取ることができる、たくさんの生物と、絶え間ない気候や風景の変化。たった一軒の周囲の出来事や事象ですら、とても一冊にまとめることは出来ないのだという驚きと、それが一冊に美しくまとめられているという驚きを同時に見てとることができる。

UTRECHT / NOW IDeA
アート・デザイン・ファッションなどの書籍を取り扱う神宮前のブックショップ。
ギャラリーが併設された店内には、普段お目にかかることの出来ない国内外のインディペンデントパブリッシャーやアーティストのZINE、書籍などが多数並ぶ。

〒150-0001
東京都渋谷区神宮前5-36-6 ケーリーマンション2C
tel: 03-6427-4041
12:00～20:00
月曜休み（祝日の場合は翌日）
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